第10話



 カーンが冒険者ギルドの試験を受けた時に話は戻ります。


 冒険者ギルドは無頼漢やフリーランス、求職者集めそれらの人に職業を安定させる為の場所です。


 この世界では宿屋の子は宿屋に、石工職の子は石工というように代々とその歴史と職を血縁者に継がせます。場所によっては醜業(しゅうぎょう)婦でさえも子供に継がせる親も……


 次男次女などなどが、職にあぶれ大きくなり、丁稚や養子や家業のサポートとして働けない時に登録する…… 冒険者ギルドとはそんな場所というのが市民一般の認識です。


 ただ、魔物退治や戦争参加で英雄になる場合もあり、民衆の評価は悪い物ではありませんでした。


 そんな場所にまだ子供のように見えるカーンが来た。

 しかも、悪い噂が絶えない商人と一緒です。


 ギルドの受付としては一度、商人と引き離して改めて話を聞くべきだと、それで能力(アビリティ)を調べて簡単な仕事をさられるか検査・・するべきだと考えました…… が、カーンは商人と笑顔で試験を実施するギルドの鍛錬場へ向かいました。


 「はあ…… 」何も分かってないのね。やっぱり子供ね。

 物を知らない子供とギルド受付職員は判断しますが間違いです。カーンの人生はこれぐらいのプレッシャーなら息をするぐらいに余裕でなのでした。


 冒険者ギルドの試験において剣や魔法の能力(アビリティ)判定は大人の登録者がする事で、成人したばかりや児童の年頃は体力の測定をもってギルドの登録者として判定されます。


 子供は魔物退治などではなく、まずは体力仕事の派遣からだとしたギルドルールが近年できたからで、それ以前のギルドでは子供にも弱い魔物退治の依頼なら割り振っていました…… が。


 もともと、この世界の人の数は少ないです。

 それに加えてギルドに登録する子供が魔物退治に出てどんどん死んでしまいました。


 お分かりになると思います。人口が非常に減り問題となったのです。


 娯楽少なく、しかし英雄譚を好むのが子供でなのです。子供は割りの良い仕事として外の世界に刃を向けました。しかし弱い子供達…… ゴブリンに殴り殺され、スライムに溶かされ…… 骨格、身長、筋肉が大人なら怪我で済みますが、子供達は一撃で死んでいきました。

 

 ギルドの幹部連は多国籍の王や要人からのオファーで制度を刷新、まだ職員が戦闘の現場に出るのは早いと判断する子供は肉体労働で体を作り時期を見て魔物退治の仕事を振り分けるとなります。


 「カーン君、これを持ち上げてくれるかな?」

 「はい!」

 幼く見えるカーンに30キロはある石のブロックを運搬出来るかの試験がはじまりました。

 そう、子供の試験は重労働に耐えれるか?というものでした。


 冒険者ギルドの鍛錬場には筋肉トレーニング用の区画があります。

 そこでカーンは実力を見せていきます。


 30キロの石を持ち上げ、40、50、60キロになっても余裕な顔をするカーンにギルド受付職員は口の端をヒクヒクとさせます。


 ジャンプ力、物を押す力…… 全てがベテラン冒険者と同程度。商人は良い物を見つけたと心の中で大笑い。

 「ちょ!ちょっと待ってカーン君!こっちに来て!」

 「はい!なんでしょう!?」

 カーンはギルド受付職員に別室に案内されます。

 商人の目つきに怪しむ職員は別室への入室を断りました、これはカーンには良かった事でした。


 「えっとね、カーン君…… あなたのステータス確認をしたいの。プライバシーに深く関わる事だけど…… いいかな?」

 「えっと、何か分かりませんがお金が稼げるなら大丈夫です!」

 カーンは同意書に自分の名前をサインして差し出された水晶玉に手を乗せました。


 フーッとカーンの掌を通り抜けて光る水晶玉の上には文字や数字がならびます。


 「うそ…… こんな…… 数値に能力(アビリティ)なんて…… 」

 どうやら、この水晶玉はカーンの力を確認する為の魔道具らしいですが、カーンは思います『人の力なんて数字に出来ないよ、強い奴隷も岩に当たればあっけなく死んだし、生き埋めになったらヒョロヒョロでも筋肉凄くても子供でも同じに死んじゃうんだし』そう思い早く終わらないかなぁ…… とため息をつきました。


 ──────「それで、ギルド登録が出来たのかい?」


 「うん、そうだよ!明日から働くからね爺ちゃんはゆっくりして!」

 食べ終わった皿を魔法で溜めた水で洗いながら爺ちゃんに朗笑(ろうしょう)とした声でカーンは答えました。


 夜、カーンが明日から仕事だからと早く寝ると、ずっと考え事をしていた爺ちゃんは未明頃にお金を置いて家を出ました。

 暫(しばら)く暮らせるぐらいのお金は持って行きましたが、それでもカーンに悪いとさえ思いました。


 爺ちゃんは外から自分の牧場を見ます。

 朝の日が空を照らし始め、辺りを照らします。

 爺ちゃんの目はカーンが眠る部屋へ…… カーンの寝姿を思い出しただけで心が暖かくなります。

 爺ちゃんはばあちゃんとカーンと過ごした時間がなによりでした。


 我が子の足枷になるのは嫌で、爺ちゃんは家を出ました。

 

 冒険者として働けるならカーンは大丈夫。

 この家を残してやれれば暮らしていける。

 お荷物となる自分がいなければ簡単な仕事でも食っていける。

 

 爺ちゃんの大きな間違いで勘違いです。

 カーンはそんな事を望んでいません。


 カーンの手から、また…… スルスルと幸せが零れ落ちました。


 爺ちゃんとカーンは、この後、永遠に会う事はありませんでした。






※醜業婦

特定の職業を卑下する言葉です。時代考察がかなり昔で地球ではない世界の事なので御留意下さい。

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