第10話 元アウトロー牧師の開拓教会

 この教会なら、開放的な気分になって、神を信仰できるなんて人もいるぐらいだ。

 日本はキリスト教国家ではないので、いわゆるいかめしい、権威ある礼拝堂だと行きづらい人もいるだろう。

 しかし、ここなら大衆居酒屋のつくりなので、気軽に入りやすい。


 礼拝の内容は立派なものである。

 神をたたえ、聖書第一にしている。もちろん献金も伝道の強制はしない。

 そしてその後は、各自が持ち寄った料理で交わりの時間が始まる。

 もちろん、高級オードブルのようなきれいな盛り付けではないが、手料理の温かさがある。家族で、鍋物を囲むような和やかな雰囲気である。

 これなら、家族の愛を求めている人でも、この教会では体験できるだろう。


 やはり、刑務所から出てきた人のなかには、家族から勘当される人もいる。

 また、分籍といって戸籍を別にされたというケースは、珍しくない。

 その孤独感から、余計新たな犯罪に走る人も少ないない。だから、刑務所は再犯率が六割だという。

 ちなみに少年院は三割、しかし、女子の場合は母親との仲がうまくいくと更生できるという。

 また、この頃は、女子刑務所のなかで腰ひもをつけて出産するケースもある。

 俺はそれをなんとか、食い止めていきたいと思う。

 もちろん、イエス様の力で。


 突然のサプライズが入った。

 俺と一緒に、菅田牧師のプレハブ生活をしていた元アウトロー仲間が、菅田牧師の教会の北陸伝道所の伝道師として就任されたというのである。

 奴と俺とは元同業者といっても、俺は元事務所は関東中心、奴の所属単体は関西中心の巨大広域派。

 奴は俺の通っていた神学校の後輩にあたるが、関東派と関西派、二大アウトローのコラボレーションだなんてタイトルで、漫才をしたものだ。

 一度だけ、大ケンカしたこともあったっけ。奴が俺のことを「麻薬ボケ」と言ったのが原因だった。

 まあ、第三者から見たら、そう見えても仕方ないだろうな。それだけ麻薬は、後を引くのだ。

 現在、麻薬常習者の数は若者を中心に増加傾向にある。

 しかし、麻薬は本人だけでなく、家族や周囲の者にも、被害を及ぼすのだ。

 この恐ろしさも、伝えていきたいと思う。


 こういう活動をしていると、迫害はつきものだという。

「まことにまことにあなたがたに告げます。

 イエスキリストを信じ、敬虔に生きる人は誰でも皆、迫害を受けます」(聖書)

 なぜなら、犯罪者の裏には、必ずそれを操っている奴や、犯罪者を利用して甘い汁を吸っている奴が存在しているのだ。

 ひょっとして、命の危険もあるかもしれない。

 しかし、俺は主の兵士である。

 人間いつかは死が訪れる。病死、事故死、自殺、殺人など、いろんなケースがあったが、誰でも生まれたからには、死ぬときが訪れる。

 俺は一度、古い自我と共に死んだ身である。いや、現在生きていること自体が奇跡かもしれない。だって、俺は他人から憎まれ、殺されても不思議の無い人間なんだから。神様はこんな俺を生かして下さっているということは、俺にしかできない使命があるということである。

 どうせ死ぬなら、神と共に働き、神の共に死にたい。

 そうすれば行先は、天国である。

「もはや私が生きているのではなく、キリストが私の内に生きているのである」

(ガラテヤ2:20)

「肉体を殺しても、魂まで殺せない奴を恐れるな」(マタイ10:28)

「私たちの敵は、肉体をもった人間ではなくて、悪魔とそれに従う悪霊どもの大勢力である」(エペソ4:11-16)


 俺は以前ほど、死を恐れなくなった。

 アウトロー時代の俺なら、間違いなく地獄行きだったが、今の俺がイエス様と共に生きてるから天国行きかもしれない。その安心感から生ずるものだろう。

 教会外で俺の理解してくれる牧師も増えつつある。教会の信者も増えつつあるが、それに伴い、新たな問題も生じてくるのは当たり前だ。

「私が切実に期待し、また望むことは、どのような場合にも恥じないで、いつもと同じように、今も大胆であって、生きるにしても死ぬにしても、私自身、身をもってキリストのすばらしさを実証したいことである。

 私の場合、今生きているのは、私ではなくキリストであり、死さえも決して無益ではない」(ピリピ1:20-21)

 しかし、俺はイエスの為に生きていく。

 地の果てまで、死というゴールまで。

 そんな俺を、おかんはハレルヤ、アーメンと賛美してくれていた。


 END(完結)


 

 

 

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