10話.[決めなくていい]

「はぁ、昨日は酷い目に遭ったぞ」


 約束はしていなかったけど急遽来るということになってこれだった。

 とりあえずは色々な意味で寒い思いを味わっただろうし温かい飲み物を渡しておく。


「で、好きだとか言われて喜んだ人があなたですか?」

「なんで敬語……、それに好きだと言われて嫌な気持ちになるのは相当不潔な人から言われた場合とかに限るでしょ?」

「……ま、そういうことにしておいてやる」


 なんとかこの件に関しては終わらせることができたみたいだ。

 それにあの夏希に対して再度はっきり言えたんだから満足している。

 以前までであれば、……考えたくもないなあ。


「それよりすっごく寒かったぞ、これからもっと酷くなると考えるとうへえってなるな」

「でも、意外と悪くないよ? 夜景とか見たら綺麗だろうし」

「そこに行くまでに、そして夜というだけで勘弁だよ……」

「楓って意外と寒さに弱いんだね」

「いや、誰だって寒いのには弱いと思うぞ……」


 そうか、程度の差があるだけで基本的にはね。

 本当に珍しく雪が降った際にはキンキンに冷えすぎて部位が赤くなるぐらいで。

 それに比べたら春や夏の方がいい気がする。

 夏はとにかく薄着を心がければ多少は……マシになる程度か。

 逆に冬も着込めば同じようなもので……。


「ほ、ほら、冬は温かいご飯がより美味しくなるからっ」

「夏も普通に美味いぞ?」

「はい……」


 と、とにかく、どの季節もそれなりのメリットがあるわけだ。

 食事も入浴もどの季節も気持ちがいいから冬! とか、夏! とか決めなくていい。

 これを言ってしまったら身も蓋もないけど……仕方がない。

 人によって好みが違うから正解なんかはないからだ。


「というか、それは正直どうでもいいんだ」

「うん」

「問題なのは夏希がいまでも高頻度で千尋のところに来ることだな」

「でも、いたいって言って聞かないんだよね」


 一緒にいられるのはいまでも嬉しい。

 だけど楓から怒られるリスクと彼氏さんから怒られるリスクがあるから怖いんだ。

 やはりもう過去の状態とは違うんだ。


「まあいい、夏希には彼氏がいるんだからな」

「いいの?」

「ああ、だって小さい頃から一緒にいるんだろ? そんな人間とはいたいと思うのがいない私でも普通だと思うからな」

「ありがとう、ちゃんと来たときは言うから」

「別にいい、千尋と夏希が浮気するとは思っていないし」


 信じてくれているのは嬉しいな。

 よし、しっかり距離感というのを保ちながら生きていこう。

 それでも楓相手なら……。


「おわっ、なんだっ?」

「嬉しかったからさ」

「ふっ、それならよかったよ」


 いつものそれを取られてしまったけどどうでもいい。

 この関係のままでいられるように頑張ろうと決めたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

62作品目 Nora @rianora_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説

64作品目

★0 恋愛 完結済 10話