09話.[なんでだろう?]

「私はね、千尋ともいたいんですよ」


 床に寝転んでゆっくりしていたらいきなりそれだった。

 最近はよくこう言われるから本当にそう思ってくれているんだなって信じられる内容のものではあるけど……なんでだろう?

 もしかして彼氏さんになにかを言われたのかな?


「何故なら千尋のことが好きだからです」

「彼氏さんに怒られるよ? この前のでちょっぴり怒られたんでしょ?」

「それとこれとは別です、私はとにかく千尋も好きなんです」


 好きだと言ってもらえるのは普通に嬉しい。

 でも、いまとなっては楓とそういう関係だから怒られそうで怖かった。

 意外とちくりと刺してくることがあるからね……。

 だからこれがこの前まで危惧していたことということだ。

 僕にとっては異性である彼女といると彼女から恨まれかねないという話。

 彼氏さんにとっては彼女が他の男といると不安になるという話で。


「もっと前にそう言ってくれていたらなにかが変わっていたかもしれない、だけどいまはもう違うんだよ」

「うん、分かってるよ」

「だから……そういうことは思ってくれていても言わないでほしい」

「……そうだね、でも、いたいってことぐらいはいいでしょ?」


 結局、自分の決めたことも守れずに頷いてしまっていた。

 あの一ヶ月続いた喧嘩のときからそう。

 本当に情けない人間なのは確かだった。

 けど、そんな人間とも一緒にいたいと言ってくれている子がふたりもいる。

 ……正当化みたいになってしまうけど卑下することはしない。


「それより今回のことは言ってあるの?」

「うん、ちゃんと言ってあるよ」

「もしかして最後……だったり?」

「え? ううん、そんなことはないよ、そもそも私がそんなことにはさせないし」


 そうかと安心してしまっている自分がいる。

 だって小さい頃からずっと一緒にいる存在だしな。

 二度あったチャンスを無駄にしてしまった時点で離れることなど不可能で。


「それならよかった、夏希が怒られるようなことにはなってほしくないしね」

「その点は大丈夫、怒りっぽい人じゃないから」

「知ってるよ」


 知っていたのと勇気が出なかったのもあってなにもできなかったんだから。


「そういえば今日楓ちゃんは?」

「寒すぎて家から出たくないんだって」

「えー、弱いなあ、私なんて他市から来ているのに……」


 しかもそのうえで駅からの距離を歩いてきているわけで。

 まあ、自宅近くの駅まで電車で来ればもっと楽なんだけど。


「よし、叱っておこう」

「程々にしてあげてね……」


 こういうときは夏希が強いからもうどうしようもない。

 とにかく弱めにしてと頼むことしかできなかった。

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