『制服と隣の席』

 あの日初めて着た新品の服は新品のまま。ひどい花粉症だったというのに、今はもう春はただ楽しいだけの季節であった。

 特に何を考えるわけでもなく、学校の中を歩き回る。目的は何も無いけれど寄った職員室は誰もいなかった。ああ、そうだ。今日は入学式か。

 私は和希と一緒になりたくてこの学校に入学した。残念なことにクラスは違ったけれど、隣のクラスで登下校の時間も一緒になった。あのころの気持ちを思い出すと心がキュンキュンする。

 入学式に出席する生徒達の顔はまだ幼い。緊張が伝わってくる。可愛らしいと感じた。時代は巡っていくのだ。私を置いて。保護者の席に勝手に座って、入学式を眺めていた。お母さんもお父さんもみんな嬉しいのだろうか。隣に座っているおじさんの顔を見る。ふと涙が流れた。私の目から。あれ、おかしいな。なんでだろう。

「和希⋯」

 私に気づくことなく、おじさんになった和希は生徒席の自分の子供を愛おしそうに眺めている。

 私はここにいるべきではなかった。時代は流れていたんだ。

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日々に組み込まれた怪異は【短編集】 小柳とかげ @coyanagi_tokage

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