歌声を聴くと、人々はそれを誰が歌っていたのか忘れてしまう。
これは、そんな特殊な能力を持つ歌い手『アオ』の物語です。
世間のみならず友人や家族にすら忘れ去られてしまった、人気バンドの元ボーカル・アオ。
二度と歌わないと心に決めていたにも関わらず、唯一自分を覚えていた少女・トウカの誘いで、大学の軽音サークルに入ります。
歌いたい。歌えない。
葛藤を抱えつつも、音楽に触れる楽しさや仲間たちの存在で、アオは徐々に自分の居場所を見出していきます。
瑞々しい筆致で描かれるアオのキャンパスライフが眩しく、トウカを始めサークルメンバーと過ごす時間の楽しさや尊さを感じました。
それゆえ、終盤から畳み掛けてくる展開で、一気に突き落とされる感覚に陥りました。
世界中の誰に忘れられても、誰かの心を動かしたという痕跡だけが残る。
ぽっかり空いた穴が、なおも情動を揺るがし続ける。
最後の最後、タイトルの意味がすとんと胸に落ちました。トウカはかき集めた青で、どんな言葉を綴っていくのでしょう。
結末後のことを、何パターンも想像できます。どうであれ、アオが思い切り歌っていたらいいなと思います。
一言では言い表せない、エモーショナルな読後感でした。面白かったです!