1-3 隕石と廃墟と消えた住人
翌日に
覚悟はしていたが、市街地は
「ひでぇな……」
エリカから借りた懐中電灯で路面を照らしながら、思わず
零一は、どうして記憶を失くしてしまったのだろう? 朝日を拒むほどに閉じた世界に、魂が駆り立てられるほどの出来事を、思い出せる日は来るのだろうか。
ともあれ、今の零一にできることは、通りすがりの住人たちに謝って、怪我に気をつけてもらうことくらいだ。
「君が噂の新人か。痩せてるな。ちゃんと食ってるか?」
「寝てないんじゃない? 目の下、酷い
「薄着だと風邪をひくわ。古着屋の場所は、エリカちゃんに教えてもらった?」
「若いねえ。この町は若者よりも大人のほうが多いから、ヒロ君とユアちゃんは喜ぶだろうね。いや、喜ぶのはユアちゃんじゃなくて、アユちゃんのほうか」
〝常夜〟の住人たちは年齢も性別もばらばらだが、確かに子どもよりも大人のほうが多いようだ。しかしこの話しぶりでは若い住人もいるようなので、いずれは出会うことになるのだろう。すぐには全員の名前を覚えられないかもしれないと正直に懸念を告白すると、リーダー格らしい男性の住人にからからと笑い飛ばされた。彼らは零一に親切で、何くれとなく世話を焼いてくれた。おかげで自転車屋にも連れて行ってもらえたのは
「あの、俺、手ぶらで〝常夜〟に来たから、お金とか持ってないんですけど……」
「お代はいいよ。ここにある自転車は、どれも以前の住人の置き土産だしな」
――以前の住人の、置き土産。がらんとした自転車屋は、エリカの部屋同様に灯りがなく、懐中電灯を持った零一たち以外に、人の姿は見当たらない。埃をかぶった自転車という無機物に支配された空間で、零一は慎重に訊いてみる。
「ここの店主、どこに消えたんですか」
「君も、すぐに分かるようになるさ」
零一の質問に、誰も正確な答えを寄越さなかった。少しだけ不服に感じたことが伝わったのか、周囲の者たちは顔を見合わせて笑っていた。嫌な笑い方ではなく、どこか寂しげな笑い方だった。
「本当に、すぐに分かるようになるさ。今くらいは、異世界に迷い込んだようなピクニック気分を満喫したらいい。……ただ、ここの店主を始めとした、〝常夜〟を去った者たちについて触れるなら。少しのあいだ同じ世界で暮らした者として、ここではないどこかで、幸せに生きていることを祈っているよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます