雪の日々

エリー.ファー

雪の日々

 雪が降る。

 足早に歩いていく。

 雪がうるさい。

 足早に歩いていく。

 雪が良い。

 足早に歩いていく。

 期間は短い。

 雪はきっとすぐにやんでしまうだろう。

「雪が降っていますね」

「いやあ、嫌になりますよ。雪かきもしなければならないし」

「雪だるまが作れるじゃないですか」

「雪だるまって。もうそんなものを作る年齢ではありませんよ」

「いやいや、雪だるまというのは奥深いものです」

「そうでしょうか」

「そうですよ。まず、白い肌だって当たり前ではありません。土のついた雪では、綺麗な雪だるまはできませんから、雪をえり好みする必要がある」

「言っていることは分かりますが」

「そして、パーツです。鼻や、口。手やバケツ。何もかも重要でしょう」

「ううん」

「高級なものではなくていいのです。でも、しっかりと、目、鼻、口、そういうものが分かるように配置してやる。そうすると、立派な雪だるまになるのですよ」

「愛情ですか」

「そう、愛情です。あなただって、子どもの頃におもちゃで遊んだでしょう。あの時の感覚で作るのですよ」

 雪が降り積もる町は静かである。

 しかし、家の中からは子どもたちの声がする。

 空は軍用の飛行機が飛んでいる。国旗が描かれており、それがはためいているように見えた。

 そこまで寒くはない。マフラーを出すほどではない。

「雪だるまですか」

「そう、雪だるまです」

「でも、体力もないし」

「小さくていいのです」

「どうせなら立派なものを作りたくなりますね」

「立派なものを作りたいなら、立派なものを作ればいいのです。小さくてもいいのなら小さくてもいい。雪だるまに合わせなくてもいいのです。あなたがあなたに合わせて、雪だるまを作ればいいのです」

「自分に合わせるというのなら、雪だるまを作らないという方向で話を進めたいのですが」

「それはいけません」

「いけませんか」

「雪が降っているのに、雪だるまを作らない。幸せから遠くなってしまいますよ」

「こんな国じゃあ、こんな世界じゃあ、こんな状況じゃあ、幸せから遠いのは当たり前でしょう」

「だからこそなのですよ。雪だるまを作って気晴らしとすればいい。そんな感覚でいいのです」

「確かに、雪だるまを作っている時は、熱中して忘れられるかもしれない」

「でしょう。そういうことなのです」

 遠くで戦車の砲撃が聞こえる。

 叫び声はない。

 しかし、またすぐに静かになる。

 兵隊の叫び声と、低くて重い振動が六度。

 雪はまだ降っている。

「どうです。雪だるまを作ってみては」

「まぁ、作ってみましょうか」

「本当ですか」

「えぇ、まあ」

「ぜひぜひ。楽しいこと請け合いですよ」

「あなたの言う通りかもしれませんしね。それより、あなたは随分と着こんでいますね。雪は降っていますが、今日はさほど寒くないと思いますけれど」

「急に寒くなるかもしれないでしょう。だから、目だけを外に出しているんです」

「随分と不思議な目をされていますね。なんというか、どこを見ているのか分からないというか」

「それでは、これで失礼します」

「あっ、あぁ。えぇ、さようなら」

 町に雪だるまが増える。

 ある人はスノーマンと言った。他の人は雪小僧と言った。誰かは雪人形と言った。

 スキップはしない。

 体がこぼれてしまうかもしれない。

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