IFルート 旦那様のために~美白の場合




「えーっと、これは一体···」


「あらあら、誰が発言権を与えましたか?」


「す、すみません···!」




私、花咲美白は土下座をする彼、花咲彼方を見下していた。

彼は、私の旦那様である。

屋上に呼び出されて告白をされ、天野紡や妹の黒羽ではなく私を選んだという事実に驚いたものの、私はそれを受け入れて交際した。

二人を裏切ってしまったのではないかと謝ったが、二人は残念そうな顔をしても快く私たちの交際を喜んでくれた。

そうして交際し続け、婚約を経て結婚にまで至ったわけだが、私はその愛しい旦那様に土下座を強要させている。

さて、何故こうなったのか。

理由は、ごく簡単。

彼の前に無造作に置かれたエッチな本の山々である。




「あなたも男性。こういう本が好きということも、そういう欲があるのも重々理解しています」




そう、男なら持って当たり前の本だ。

別にこれくらいで不満になったりしない。

では何故、私がこんなに大層怒っているのか。




「ですが、なんですか!?『金髪』、『眼鏡』、『爆乳』、『JK』、『上司』、『メイド』といった数々のラインナップは!?どれも私に掠りもしないではないですか!」




そう、私が怒っているのはまさにそこだ。

この本の数々の内容は、全てどれも私の属性が何一つ入っていないのだ。

私は金髪ではないし、眼鏡もかけていない。

巨乳だとは思うが、爆乳でもない。

今は校長という職務に着いているため、女子高生ではない。




「そんなに私が不満ですか?私に興味を持たなくなりましたか?」




あまりの悲しさと悔しさで、つい旦那様の頭をポカポカと叩く。

下手をすると泣きそうだ。




「そ、そんなわけないじゃないですか!俺は、ちゃんと美白先輩のことが好きですよ!?」




慌てて取り繕う旦那様だが、説得力が皆無だ。

せめて、『先生』というタイトルが一つでもあれば、まだ私は救われていたのに。




「あらあら、また敬語と先輩呼ばわりですか···昔の癖を直してと、あれほど口酸っぱく言いましたのに···」


「す、すみません、つい···」




再び頭を下げる旦那様。

だけど、私も鬼ではない。

嫉妬はするけど、旦那様の性欲を満足にみたせなかった自分にも責任はある。

しかしだからといって、無罪放免にするわけにはいかない。




「この本の山々は処分します」


「そ、そんな···!?」


「なんですか?異論は認めません」


「み、美白の鬼···」


「ほうほう?私が鬼と···?」


「な、なんでもありません!」




私が本気で怒っていると悟ったのか、それ以上旦那様は何も言わなくなった。

可哀想ではあるが、これが最大限の譲歩だ。

むしろ私としては、私のことしか考えられないほどに彼の頭を改造してやりたいくらいだ。

それを本を処分するだけで許すというのだから、寛大な私に感謝してほしい。












「―――ということがありましてですね。私は、鬼なのでしょうか?」



「それは自慢?惚気?私に喧嘩売ってる?」


「あらあら、そういうわけではありませんよ」




私は喫茶店にて、妹の黒羽に愚痴をぶちまけていた。

こういう時相談してくれるのは、妹の黒羽しかいないからだ。

実母や義母が相手だと、いつも「孫はまだなの?」と急かしてくるため相談しにくい。

別に私も欲しくないわけないのだが、そういうのはちゃんと旦那様と話してからでないと。

私一人の気持ちを押し付けるわけにはいかない。

だから、相談する身内は黒羽しかいないのだ。




「しかし、彼方がそんな本を持つとは予想外だった」


「えぇえぇ、そうですね。おそらく元々はそういう性欲はあったのでしょう。ただ、感情が壊れていたせいで変に自重してしまった。結果、感情を取り戻した際に自重しなくなったのかと···」


「単純に、美白が相手しないだけでは?」


「そんなことはありません!」




黒羽の言葉に反応してしまい、思わずテーブルを叩いて席を立ってしまった。

そんな私は他の客から注目されてしまい、その視線に気が付いた私はハッと我に返って静かに座り直す。




「···お見苦しいところをお見せしました」


「ん、少しビックリしたけど、気にしてない」


「ありがとうございます。でも、私はちゃんと相手はしていますよ?」




仕事以外は常に家に居て、旦那様が居れば隣にくっついて時間を過ごしている。

食事も、お風呂も、買い物だって一緒だ。

···まあ、さすがにトイレまでは一緒出来ないけれど。

それでも夜の営みだって、生理や疲れている時以外はほぼ毎日している。

それなのに、何故私と被らない本を持っているのか···甚だ疑問である。




「もしかして···」




私が悩んでいると、黒羽が思い付いたように口を開いた。

何か心当たりがあるのかもしれない。

期待を持ちつつ、彼女の返答を待つ。




「美白、マグロなんじゃない?」


「マ、マグロ···?」




一瞬、お魚のことか?と思ったが、こんな雰囲気で魚の話をするほどうちの妹は空気を読めない子ではない。

私も、その言葉は僭越ながら理解している。




「例えば、彼にされるがままだったり。彼のを口に咥えたり、自分から攻めたり···」


「あらあら、黒羽···ここは喫茶店ですよ?」




さすがにこんな公共の場で言うことではないと思った私は、笑顔で黒羽に注意する。

しかし黒羽は気にしないとばかりに、続けて言った。




「つまり受け身ということ。いつも彼ばかりが攻めてたら、彼だって行為が物足りなくなる。だから本に頼った。私の推理、どう?」


「むっ···い、言われてみればそうかも···」




確かに私から誘ったことはあれど、私から彼を攻めたことは一度も無い。

咥えたり跨がったことも無い。

いつも彼が私に愛撫してくれて、私はそれを受け入れていただけだった。

確かにいつも同じ行為ばかりじゃ、飽きるのも仕方なしと言えよう。




「美白に足りないもの。それは積極さとエロさ」


「せ、積極的にエロくなればいいと···?」


「肯定。彼も、きっと喜ぶに違いない」




ドヤ顔で言う妹だが、今まで彼氏を作ったこともない彼女にそんな顔をされると無性に腹が立つ。

しかし、妙に説得力があったのも事実だ。




「たまには、舐めたり咥えたり、胸で挟んでみたり、自分から動くことも大事」


「あらあら、もっとオブラートに包んでくださいね、黒羽?」


「ハッキリ言わないと、美白はすぐ誤魔化す」


「さすがの私も、普通に察しますよ···」




黒羽の明け透けの言葉には少々困るけれど、彼女のおかげで糸口が見えたのもまた事実。




「何はともあれ、ありがとうございます。おかげで、やるべきことが見えました」


「ん、礼には及ばない。不安なら私も呼んで?彼方のためなら、私も頑張るから」


「さすがに3Pはしません!」




まったく、この子も感情を学んだせいか露骨に大胆になってきている。

それはそれで嬉しいのだが、やはりぶっ飛んだ発言には気を付けて欲しいものだ。

しかし、これで私も旦那様にご奉仕が出来るとなるとなんだか興奮してくる。

良し、帰りにアダルトショップに寄ってメイド服を買っていこう。

そしてそれを着て眼鏡をかけ、大胆に攻めてみよう。

慌てながらも受け入れて喘ぐ旦那様の姿を想像すると、よだれと笑いが止まらない。




「ふ、ふふふふふ···」


「美白、怖い」




待っていてくださいね、旦那様?

今日はオールナイトで、私がずっとリードさせていただきます。





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