extra.4 クリスマスだよ、全員集合!
今日は12月25日、つまりクリスマスの日。
俺は有休を取って仕事を休み、妻の黒羽と共にクリスマスの準備をしていた。
「飾り付けはこんなものか?」
「ん、上出来」
本当なら娘の灰鳥も家には居るのだが、今夜はパーティーをするつもりなので途中で寝ないように今は寝かせている。
それに、この彩られた家の中を見て喜んでほしいという親心もある。
「あとは料理くらいか」
「下準備は終わっている」
「さすがだな」
プレゼントももう用意してあるし、後は夜を待つのみくらいか。
毎年この時期になると、灰鳥だけでなく俺も黒羽も楽しみになっている。
それは単純にクリスマスだからではなく、今日という日はそれよりも大事な日だからだ。
「黒羽、他の皆はいつ来るって?」
「桐島彩花と岸萌未は、多分もうすぐ来ると思う。桜も仕事終えたら、すぐに来る。美白と天野紡は用があるらしくて、夜でないと来れないらしい」
「ふぅん······お義母さんたちは?」
「美白と一緒に来る。灰鳥を久しぶりに可愛がりたいって」
「そっか。それは吉報だな。それで、あの人は来るのか?」
「···正直、分からない」
まあ、そうだよな。
あの人と最後に会ったのは、皆でピクニックに行った日だ。
あれから一度も会ってはいない。
そんな会話をしていると、玄関のチャイムが鳴った。
どうやら、待ち人来たりだ。
俺は玄関に向かうと、迷わずドアを開けた。
「いらっしゃい、二人共」
「久しぶり、カナくん」
「お久しぶりです。もしかして、私たちが一番早かったりしますか?」
我が家に訪れたのは、黒羽の言った通り桐島と岸だ。
二人もピクニック以来あまり会っていなかったが、年が過ぎるにつれてどんどん綺麗になっていた。
二人もまた独身らしく、俺が仕事で家に居ない代わりに良くうちに遊びに来ていたりする。
そのため、灰鳥も二人に懐いている。
「そうだよ。立ち話もなんだから、入ってくれ」
「うん、お邪魔するね」
「お邪魔します」
二人を招き入れ、リビングまで案内する。
そこには二人が来ることを予想していた黒羽が、先にお茶を淹れて待っていた。
「二人共、いらっしゃい」
「お邪魔します、黒羽さん」
「今日はよろしくお願いしますね」
さっきも言ったが、二人は良くうちに遊びに来ているので黒羽とも仲が良くなっていた。
本当に、あの頃からしてみれば今の関係がまるで嘘のようだ。
二人をソファーに座らせ、雑談をしながら時を過ごす。
話に盛り上がっていると、既に日は落ちていたので黒羽は料理を仕上げるためにキッチンに行ってしまった。
手伝うと言ったのだが、「久しぶりの歓談を楽しんで」と黒羽にやんわり拒否されてしまい、さらには灰鳥も起きてきたので仕方なく四人で会話を楽しむことにした。
そんな中、再び玄関のチャイムが鳴る。
これもまた誰か分かっているので、二人に断りを入れてから玄関に向かいドアを開けた。
「やあ、彼方。待たせたかな?」
「あらあら、お久しぶりですね。遅くなり、申し訳ありません」
「やっほ、義理の息子君!元気にしてた?」
「ご健勝のようで、何よりですね」
訪問者は予想通り、紡と美白さん、そして彼女の実母の朱葉さんと義母の薊さんだった。
「いらっしゃいませ。どうぞ、中へ。今は灰鳥も起きてますよ」
「やった!久々の灰鳥ちゃん成分を補給出来るわ!お邪魔します!」
「私も孫に会うのは嬉しいです。上がらせてもらいますね」
灰鳥の名を聞き、テンションが上がっているらしい母二人は嬉しそうな顔で中へ進んだ。
やはり、孫というのは嬉しいものなんだなと考えていると、紡と美白さんがそっと俺に耳打ちをしてきた。
「彼方、例のものは用意出来たよ」
「少々手間取りましたが、良い出来です」
「本当か?凄いな、二人共。あんなのを作れたなんて、さすがとしか言いようがない」
先日、紡に相談した際にあるものを作るという提案をされたのだが、たった数日の間に作ってしまうとはさすがだ。
「まあ、黒羽さんの力も多少借りたけどね」
「あらあら、それは仕方ないことですわ」
そう、この計画を進めるには黒羽の力も必要だったので、黒羽には事情を話して協力してもらったのである。
その際、二つ返事で即答されたのには少し驚いたが。
なんにしても、完成したなら良かった。
「それで?例のものは?」
「もちろん持ってきてるよ、ほらここに」
そう言う紡の傍らには、少々大きめのキャリーケースが置かれていた。
なるほど、その中に入っているのか。
これは面白くなってきた。
特に、灰鳥がどんな反応をするのか今からとても楽しみである。
「ありがとう、紡、美白さん」
「ふふっ、貸し一つだからね?」
「ちゃんと覚えておいてくださいね?」
「ああ、分かってるよ」
二人に貸しを作るのは少々面倒くさいことになりそうだが、四の五の言っていられる状況ではないので甘んじて受け入れよう。
しかし、灰鳥が気に入るかは分からない。
上手くいけばいいが。
「それじゃあ、二人も入ってくれ」
「ああ、お邪魔するよ」
「あらあら、失礼致します」
二人もリビングに招き入れ、この小さな家には似合わないほど大所帯になってしまった。
だが、まだ来客は二人ほど残っている。
いつ来るのやらと思っていたら、紡たちの到着から数分後に玄関のチャイムが鳴った。
さて、待ち人はどっちかな?
「こんばんは、お兄ちゃん!久しぶりだね!」
「おう、桜。元気にしてたか?」
玄関を開けた先には、仕事が終わったばかりであろうスーツ姿の妹、桜の姿があった。
あれからますます美人になり、職場でも大人気なのだそうだが、やはり未だ独身中の身。
その理由を訊ねてみたら、「お兄ちゃんみたいな人、もしくは越える人!」と言って言い寄る男共をフッてきたのだという。
妹の俺に対する買い被りが凄い。
感情を取り戻した今、俺はごく普通の人間なんだがなぁ···。
まあ、いいか。それも本人の気持ちだ。
「私は元気だよ!灰鳥ちゃんや黒羽は相変わらずなの?」
「ああ、まあな」
「お兄ちゃん、せっかく出来た家族なんだから大事にしてね?」
「ああ···もちろん、お前のことも大事だよ」
俺は寂しそうに笑う桜の頭を優しく撫でながら、慰めるように言った。
そうだ、黒羽や灰鳥だけじゃない。
桜だって、立派な俺の家族だ。
ちなみに俺の両親とは桜が連絡を取り合っているらしいが、俺はまだ二人には会っていない。
別に縁が切れたからとか、嫌いだからという理由ではない。
なんとなく、会わないだけだ。
「あれ?賑やかだね。もしかして、私が一番最後だったりする!?待たせ過ぎちゃった!?」
中から賑やかな声が聞こえ、桜は焦ったように慌てるが、俺は笑顔で否定することにした。
「気にするな。お前が最後じゃない、あとあの人にも招待はしておいた。来るか分からないけどな···」
「そ、そっか···」
安心したような、でも複雑そうな顔をする桜。
まあ、こればかりは仕方ない。
「お前が気に病むことは無い。賭けみたいなものだったし、ピクニックに来たこと自体驚きものだろ?」
「確かに、そうだね」
「だから来るか来ないかはあの人次第。さあ、 いい加減に入れよ。俺を独り占めしたって、黒羽と灰鳥に散々言われるぞ?」
「あはは、それは勘弁だね。じゃあ、お邪魔しまーす!」
こうして桜も家に入った。
やはりあの人は来ないのかと内心寂しくなるものの、これもまた彼女が決めたことだ。
諦めたほうがいいんだ。
そう思ってリビングに戻ろうとすると、玄関のチャイムが耳に届いた。
まさか···来てくれたのか?
淡い期待を寄せつつ玄関のドアを開けると、最後に招待していたあの人が立っていた。
「あ、あはは···久しぶりだね、ダーリン。いや、今はハナっちかな?元気にしてた?」
そう、訪れたのは過去、俺たちに悪意を向けた張本人、月ヶ瀬杏珠その人だったのだ。
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