黒幕との決着
第81話 遂に合間見えた黒幕との邂逅
「さて···行こうか、黒羽さん」
「ん、言われるまでもない」
ボクと黒羽さんはそれぞれインカムを付け、目的地である彼方が捕らえられている廃ビルへ向かい走った。
途中、インカムから声が流れる。
『聞こえていますでしょうか?美白です』
「うん、感度は良好だよ」
「ん、当然。私の自信作」
『あらあら、それは良かったです。そのまま真っ直ぐ進むと、何やら怪しい人物たちがうろうろしていますので、その先にある路地裏を抜けてください』
「了解した」
やはり待ち伏せされているようだ。
怪しい人物とは、おそらく月ヶ瀬杏珠の息がかかった信者たちだろう。
どうやって動かしているかなど知る由もないし興味もないが、このまま向かっては危険だ。
ボクたちは美白さんの指示通りに動き、路地裏を抜けて目的地へ急ぐ。
「···ここ、か?」
その甲斐あって、特に何もなく目的地の廃ビルへと辿り着いた。
『残念ながらその先は、町の防犯カメラの目が行き届いていない場所です。私たちのサポートはここまでとなります』
「いや、充分だよ。ありがとう、美白さん」
彼女らのサポートがなかったら、おそらくボクたちは既に捕まっていたことだろう。
ここまででも充分に役に立ってくれた。
「美白さんたちには、月ヶ瀬杏珠に叩きつける証拠の整理をお願いします」
『あらあら、分かりました。何かありましたら、連絡してください。では、ご武運を』
そう言い、会話が終了される。
さて、ここからが本番だ。
何が待ち受けているか、分からない。
今一度、気を引き締め直さなくては。
「黒羽さん、覚悟はいいかい?」
「愚問。今さら」
「確かに、その通りだね。すまない、今さらな質問をしたね。じゃあ、行くよ」
ふぅ、と小さく息を吐いてから歩を進める。
ビルの入り口には見張りとなる者はおらず、難なく中に入ることが出来た。
だが、歩いている途中で気が付く。
「電気が点いているね」
廃ビルだというにも関わらず、蛍光灯の灯りが所々に点いていた。
「間違いなく人が居る」
黒羽さんのその言葉に、身体により一層緊張感が走る。
だが、今さら引き返すことはしない。
警戒して進み、一部屋ずつ注意深く確認しながら歩く。
そこでボクは、ふとした疑問を黒羽さんに訊ねてみた。
「黒羽さん、どう思う?」
「ん、明らかにおかしい。人が居ない」
やはり、そうか。
そう、このビルにはボクたち以外の人が全然居ないのだ。
見張りの件といい、この状況はボクたちにとっては好都合だが、なんだかおかしい。
「罠の可能性は?」
「ん、90%の確率」
「···まあ、そうだよね」
明らかに罠だ。間違いない。
しかしここに彼方が居る以上、引き返しても意味がない。
何のために、ボクたちはここまで来たんだ。
「大丈夫。私たちに何かあっても、美白たちが何とかする」
「···そうだね」
事前にそのような取り決めをしていたから、ボクたちに何かあれば美白さんたちが警察を呼ぶ手筈になっている。
とはいえ、慎重に歩を進めなくては。
せめて、彼方の姿を一目見るまでは。
「···黒羽さん、アレはどう思う?」
「ん、多分正解」
警戒しながら進み、階段をいくつも昇った階の一番奥の部屋。
そこは明らかに灯りが漏れていて、誰かが居るような気配がしていた。
黒羽さんの言う通り、おそらくあそこに彼方が居るのかもしれない。
しかし、慌てて踏み込むような愚かな真似はしない。
「···行くよ、黒羽さん」
「ん、了解」
ボクたちはゆっくりとその部屋に近付き、ゆっくりとドアノブを回す。
鍵はかかっておらず、すんなりと部屋のドアは開かれる。
少しだけ開け、中を確認する。
なんだか物が散乱している部屋だが、一番奥は綺麗に何もなかった。
その中央に、椅子にもたれ掛かって項垂れるように座る人物が居るように見える。
「···あれは、彼方?」
「良く見えない」
その人物が座る場所には蛍光灯の光が当たっておらず、薄暗くて顔が判別出来ない。
しかし、体型や身長からして彼方の可能性は非常に高い。
確認するためにも、黒幕の罠であっても部屋の中に入らざるを得ない。
「入るよ、黒羽さん」
「ん、了解」
意を決し、中に突入を試みる。
静かにドアを開け、辺りを警戒しながらその人物へ近付いていく。
近くに寄って項垂れる顔を覗き込むと、やはりその人物は花咲彼方その人であった。
「彼方···!良かった···!」
あまりの感動に思わず彼を抱き締めた。
暖かい。久しぶりに感じる彼の感触と体温。
あぁ、彼方だ。紛れもない彼方本人だ。
偽物なんかじゃない、ボクにはそれが嫌でも良く分かる。
「···何か様子が変」
黒羽さんがそう呟き、ボクは感動の再会に頭が動いていなかったため、言われてハッとして気が付く。
そうだ、明らかに彼方の様子がおかしい。
いくらボクらに関心が無くなったとはいえ、こんなにも無反応なのは絶対に変だ。
「···彼方?」
ボクは彼方の顔を再度確認すると、言葉を失うほど驚愕に目を見開く。
彼の瞳は虚ろでボクの姿を映さず、顔はまるで粘土細工の仮面を付けたように無表情。
ボクらがこんなに近くに居るのに、まるで気が付いていない。
心あらず、壊れた人形そのものだ。
「まさか、手遅れ···!?」
「うん、惜しい。後一歩かな?」
ボクが発した言葉に返したのは、黒羽さんではなかった。
背後から唐突に声が聞こえて振り向くと、そこには部屋の入り口に佇む一人の人物が立っていた。
頭からフードを被っていて顔は確認出来ないが、その胸の膨らみと体型から女の子と容易に想像が付く。
「···君が黒幕かい?」
彼女の登場は予想していたため、そこまで驚かなかった。
それに、彼女の正体には目星も付いている。
「あはっ、もう既に分かってることじゃないかな?私の正体にさ」
「···ああ、そうだね」
「だったら、余計な腹の探り合いはしないほうがいいと思うよ。もうさ、ズバッと言っちゃいなよ?」
人を小馬鹿にしたような態度で笑いながら言う彼女の言葉に甘え、ボクはその正体を明かすために口を開いた。
「そうだね、月ヶ瀬杏珠。もう、コソコソとするのは止めようか?」
そう言うと、彼女の口元が歪んだ。
「あはっ···きゃははっ!アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァッ!!」
あの時、ゲームセンターで聞いたような狂った笑い声が静かな部屋に反響した。
ただ、あの時よりさらに恐怖が増しているような気がする。
彼女はひとしきり笑った後、「ふぅ···」と小さく息を吐いた。
「うん、正解だよー。私が―――あたしが、すべての黒幕。良く分かったねー?」
フードを脱ぎ、その顔が露になる。
そこには、歪んだ笑顔をした月ヶ瀬杏珠その人がそこに居た。
ただその表情は以前見た時とは異なり、まるで別人のようにも思えた。
「やっぱり、あなたたちは優秀だったかぁ。少しだけ予想外だったよ。正体に行き着くのは想定内だったけど、こんなにも早くバレるなんてさ!」
「月ヶ瀬杏珠。あまり私たちを甘く見ないほうがいい」
黒羽さんが恐れることなく彼女にそう言うと、月ヶ瀬杏珠は「あはっ」と嗤った。
「いやいや、甘くは見てなかったよ。あたしの考えが当たってて、逆にドン引きするくらいだよー」
「ご託はいい。彼方に何をした?」
黒羽さんの声には怒りが込もっていた。
おそらく、ボクも似たような声を出していただろう。
そんなボクらの声など意に介さず、月ヶ瀬杏珠はまるで子供のように、あっけらかんとした口調で答えた。
「何って?当然、彼方を壊しただけだよ?」
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