第80話  決戦に向けての最後の集い




「さて···それでは皆、覚悟はいいかい?」




ボクたちはそれぞれやるべきことを終え、再び生徒会室へ集合していた。




「当然」


「あらあら、もちろんです」


「わ、私も大丈夫です!」




ボクの言葉に、全員が頷く。

これから始まるのは彼方救出にあたり、絶体に避けては通れない月ヶ瀬杏珠との対決だ。

相手が相手なだけに、どのような手段でボクたちを妨害するか分かったものじゃない。

生半可な気持ちでは、彼を救うことさえ困難になる。

それが分かった上でボクは皆に訊ねたのだが、聞くまでもなかったということか。




「分かった。だが、ここから先は少数精鋭、もしくは手分けをして乗り込むほうが無難だね」


「あらあら、そうですね。彼女はおそらく、私たちを迎え撃つための罠を設置している可能性があります。全員で乗り込んでしまえば、一網打尽にされて全滅ですから」




美白さんの言う通りだ。

相手は目的のためなら手段を選ばない人だ。

当然、こちらへの妨害や罠も考えられる。

だからこそ、ツーマンセルが好ましい。




「うん。そんなわけで組み合わせを考えたいんだけど···まず突撃組とサポート組に別れようと思う」


「ん、それが理想的」




当然、突撃組は危険が大きく伴う。

何が待ち受けているのか分からないのだから。




「ボクは突撃組だ。美白さんは病み上がりのためサポート役に回したから、パワーバランスを考えれば、黒羽さんか桜さんが適正かな」


「私が行く」


「言うと思ったよ」




確認するまでもなく、黒羽さんが挙手をして立候補してくれた。

まあ、彼女なら行くと言って聞かないだろう。




「それじゃあ、突撃組はボクと黒羽さん。サポート組は美白さんと桜さんに任せたい」


「あらあら、言われるまでもありませんよ」


「はい、分かりました!」




サポート組には、ボクたちのフォローと情報の整理、証拠となる資料を揃えてもらう。

それを伝えると、黒羽さんが鞄の中から何かを取り出してボクたちに手渡してきた。




「じゃあ、三人にこれを渡す」


「黒羽さん、これは···?」


「見ての通り、インカム。スマートフォンだと連絡が取りづらいし、バレやすい」




なるほど、確かにそれはその通りだ。

スマートフォンで連絡を取り合っていたら、さすがに感付かれる可能性はある。




「それと、この部屋を美白に託す。この部屋でなら、全ての映像をチェック出来るから」




そう言って、黒羽さんは自身が愛着を持つ秘密部屋を指差した。

どういうことかと訊ねようとする前に、美白さんが口を開いた。




「実はですね、黒羽と話し合った結果、この町の町長と取引を交わして防犯カメラをチェックさせてもらうことになりました」


「ん、それを使えば例え月ヶ瀬杏珠が何か―――例えば信者を使って妨害しようとしても、防犯カメラで先に逐一報告してもらえば回避しやすくなる」




内空閑姉妹の言葉に、ボクと桜さんは唖然と口を開けていた。

待って、どういうことだ?

訳が分からないと混乱していると、桜さんが慌てた様子で二人に訊ねた。




「ど、どういうことですか!?この町の防犯カメラをチェック!?えぇ、意味が分かんないですけど!?」


「あらあら、驚かせてしまったようでごめんなさいね?でも言った通りです。この町の全ての防犯カメラは私たちが掌握しました」


「ん、肯定。これで向こうが何かしてきても、事前に察知することが出来る」




いや、その前にどうして町長とそんな取引を交わせたのかがボク的には一番の謎だ。

何か弱味でも握っているのだろうか?

というか、本当に美白さんは一体何者?

あれこれ聞きたいが、聞いてはいけないような気がするのはボクの気のせいだろうか?




「え、えっと···とにかく、その映像を確認しながらボクたちをフォローしてくれる、ということで間違いないかな?」


「正解。これで問題ない」




確かに怪しい人物や信者たちが居た場合、それを回避出来るのは正直ありがたい。

なら、ボクたちが向かう最短で安全なルートを確保してもらい、何かあれば連絡するという形で美白さんと桜さんに心置きなく任せよう。




「なんだか思いがけぬ大きな力だけど、だからといって油断は出来ないけどね」


「ん、賛成」




何はともあれ、これで方針は決まった。

後はボクたちが月ヶ瀬杏珠に対峙する際に、念のための自己防衛用としてスタンガンを用意。

さらに彼女へ引導を渡すための証拠と弱点を、美白さんと桜さんに整理してもらう。

ボクと桜さんが用意した切り札は、事前に会ったあの人のおかげでより強力なものとなった。

愛に餓えている彼女には、おそらく有効的なものになるだろう。





「黒羽さん、念のために確認するけど、彼方が囚われているであろう場所は?」


「ん、この町の廃ビルの一室」


「それ自体が罠という可能性はあるんですか?」


「無いとは言い切れないけど、私の母がこの期に及んで嘘は言わない」




ボクと桜さんの質問に、黒羽さんは確かな強い口調でそう言い切る。

彼方が囚われている場所には、おそらく月ヶ瀬杏珠一人が待ち受けているとは限らないだろう。

校長先生以外にも、ひょっとしたら協力者が潜んでいる可能性は充分にある。

用心しなくては、と思いながら美白さんのほうを向いて言う。




「美白さん。ボクたちに何かあれば、すぐさま警察を呼んでくれますか?」


「あらあら、えぇえぇ、分かりました。ただ、あなた方も充分お気を付けくださいね?」




そんなことは百も承知だ。

しかし危険と分かっていても、ボクらは行かなくてはならない。

何故なら、彼を愛しているのだから。

その気持ちに嘘はないし、例え彼から二度と信じてもらえなくても構わない。

ボクらは、ボクらのやりたいようにやるだけなのだから。




「では美白さん、桜さん。後はよろしくお願いしますね?」


「あらあら、承りました」


「はい!紡さんたちもお気を付けて!」


「ん、任せて。必ず彼方を連れ帰る」




ボクらは四人頷き合い、再び全員が集まることを願って離れた。

美白さんと桜さんは黒羽さんの部屋に入り、ボクと黒羽さんは揃って生徒会室を後にする。




「ねぇ、黒羽さん?」


「なに?」


「これで彼方を助けたら、彼方はまたボクたちを信じてくれるかな?笑ってくれるかな?」


「···それは分からない。でも、そのために私たちが動くわけじゃない。私たちは、私たちが救いたいから行く。ただ、それだけ」


「ははっ、確かにそうだった。すまない、愚問だったね」


「ん、まったくその通り」




並んで歩くボクの質問に、黒羽さんは淡々と返すだけだった。

ここに彼方が居たら、きっとやれやれといった具合で仲裁するんだろうなぁ。

彼方を取り戻したら、またそんなありふれた日常が帰ってくるのかな。

そんなことを思いつつ、ボクは彼方救出のために改めて誓うのだった。

今度こそ、彼方を救ってみせると。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る