第76話 黒幕はやはりあの人!?
「皆、情報は手に入ったかな?」
あれから数時間後、ボクたちが住むマンションの部屋にてボクたちは再び集まっていた。
「ん、問題無い」
「私も、大丈夫です」
黒羽さんと桜さんが頷いて返す。
ある程度の情報を掴んだので、ここら辺で情報を共有しようと集まってもらっていたのだ。
情報は共有しなければ、連携することも不可能だからね。
だが、皆一様に顔色が悪い。
無理もないか。ボクだって気分が悪い。
だが、焦って情報を見落としてはいけない。
「よし、では桜さんから話してくれるかい?」
「は、はい。私が紡さんからお願いされた情報の裏付けですよね?」
「うん、そうだよ。月ヶ瀬杏珠は、本当に彼方の···いや、君たちの従姉だったのかい?」
「はい···お母さんから聞いた限り、間違いないようです。それと、月ヶ瀬杏珠さんの父親、『花咲一真』と私の母親、『花咲舞桜』が兄妹で、今も定期的に連絡を取り合っていることが分かりました」
「なるほど、やはりそうか」
予想はしていた。
いくら一族から追放されたとはいえ、兄妹の絆が消えるわけではない。
何らかの形で連絡を取り合っているのだろうと踏んではいたが、正解のようだ。
「それとですね、勝手かもしれないんですけど、『花咲一真』の―――月ヶ瀬杏珠の現住所も聞いてきました」
「本当かい?それはナイスだよ、桜さん」
ボクは桜さんの頭を撫でて褒めると、彼女は目を薄めて「えへへ」と嬉しそうに笑った。
彼女の現住所は、学校に問い合わせても生徒会のボクらでも情報は開示されない。
それが分かっていたから、桜さんのファインプレーには感謝してもしきれない。
住所が割れれば、他にも出来ることはあるからだ。
「次に、黒羽さん。ボクの頼んだことは出来ているかい?」
「当然。私を誰だと思ってる?」
自信満々に言い放つ黒羽さんは、ドヤ顔で胸を張った。
どうやら彼方のスマートフォンの解析は、無事に終了したようだ。
「さすがだね。何か分かったかい?」
「彼方が警察や救急車を呼んだのは間違いない。そして、ある重要な事実が判明した」
「それは···?」
「彼方は、ボイスレコーダーに黒幕との会話を残してた」
「本当かい?」
それが本当だとするなら、それもまたファインプレーだ。
スマートフォンのデータの復旧は並大抵のことでは出来ないらしいが、メモリーチップに保存されているなら復旧は可能という話を聞いたことがあったので黒羽さんに任せたが、ボクの判断は正しかったようだ。
「肯定。そして、その内容もプリントアウトをしてきた」
そう言って、黒羽さんは鞄から資料を取り出してボクたちに手渡した。
そこには、確かに彼方と黒幕との会話の記録が一字一句間違えることなく書き写されていた。
その資料を読み、驚愕する。
彼方が過去に関わってきた事件全てが、実は黒幕が裏で糸を引いていたという事実が記されていた。
「そんなバカな···じゃあ、黒幕は幼少期から既に狂っていて···?」
確かに月ヶ瀬杏珠が黒幕だとすれば、彼女の過去からしても精神が狂ってしまうのは仕方のないことだ。
だが、まさか小学生の頃から既に危ない奴だとは夢にも思わなかった。
元々壊れていた人が、イジメや虐待でさらに壊れてしまった。
そう考えると、少しだけ同情してしまう。
「そして、黒幕の音声と月ヶ瀬杏珠の肉声を照合した結果、ほぼ同一人物だということが判明した」
「な、なんだって!?」
さらっと聞き捨てならないことを言った黒羽さんの言葉に、ボクと桜さんは同時に目を丸くする。
予想というかほぼ確定的に怪しんではいたが、黒羽さんの技術でほとんど断定したことに驚いたのだ。
やはり黒幕は、月ヶ瀬杏珠だったのか。
「じゃあ、そのデータを元に月ヶ瀬杏珠さんを問い詰めれば···!」
桜さんの言葉に、ボクは頷いて返した。
こんな完璧な証拠があれば、有利的に彼女を追い込むことが出来る。
ただ言い逃れはしないとは思うが、素直に白状するのかは疑問だ。
ボクはそんなことを考えながら、スマートフォンを取り出して病院に連絡をする。
看護師に取り次いでもらい、美白さんと情報を共有した上で月ヶ瀬杏珠を取り押さえてもらうためだ。
『あらあら、お待たせ致しました。お電話変わりました、美白です』
「あぁ、美白さん。急にすまないね」
『いえ、それは構いませんが···何か緊急な話でしょうか?』
「うん、実はね···」
ボクは、黒羽さんが引き出した情報を美白さんに伝えた。
『なるほど、やはりそうでしたか』
「だから、美白さんには彼女を取り押さえてほしいのだけど···」
『それについて、残念な報告があります』
「···なんだい?」
『どうやら月ヶ瀬杏珠は、ほぼ強引に退院をなさったようなのです』
「な、なんだって!?」
美白さんの話によれば、つい先程月ヶ瀬杏珠は医者の反対を押し切って、半ば無理矢理に荷物をまとめて退院をしたらしい。
あまりにもタイミングが良すぎる。
まるで、こちらの手の内を読んでいるかのようだ。
『不覚でした。必死に止めたのですが···』
「なるほど、事情は把握した。ちなみに、彼女一人で病院を後にしたのかい?」
『そうらしいですね。ただ、誰か病院の入り口まで車で迎えに来たらしいのですが、残念なかまらそこは確認出来ませんでした』
「そうか···」
『申し訳ありません、私としたことが油断してしまいまして』
「いや、退院とはボクも読めなかったから仕方ないさ。ありがとう、教えてくれて」
お礼を言い、会話を終了させて電話を切る。
スピーカーにしていたため、ボクたちの会話を横で聞いていた桜さんがポツリと呟いた。
「何故、このタイミングで退院なんか···」
「おそらくだが、ボクたちが裏でコソコソと嗅ぎ回っていたのを察知したのだろうね。それで念のため身を隠す目的で退院したんだ」
まるで犬のような人だ。
こちらが何をしているのかまでは分からないだろうが、彼女は自分が怪しまれていると踏んだのだろう。
だからボロが出る前に、多少怪しまれても退院することを選んだ。
なんというか、危機察知能力が高い人だ。
「じゃあ、もしかしてお兄ちゃんのところに···!?」
「ん、可能性は高い」
桜さんの危惧した通りだろう。
そこまで無茶をして、怪しいと思われながらも無理矢理退院した理由はそこしか無い。
彼女は目的である彼方を手に入れた。
そして、おそらくこれから彼方の心を壊すつもりなのだろう。
それこそが彼女の最大の目的なのだ。
だからバレても構わないと思ったのかもしれない。
「まずいね、一刻の猶予もならない」
「肯定。だけどわ彼方が監禁されている場所が分からない以上、手の打ちようがない」
「そう、ですね···どこを探したら···」
二人は悔しそうな表情を浮かべるが、ボクはまだ手が残されていることに気が付いていた。
少々危険だが、もはやこれしか手は無い。
「二人とも、ボクはこれから多分人の道を外れた行動を取る。だから、君たちに今一度問う。それでも、ボクと共に彼方を助けるかい?」
「当然、今さらな質問」
「はい。私も覚悟は決めましたから」
ボクの問いに迷うことなく即答する二人。
やれやれ、ボクが言うのもなんだが、この二人も大概まともじゃないね。
まあ、黒幕と決着を望むんだ。
まともな神経ではいられないのだろう。
「分かった、じゃあボクに付いてきてくれ」
「何処に行くつもり?」
黒羽さんが訊ねてきたので、ボクはふっと笑いながら答えることにした。
「黒幕の協力者に会いに行って尋問する」
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