第35話 糾弾するキレた親友
「さて、それでは話し合いといきましょうか」
彼方と黒羽さんが退席したのを見届けてから、美白さんが彼の家族に向き直る。
ボクも出来れば彼に付き添っていたかったが、彼の家族には言いたいことがたくさんあったので不本意ながら黒羽さんに任せることにした。
「まず最初に、私たちが出向いた理由についてご説明させていただきますね」
「ん?君たちは彼方の友人だから、遊びに来たのではないのかい?」
「あらあら、それももちろん理由としてはありましたが、今回は大切な用件があって参りました」
彼の父親が怪訝そうに顔をしかめる一方で、美白さんがいつものようにおっとりとした態度で向き合う。
その彼女の言葉を聞き、彼の父親が不安そうな表情を浮かべておそるおそるといった感じで割り込む。
「あの、大変失礼ながらお訊ねするが···まさか、うちの息子が何か仕出かしたとかでは?例えば、先日そちらの高校で起こした事件のような···」
ああ、やはりだ。予想通りだ、間違いない。
彼方から聞いていた通りの人物像だ。
今すぐ大声で否定してやりたいところだが、一応は彼の親だ。
彼のためにと我慢しようと、きゅっと唇を固く結ぶ。
そんなボクの心中をよそに、美白さんは相も変わらず笑顔を浮かべている。
「あらあら、そんなことはありませんからご安心ください」
「そ、そうですか···」
露骨に胸を撫で下ろす彼の父親。
見ていて不快だ。殴りたくなってくる。
「では、お話を戻しまして。私たちが赴いたのは、彼を正式に我が生徒会に迎え入れたというそのご報告をしに参りました」
「せ、生徒会···!?一体、何故そのような···?高校で起きた事件では彼方は被害者とはいえ、当校に多大な迷惑をかけた。それに、彼方には長所がない。生徒会に入って維持出来るとは、とても···」
美白さんの報告に、焦ったように彼の父親が立て続けに捲し立てる。母親も驚いている。
違う、そんな言葉を聞きたいわけじゃない。
やはり、彼らは何も分かってはいない。
「あらあら、それは私たちが決めることです。彼には、ちゃんと私たちが欲している力がありますよ。ご心配無く」
「いや、しかし···えっと、生徒会長の内空閑さんといったかな?彼方は、まだ若輩者だ。人様に迷惑をかけるとも限らん」
くそ、ダメだ。怒りが沸々と沸き上がってくる。見ていられない。
母親のほうは何か思うところがあるのか口を挟まず事の成り行きを見守り、妹さんのほうは何か言いたげではあるが、ボクと同じような顔をしてぎゅっと握り拳を作っていた。
まさか、この子···?
「あらあら、そちらもご心配無く。私たちがちゃんとサポートしますので」
「それはありがたいが、普通は逆なのでは?そもそも、コミュニケーションが苦手な彼方が本当に入りたいと言っているのかが疑問だ」
そこで、ボクは遂に堪忍袋の緒が切れた。
本当は最後まで聞いてから話したいことを全て話そうとしたけど、心がもはや我慢出来なかった。
ボクは机をバンッと強く叩き、立ち上がって彼らを見下ろす。
そんなボクの行動に驚いたのか、彼の家族は驚いてボクに視線を向けた。
美白さんは気にも留めず、出されたお茶を飲んでいる。マイペースな人だ。
あぁ、ごめんよ、彼方。君の家族に暴言を吐くボクをどうか許してくれ。
ボクは彼らを睨み付け、我慢していた言葉を吐き出す。
「さっきから黙って聞いていれば!あなた方は、本当に彼方のご家族なのか!?」
「な、なんだね、いきなり···当たり前じゃないか、私たちはあの子の―――」
「黙れ!そんな妄言など聞きたくない!いいかい?普通の親は、子供を疑うようなことはしない!長所が無い?若輩者?ふざけるな!あなた方は、彼のことを何も理解していないじゃないか!それが本当の親なのか!?」
「な、なんだと···?」
「親なら、頑張ろうと前を向こうとする子供を応援して、見守るのが当たり前だろう!?それを言うに事欠いて、人様に迷惑をかけるだと!?あなた方は、まだそんなことを気にしているのか!それが親か!?」
ボクの剣幕に押されているのか、彼らはたじろぎながらも必死に抵抗をしようと反論してくるが、ボクは
そうだ、親なら当然するべきことを彼らは何もしていない。
何処の世界に、頑張ろうとする子供を貶す親が居るのか。
何処の世界に、前を向こうとする子供のことを理解すらしようとしない親が居るのか。
そんなもの、家族でも何でもない。
「あ、当たり前だろう···?私たちは血縁上でも、れっきとした家族だ!」
「血が繋がってるだけだ!それで果たして、本当に親と呼べるとでも!?いいかい?ボクは、あなた方が彼にしてきたことは全て知っている!」
「な、なに···?全て···だと···?まさか···」
「勘違いしてもらっては困る。世間の噂で知ったんじゃない。ボクが彼から直接聞いたことだ。彼は、友人であるボクに何でも話してくれた。過去はもちろんのこと、趣味嗜好、好き嫌いある食べ物、その他何でもね!」
「そ、そんな···」
父親が青ざめ、母親は目に涙を浮かべ、妹さんが辛そうに唇を噛み締めている。
彼らにも分かったのだろう。自分たちが知り得ない息子の全てを、友人であるボクが知っていることに。
家族には話してくれず、友人に話すその理由を。
だからボクは敢えて指摘する。彼らにその罪を理解させるために。
「あなた方は、息子に····彼方に信用されていないんだ。だから話さなかった。当然だ。信じようとしなかった彼に信じてもらおうとするなんて、
「うっ···い、いや···しかしそれは···」
「彼を蔑ろにする理由は!?信じなかった理由は!?世間の目があったから?自分たちの保身と名誉のため?それこそ、ふざけるな!あなた方は、家族よりも世間を優先するのか!?だとしたら、とんだ毒親だ!」
「ど、毒親···!?わ、私たちは、そんなつもりじゃ···うぅ···っ」
母親がボクの言葉にショックを受けたのか、泣き崩れてしまったが、ボクは一切容赦しない。
彼方を守ると決めた。
敵には容赦しないと、ボクは彼に誓ったのだから。
「あなた方は気付いていたのかい?彼方の表情が、いつもとは違うことに···。被っていた仮面を、彼は今はもう着けていないんだ」
「えっ···?」
今度は、父親が呆けたような顔をした。
母親も泣きながら、目を見開いている。
妹さんは涙を流して、でも我慢するように歯を噛み締めていた。
あぁ、やっぱり妹さんは薄々気が付いてはいたようだ。当たり前だ、注意深く見れば分かることだったのだ。
それを両親はしなかった。本当に救いようがない。
「あなた方は救われないね、憐れだ。息子のそんな一歩前に踏み出した勇気さえ、ろくに気付こうともしなかった···。そんな人たちが家族?笑わせるな!あなた方が先程言った言葉は、彼を侮辱するような発言だ!恥を知るのはあなた方だ!形だけ彼に寄り添おうとするあなた方に、ボクは心底軽蔑する!」
彼のことを思えば思うほど、次々と文句が山のように溢れて口に出す言葉が止まらなくなる。
そんなボクを落ち着かせるように、美白さんは「あらあら」と笑顔でボクにお茶を差し出した。
「落ち着いてください、天野さん。そんなに怒ると、お肌に悪いですよ?ほら、これでも飲んで落ち着きましょう」
こんな時でもマイペースな美白さんにすっかり毒気が抜かれてしまい、ボクは荒れた息を整えるために差し出されたお茶を飲む。正直、味は分からなかった。
「···すみません、取り乱しました」
「いえいえ、彼や私たちの心を代弁してくださって嬉しい限りですよ。ねぇ、花咲彼方君?」
「えっ···!?」
ボクが驚いて振り向くと、そこには黒羽先輩と共に立つ彼方の姿があった。
しかも、何故か手を繋いで。
これは、ちょっと後で尋問だね。
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