第23話 犯人判明、君の名は。
「着いた。入って」
まだ授業中にも関わらず、俺と内空閑先輩は誰も居ない廊下を歩いて着いた先は―――
「···生徒会室?」
学校の心臓部とも呼べる、多数の生徒の中から選ばれた生徒会。
そんな彼らが集まる部屋に、一般生徒の俺が招かれていた。
「えっと、いいんですか?一般の生徒である俺が入るのは不味いんじゃ···」
「問題無い。私が許可する」
男らしい台詞を淡々と言い放ち、内空閑先輩は俺の手を握ったまま中に引き入れる。
もうそろそろ離してほしいと思っている俺の心が通じたのか、俺が中に入ったところでその手を離してくれた。
正直、助かった。先輩、握力が強いせいか結構痛かったからな。
恥ずかしさより、痛みのほうが上回っていた。
「着いてきて」
安心しているのも束の間、内空閑先輩はまだ歩き出し、生徒会室のさらに奥へと進む。
そこにはまたも扉が設置されており、少し異様に思えた。
···部屋の中に部屋?
しかもその扉には貼り紙が貼ってあり、『内空閑黒羽以外立入禁止』という表記がされていた。
「あの、先輩?この部屋は···?」
「私の専用部屋」
生徒会役員とはいえ、ただの一生徒が専用の部屋を持っていることに驚く。
しかも、そこは本人以外立ち入り禁止なのだそうだ。
何者なんだ、この人?
「疑問?」
「いや、まあ···色々と気になるところではありますが···」
「そのうち分かる」
どうやら、自分のことを教えてはくれなさそうだった。
他人興味がなかった俺でも、彼女については色々と知りたいことはあるが、ひとまずそこは置いておくことにしよう。
あまり首を突っ込んで、せっかく信じてくれた人を不機嫌にはさせたくない。
そう納得するように自分を説得していると、内空閑先輩は制服のポケットから鍵を取り出してそれをドアノブの鍵穴に差し込んだ。
「どうぞ」
「えっ?いや、でも···俺、一応他人ですよ?」
「問題無い。私が許可する」
先程と同様、男らしい台詞を言った内空閑先輩はその部屋のドアを開ける。
その部屋の中は、まさに異質を極めていた。
まず目に止まったのは、いくつものモニターが設置してある壁。
そして、素人目では良く分からない機械が乱雑に置かれていて目の前の机には一台のパソコンとキーボード。
「あの···先輩?この部屋は一体···?」
「ん、秘密基地」
秘密基地というより秘密組織が使っていそうな部屋だ。
内空閑先輩は俺の唖然とした様子に目もくれず、椅子に座ってパソコンを起動させている。
「あの、ここで何を···?」
「情報収集」
「情報収集?」
「犯人探し」
片言しか話さない内空閑先輩だが、なんとなく言いたいことは分かった。
つまり、この部屋を使って俺の机に落書きした人物を特定すると言っているのだ。
「···そんなこと、出来るんですか?」
内空閑先輩のことを信じていないわけではないが、どうにも信憑性に欠ける。
しかし彼女は起動したパソコンに目を向ける。
「任せて」
それだけ言うと、慣れた手つきでキーボードとマウスを操作し始めた。
「もしかして、内空閑先輩は機械に強いんですか?」
「肯定。この機材たちも自作」
「じ、自作!?まさか、パソコンも?」
「自信作」
ブイ、と可愛らしくピースをする内空閑先輩。
俺は、驚きを隠せなかった。
この部屋にある機材全てが内空閑先輩の手作りだとしたら、本当に彼女は一体何者なんだ?
素直に驚いている俺をよそに、内空閑先輩は作業を進めている。
機械に疎い俺は、彼女が何をしているのか良く分からない。
「ん、見付けた」
不意に、内空閑先輩は呟いた。
見付けた?まさか、犯人を?こんな数分の作業で?
いや、決めつけるのは早計だ。
まずは、彼女に確認を取らないといけない。
「内空閑先輩、見付けたとは?」
「犯人」
俺の予想通りだった。
こんな短時間に犯人を特定するとは、夢にも思わなかった。
しかし、パソコンで作業しているのと犯人特定とどう繋がるのか俺には理解出来ず、内空閑先輩に訊ねることにした。
「一体、どんな方法で犯人を?」
「ん、まずはモニターを見て」
壁に設置されているいくつものモニターが同時に起動され、そこに映像が流れる。
「えっ···これって···?」
映し出された画面には、校門、昇降口、廊下、各教室、職員室、体育館、屋上と、この学校のありとあらゆる背景が全て表示されていた。
「なんで、こんな映像が···?」
「あれ」
内空閑先輩は、窓を指差した。
そこにあったのは、防犯カメラだった。
学校に防犯カメラが設置されているのは、今の時代そう珍しくはない。
俺でも知っているが、全国の学校における防犯カメラの設置率は全体の半分ほどを示しているらしい。
その大半の理由として、不審者対策や子供が犯罪に巻き込まれないためらしい。
まあ、今はそれは置いておくとして、俺が気になったのはそこじゃない。
「まさか、内空閑先輩···防犯カメラを?」
「ん、肯定」
「先輩、ハッキングは犯罪ですよ···」
一瞬驚いたが、すぐに顔から血の気が引くような感覚を覚えた。
ハッキングは、立派な犯罪である。
俺が実行したわけでも命令したわけでもないが、このままだと本当に先輩共々犯罪者に成りかねない。
呆れる俺に、内空閑先輩は「否定」と首を横に振った。
「ハッキングにはならない」
「そ、それは何故です?」
「理事長からの依頼。私、警備システムの担当者。この防犯カメラも私の自作」
「···はい?」
何を言っているのか、一瞬良く分からなかった。
落ち着いて、彼女の言葉を整理する。
つまり、彼女はこの学校の理事長からの依頼で、この学校の防犯カメラは内空閑先輩が作り、それを彼女自身で管理、警備しているということらしい。
それが本当だとしたら、なんというハイスペックな持ち主なんだ。
「そ、そんなことあり得るんですか···?」
「私、嘘は言わない」
にわかには信じがたいが、この機材と防犯カメラの映像を見る限り信じるより他はないようだ。ある意味、敵に回したくない。
唖然とする俺に、内空閑先輩は片言で説明を始めながらキーボードを操作する。
「まず大前提。机に落書きされる時間、他のクラスメイトが登校していないことが条件」
なるほど、確かに誰かに俺の机に落書きをする場合は誰にも見られずに行動する必要がある。
「おそらく、落書きをした時間は朝一番」
「何故、朝一番だと?」
「簡単。夜は学校に忍び込めない。無断で侵入すると、防犯カメラが作動してブザーが鳴る」
なんだ、それは?
どこかのお屋敷か何かか、この学校は?
警備が厳重過ぎて、逆に引く。
愕然としつつ、俺は内空閑先輩に確認を取る。
「つまり、防犯ブザーが起動した様子はないと?」
「肯定」
なるほど、それなら彼女の説明には一応納得がいく。
つまり夜は侵入不可能であり、落書きを残すためには部活で通う生徒たちよりも先に早く登校して教室に入る必要がある。
と、そこまで考えて俺はハッと気が付いた。
「じゃあ、朝一番に教室に入った奴が犯人で、その様子も防犯カメラに···?」
「正解。犯人は短絡的で浅慮」
まあ、防犯カメラがあるにせよ一生徒がその映像を入手するとは犯人も思わなかったのだろう。少し同情してしまう。
「じゃあ、犯人は一体···?」
「ん、映す」
そう言って、内空閑先輩はマウスを動かして防犯カメラの映像を犯人が入る瞬間にまで巻き戻していた。
そして移ったのは、周囲を気にしながら教室に入っていく一人の女子生徒。
その姿に、俺は見覚えがあった。
「こいつは···」
西川愛莉。元幼馴染みである桐島彩花の親友を名乗る女だった。
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