第21話 凄惨な過去を救ったヒーロー
ボク、
成績は常にトップ、どんなスポーツも完璧にこなしていた。
そのため、周りから神童と呼ばれるようになった。
両親も先生も、とても喜び褒めてくれた。
年の離れた兄も、ボクを撫でてくれた。
しかし、そんな順風満帆な日々は終わりを告げる。
何でも出来るボクをやっかむクラスメイトたちに、ある日からいじめを受けるようになったが、その時のボクの行動は迅速だった。
勇気を出して両親に告発し、衝撃と怒りに震えた両親は学校へ訴えた。
しかし、それは功を為さなかった。
ボクと同じクラスでいじめの主犯格である生徒の親が県会議員であり、私へのいじめを外部へ出さないように学校へ揉み消すように働きかけたのだ。
全ては、自分たちの保身のために。
自分たちが良ければ、子供一人をどん底に突き落としてもいいと考える奴は最低だ。
両親も怒ったり泣いてボクに謝ったが、彼らは何も悪くはない。
ボクと同じ被害者なのだから。
そこから、ボクへのいじめはますますエスカレートしていった。
数人から暴行を受けるようになり、身体にいくつもの痣が出来るほどになった。
そんな私を見ていた先生たちも、我が身可愛さに見て見ぬ振りをしていた。
こんな奴らが聖職者とは嗤わせる。
こいつらは、何を教えるために教育者になったのだ···?
ボクは、絶望と無力を感じて彼らを呪った。
そんなある日、事件が起きた。
ボクは数人の生徒に呼び出され、暴行の末にレイプされかけたのだ。
パニックになったボクは、命からがらといった感じでその場から逃げ出した。
人間は、なんと醜いのだろう。
自己愛が強く、自らの欲を満たすためならどんなことにも手を染めてしまう。
ボクは、その日から部屋に引きこもる生活を送り始めた。
心療内科の医師である兄は、ボクの心のケアとカウンセリングを行ってくれたおかげで、徐々にではあるが回復していった。
そんなある日、転機が訪れる。
引きこもっていたボクは誰でもいいから愚痴を聞いてほしくなり、チャットで話し相手を募集した。
そこで、一人の男の子と知り合う。
名前は『彼方』と言い、ボクと同い年の少年で、彼も同じく凄惨な経験をしたらしい。
そんな彼に同族意識を感じ、互いの愚痴を言い合っていていた。
けれど、ここでボクは彼の過去を聞いて愕然とする。
幼馴染みだった少女に騙され、仲良しだった友達に裏切られ、家族からも見放されたという。
何が同族意識だ。ボクにはまだ家族という味方が居たが、彼には味方となってくれる人が一人も居なかった。
そんな彼から、驚きの言葉を聞かされる。
『お前は、それでいいのか?』
「えっ···?」
『俺はもう手遅れだけど、お前にはまだチャンスがある。希望がある。なのに、そこで挫折するのか?』
「そ、んなことを言われても···ボクは、何も出来ない···無力なんだ···」
『いいか?無力は罪じゃない。何もしないのが罪だ。確かに勇気が必要なことかもしれない。でもな、後悔に逃げる選択を選ぶな。選択を間違えるな。今、お前は何がしたい?』
その言葉で、ボクは目が覚めた。
そうだ、彼の言う通りだ。逃げるな。戦え。
例え無力でも構わない。戦える力は無いかもしれない。
それでも、何もしない選択肢は無い!
ボクがしたいこと。それは―――
「なんだよ、こんなところに呼び出して。はっはぁーん、もしかして俺たちに犯されたくなったのかなぁ?はっはぁっ!」
ボクはある日学校に赴き、ボクを苛めていた県会議員の子である男子とその取り巻き連中、そしてボクをレイプしようとした生徒たちを呼び出した。
下衆な奴らだ。反吐が出る。憎たらしい。
でも怖い。逃げ出したい。
憎悪と恐怖が入り交じり、身体が動かない。
助けを求めたくなる。でも、ここで逃げては駄目だ。彼がくれた勇気を、今ここで出すんだ。
ボクは彼らを睨み付け、震える声で話す。
「私を苛めないで···許してください···」
そんなボクの嘆願を聞いて呆気に取られた連中だったが、可笑しそうにゲラゲラと笑う。
「おいおい、許すわけねぇだろ?これからお前は、俺らの性奴隷になるんだよ!泣いても叫んでも許してやらねぇ!お前は、俺を満足させる道具でしかねぇんだ。くくっ、思いっきり犯してやるから覚悟しろよ?」
「なんで、私なんですか···?苛められるようなことは、何もしてないのに···」
「はぁ?バカじゃねぇの?そんなん、気に入らねぇからに決まってんだろ?いつも良い子振りやがってよ···くだらねぇんだよ!だから苛めた!良いストレス発散だったぜ?それの何が悪い?これからも、苛め抜いて犯し尽くしてやるからよ。地獄を見せてやるぜ、ははっ!」
卑しく笑い、一歩また一歩と近付いてくる。
彼らの魔の手が、ゆっくりとボクに忍び寄る。
彼の手がボクの身体に触れた瞬間、それが作戦成功の合図だった。
ボクは、思わず笑みを浮かべてしまう。
「なに笑ってんだ、お前?もしかして恐怖で頭がおかしくなったかぁ?」
「は、ははっ···地獄を見るのは、君たちのほうですよ。これ、なんだか分かります?」
そう言って懐から取り出したのは、ボイスレコーダー。
それを見た彼らは動揺を隠せず、一気に顔が青ざめていく。
「まさか、てめぇ···!」
「そう、鈍いあなたたちでも理解出来ました?あなたたちが私を苛めたという自白、レイプしようとした証言、ばっちりとこれに録音されていますよ」
「ハッ、バカじゃねぇの?そんなもん、奪って消してしまえば証拠にはならねぇよ。それに、俺の親父は県会議員だ。不都合は全部揉み消してくれる。残念だったなぁ?だから、それを大人しくこっちに渡せ」
余裕そうな顔を浮かべる彼だったが、そんなことは想定済みのボクは呆れたように溜め息を吐く。
「確かに、この程度の証拠では不十分です。でも、私は証拠がこれ一つとは一度も言ってませんけど?」
「なにぃ?」
「もういいですよ。撮れましたよね?」
勝利を確信したボクは、確認するように大きく声を張る。
すると、物陰から一人のスーツを着用した女性が出てきた。
「いやぁ、バッチリだよ!本当にこれはスクープだね!まさか、県会議員の息子がこんな犯罪を犯してたなんて!」
「あぁ?誰だ、この女?」
「これは申し遅れました。私、スクープ雑誌の記者です。この子からリークがありましてね?いやぁ、それにしても恫喝にイジメ、果てはレイプ未遂ですかぁ。これは特ダネですね!あぁ、ちなみに今、警察も呼ばせていただいてます」
「なっ···!?」
彼らの顔が絶望へと変わる。
そうだ、こいつらのこんな顔が見たかった。
ボクは邪悪に嗤い、追い討ちをかける。
「あぁ、ちなみにこの一部始終は彼女が動画で撮り、既に会社へ送信済みです。ここまで言えば、発情した猿でもさすがに分かりますよね?あなたがたは、ここで終わりです」
「そ、んな···」
彼らは、愕然としてその場に座り込んだ。
逃げても無駄だと悟ったようだ。言い訳しようにも証拠はすでに揃っている。
そんな彼らに、ボクは侮蔑の眼差しで見下した。
「ざまあみろ」
ボイスレコーダー、記者へのリーク、動画の証拠、それらを記事にしてしまえば警察も動くより他はなく、親の県会議員の力でも揉み消すことは出来ない。
その予想は当たり、ボクを苛めたりレイプしようとした連中は等しく退学処分となって、主犯格の少年を始めとした何人かの生徒たちも少年院へと連行されるらしい。
取り調べにて色々と余罪が発覚し、長期処遇という処罰が課されるらしいが、もはやボクにはどうでも良いことだ。
そして主犯格の親である県会議員は、いじめを揉み消していたことで炎上し、辞職に追い込まれて逮捕されることになり、事態を重く見た県の教育委員会は黙認していた学校に重い処分を下した。
その時のボクは、最高にスカッとした。
全て、彼がボクに与えてくれた勇気のおかげだ。ボクは彼に救われた。暗闇から助けてくれた。
その時、ボクは決めた。
『恩人』である彼の心を、無くしてしまった感情を、ボクが取り戻させてあげると。
ボクだけは彼を裏切らない、唯一無二の友達でいようと。
「そうさ···ボクは、あの日彼から救われた。あの言葉があったから、今のボクが居るんだ···だから、今度はボクの番···」
桐島彩花でも岸萌未でもなく、家族でもなく、ボクだけが彼のことを愛している。
あの腹黒ギャルやぽっと出の女なんかには負けない。絶対に負けてなるものか。
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