第13話 友達と行く初めてのゲーセン
男子諸君からの熱烈な視線を背に受けながら昇降口を出たはいいものの、未だに『つむぐ』は俺から離れようとはしなかった。
まあ、これが『つむぐ』のスキンシップというのであれば別に止めはしない。
むしろ心地好さを感じる。
「それはそうと、『つむぐ』。家は何処だ?」
「ん?あぁ、そう言えば言ってなかったね。ボクの家は、『パーソン』の横だよ」
『パーソン』は、大手コンビニエンスストアの一つだ。
俺の家にも一軒あり、俺はあまり使用しないが妹は頻繁に出入りする。
何故使用しないのかは、単に金の無駄遣いだからだ。
俺は両親から毎月お小遣いは頂いているが、全額を豚さん貯金箱に寄付している。
俺にお金をかけるのは無駄遣いだし迷惑だろうと一度両親に打診したものの、両親は泣いて謝ってばかりで頑なに俺へのお小遣いをあげてきた。
好きなものを買っても良いと言われたが、昔母の舞桜さんが『お金を使う暇があるなら勉強しなさい!ただでさえご近所に白い目で見られているってのに···』と説教を受けていたので一円も使わずにいた。
それが功を奏したのか、豚さん貯金箱はもうすくでいっぱいになる。
ぶひぶひと鳴く日も近いだろう。ぶひぶひ。
「なるほど。しかし隣は、タワーマンションが建っているんだが···?」
「そうだよ?そこがボクが住んでいるマンションさ」
「そうだったのか···」
なるほど、なんという格差社会。
これが平民と貴族の差か。
まあ、冗談はこれくらいにして。
「ねぇ、彼方。ちょっと寄りたいところがあるんだけど、いいかな?」
「む···?いや、しかしあまり遅くなると、舞桜さんや妹に迷惑が···」
「ちょっとだけだから!ね?」
時間はまだ下校時間なこともあり、15時を過ぎたばかりだ。
いつも学校が終わる度に、どこにも寄らずに家に帰宅していた。
それも舞桜さんが『寄り道なんてしないで!ただでさえ、あなたは問題児なんだから!これ以上、お母さんを困らせないで!』と言ったためだ。
だから迷惑をかけないためには、いち早く家に帰る必要があるわけだが···さて、どうしよう?
「そんなに時間は取らせないし、何かあればボクが彼方を守るから!」
女の子に初めてそんなことを言われた。
ちょっとかっこいい。
彼女の剣幕に押されてしまった俺は、仕方なく首を縦に振った。
まあ、あまりに遅くなるようなら連絡を入れれば良いか。
「やったー!ボクの勝ちー!」
「む···何故、負けた···?」
場所は変わって、俺たちはゲームセンターで遊んでいた。
本来なら俺が関わることもなく、またそんな金も持ち合わせていなかったのだが、『つむぐ』は「いいから!ボクに奢らせて!」と懇願されてしまい、遊ぶ金も彼女に奢らせてしまっている。
普通は立場が逆である。
「すまない、『つむぐ』。奢ってもらった代金は、明日立て替えて返そう」
「気にしなくてもいいってば!」
申し訳なさで俯く俺に、『つむぐ』は人差し指で俺の鼻を突いた。
「いいかい?ボクは、君に見返りや立て替えを要求するために奢ったじゃないんだよ?」
「違うのか···?」
「あくまでも、友達だからさ。友達なら、奢るのも普通のことなんじゃないかな?」
「そういう、ものか···?」
「そんなもん、そんなもん!」
いかんせん、俺はこういう場所に友達と入ったことがないから、そこら辺の勝手が分からない。
しかし、友達の『つむぐ』がせっかくリードをしてくれている。
あの笑顔に悪意は全くなく、ただ純粋に俺を楽しませようとしているのが分かった。
だから、俺もその気持ちに応えたい。
「···ありがとう、お言葉に甘える」
「うん、任せてくれよ!」
本当に、『つむぐ』には頭が上がらない。
俺の、唯一無二の友達だ。
しかし、ここで一つの疑問が浮かぶ。
―――何故、彼女はここまで親身になってくれるのだろうか?
これまで彼女とはチャットや電話でしかやり取りをせず、今日初めて顔を合わせたくらいだ。
そもそも何故俺の顔を知っていたのかは疑問なのだが、そこはまず置いておく。
友達だから、こんなに良くしてくれるのか?
気になった俺は、彼女に訊いてみることにした。
「なぁ、『つむぐ』?」
「うん?なにかな?」
「どうして『つむぐ』は、俺のことをそんなに大事にしてくれるんだ?」
彼女と俺とでは、まるで天と地ほどの差があるのは自分でも理解しているつもりだ。
彼女は美人で要領が良く、気配りが出来て友人想いのとても良い子だ。
それに対して俺は、桐島彩花や岸萌未、家族や西川愛莉さんを初めとしたクラスメイトたちから嫌われている陰キャ。
初めて対面した時だって、彼女は俺の暗い容姿に嫌な顔はせず、普通に接してくる。
せっかく転入してきたというのに、俺と仲良くすることでクラス内の立場も悪くなってしまったことに罪悪感を覚える。
それなのに彼女は何事も無かったかのように、今だって笑顔を浮かべている。
「変なことを聞くね、君は。友達なら、大事にするのは当たり前だろう?」
「だけど、俺のせいで『つむぐ』には迷惑をかけたし···」
「迷惑だなんて思ってはいないさ。ボクは、ボクのやりたいことをしている。そこには他の意思なんて関係ない」
『つむぐ』は笑顔のまま、俺に近付いて握り拳を作って俺の胸に軽くトンと叩いた。
「君は、ボクの友達なんだ。ボクは、友達は大事にしたい。それに前に言っただろう?世界中が君の敵だとしても、ボクは···ボクだけは君のことを信じるってね」
「『つむぐ』···」
「はいはい、湿っぽい話はこれでおしまい!時間が勿体無いし、もっと遊んでいこう!」
パンッと両手を叩いて話を終わらせ、『つむぐ』は俺から離れて歩いていく。
そう、だよな···うん、これが友達ってやつだよな。
彼女の言葉は、俺がもやもやとした気持ちを安心させるものだった。妙に心地好い。
俺は『つむぐ』が歩く後ろ姿を見て、心の中で感謝をした。
「···そう、君にはボクが居る···絶対に離すもんか、絶対に···」
「またまたボクの勝ちだね!」
「むっ···これは異議を申し立てる。今のは、反則だ」
「おっとぉ?負け犬の遠吠えとは、らしくないんじゃないかな?エアホッケーに卑怯も反則も無いのだよ」
エアホッケー勝負をし、俺は『つむぐ』に完敗を喫していた。
これはいくらなんでもおかしい。
いくら俺が初心者とはいえ、『つむぐ』から一点も取れないスコアは明らかにおかしい。
しかし、どんな卑怯な手を使ったのかは俺では皆目検討も付かない。
もしや、『つむぐ』はエアホッケーの選手だったりするのだろうか?
まあ、『つむぐ』が楽しそうだから別にいいが。
「よーし、次はレースゲームに挑んでみよっか!」
「レース···運転はあまり得意じゃないのだが···」
「大丈夫、大丈夫!ただのゲームだから、気楽にプレイすればいいさ!」
「そう、だな···」
彼女の言葉に甘えると言ったのだ、ここは素直に頷いておく。
そういえば、時間大丈夫かな···?
「そこに居るのって···もしかしてハナっち?」
二人でレースゲームのあるコーナーに移動すると、不意に後ろから声をかけられた。
振り向くと、そこにはド派手な女の子が居た。
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