第12話 友達は剣より強し
殺伐とした雰囲気も時間が進むにつれ薄まっていき、ようやく放課後の時間になった。
隣でうーんと腕を伸ばして解放感に浸る友人の『つむぐ』は、俺に顔を向けた。
「やっと終わったね。お疲れ様、彼方」
「ああ。『つむぐ』もお疲れ様」
「うん、ありがとう」
なんてことはない普通の会話をするのは、俺にとってどれくらい振りになるだろう。
そう思えるほど、懐かしい感覚に陥った。
そんな俺たちに二人の女子が迫ってきた。
「あの···お、お疲れ様、カナくん」
「ええ、お疲れ様です」
一人は桐島さんだった。
相も変わらずと言えばいいか、懲りないと言うべきか、俺なんかに声をかけてくる。
「ねぇねぇ、天野さん!朝はごめんね!私、ちょっと反省したよ。でさ、お詫びと言ってはなんだけど、これからクラスの皆で親睦会を開くんだけど、良かったら天野さんもおいでよ!」
もう一人は、西川さんだった。
あれだけ『つむぐ』にこてんぱんに言い負かされたというのに、それがまるで無かったかのように明るく話しかけていた。
なんという鋼メンタルだろう。
というか、俺が隣に居るにも関わらず俺の名前を出さずに『つむぐ』だけを誘っているのを見ると、やはり俺は彼女に嫌われているらしい。
現に彼女は、俺に一瞥もくれない。
まあ、興味ないから別にいいんだけど。
「ねぇ、西川さん?申し出はありがたいのだけれど、何故彼方君は誘わないのですか?もしかして、わざと省いたのでしょうか?」
再び、キン、と氷のような声色。
どうやら彼女も俺と同じ考えに至ったようだが、気のせいか怒りの限度が違うような気がする。
それを察知したのか、西川さんは慌てたように弁明を図ろうとする。
「えっ?あ、ああ、いや、別にそういうわけじゃないんだけどさ!花咲って、誰かとつるんでいるイメージがないから、私たちが誘っても迷惑かなぁって思っただけ!ね、花咲?実際、迷惑だよね?」
何故か、そこで俺に振る西川さん。
急に振られても困るのだが、まあ確かに迷惑ではあるのは確かだから肯定しておこう。
彼女も、俺に来てほしくなさそうだし。
「ええ、そうですね。俺なんかが行っても迷惑でしょうし、どうぞ皆さんで楽しんできてください」
「だよねぇ!」
そう言うと、ほっとしたような表情を浮かべる西川さん。
対しての桐島さんは何故か悲しそうに俯く。
そんな俺の発言を聞いた『つむぐ』は、にこっと笑顔を浮かべた。
正直、寒気のする笑顔だった。
「そうですか。では、私もそのお誘いはお断りさせていただきますね」
「へっ···?な、なんで?」
予想外の反応だと思ったのか、西川さんは顔を真っ青にして慌てていた。
「い、いや!それは困るよ!だって、天野さんが居れば、他の男子たちだって喜んで来るだろうし!そ、そう!これは天野さんの歓迎会みたいなものだから、主役は居ないと困るよ!」
「なるほど。つまり、私はただの釣り餌ですか」
呆れたように溜め息混じりに呟く『つむぐ』。
図星を突かれたのか、西川さんの顔はさらに青く染まっていく。
「そ、そうじゃないよ!ただ、天野さんを狙ってる男子たちも来るってことを言いたかっただけで···!ほ、ほら!天野さん、モテるし!私も天野さんと友達になりたいから!」
「あら、それはありがとうございます。ですが、私は人をバカにするような人とは友達にはなりたくありません。当然、彼方君が居ないのなら、私が行く必要もありません」
一歩も引かず、笑顔で断る『つむぐ』は本当に強くて良い子だと改めて思った。
やはり、この子は一番の友達だ。
しかし西川さんも引き下がろうとはせず、何故か俺を睨んだ。
「私たちより、こんな奴を選ぶの!?」
酷い言われようと嫌われようだ。
俺が彼女に何をしたと言うのだろうか。
甚だ疑問である。
「ええ。彼方君は、私の一番の友達ですので。友達を無条件に信じるのは当たり前です。どこかの誰かさんたちと違ってね」
なにやら含みのある発言だ。
『つむぐ』の言葉に何故か桐島さんと岸さんが反応したようだが、俺には分からない。
そして、何故か西川さんは更に怒っているかのように思えた。何故だ?
「まあ、そういうわけでして。私もその親睦会は辞退させていただきますね」
「あんたさぁ、ちょっと可愛いからって、あまり調子に乗らないほうがいいんじゃない?友達出来ないよ?」
「ふふっ、ひがみでしょうか?友達なら、既に彼方君という素晴らしい友人が居ますのでお気になさらず。それでは行きましょうか、彼方君」
俺の返事を聞くまでもなく、『つむぐ』は俺の腕を引いて教室を出た。
俺も連れられるまま、教室を出る。
その際、西川さんは何故か俺に向かって睨み付けてきた。
そんなに睨み付けられても困る。
防御力が下がるわけでもないんだから。
「さて、彼方?君はこのまま真っ直ぐ家に帰るのかな?」
教室を出て昇降口に向かう途中、隣で歩いている『つむぐ』が話しかけてきた。
どうでもいいが、いちいち顔を覗き込まないでもらいたい。
さすがに美少女に至近距離で見つめられると、変な気分になる。
もう少しでキスしてしまいそうな距離だし。
「む···そのつもりだが。というか、離れてくれないか?」
「ん~?なんだい?もしかして照れているのかな?」
「そうじゃなく、周りの視線が···」
「ん?」
俺が困っているのは、まさにこれである。
教室を出て以降、『つむぐ』が俺の腕を組んで隣を歩いているため、さっきから男子たちの視線が痛々しく突き刺さるのである。
なんという理不尽。
俺がしたくてしているわけではないのに。
しかも、不必要に『つむぐ』がその豊満な胸を腕に押し付けてくるので更に視線に籠る殺気が倍増。
本当に理不尽である。
「なるほど、そういうことか。なあに、周りの視線など気にしない気にしない。むしろ見せ付けてやればいいんじゃないかな?」
「やっかみを買う俺の身にもなってくれると助かる」
「なんでだい?正直、気持ち良いんだろう?」
むにゅっと更に胸を押し付けてくる『つむぐ』は、悪戯っ子のように笑っていた。
なるほど、確信犯らしい。
いくら感情が無いとはいえ、別に性的欲求が無くなったわけではない。
これでも俺はれっきとした男の子。
甘い誘惑にはドギマギしてしまう思春期なのである。
「ふふっ、正直に言っちゃいなよ、気持ち良いって。ボクのおっぱい、どうかな?」
「柔らかくて気持ち良い」
「ははっ、素直でよろしい」
耳元でそんな甘々とした声で誘惑されてしまったら、頷くに決まっている。
思春期男子を舐めるな。
いやすまない、軽く調子に乗りました。
だから男子諸君、俺をそんな殺意ある目で睨まないでくれ。
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