第9話  どうやら俺は嫌われているようだ




今日も快晴。心地良い風が吹く。

窓際の席に座る俺は、登校してきたクラスメイトたちの喧騒を背に窓から景色を眺めていた。

クラスメイトたちは、入学式での一件があって以降、俺に話しかけることも近寄ることもなかった。

『あいつはヤバい奴』という共通認識を得たようだ。

こちらとしても都合が良い。

無駄な会話はしたくない。




「あ、あの···カナくん」




違った。

そうだった、俺に話しかけてくる奇特な奴らが二人居た。

一人は、今声をかけてきた元幼馴染みの少女、桐島彩花。

入学式での一件以降、ほとんど毎日俺に挨拶をしてくる。困ったものだ。




「お、おはよう···」




俺の様子を伺いながら、おどおどとした感じで話しかけてくる。

挨拶くらいならば、しても問題はない。

ただ、それ以上は踏み込む必要はない。




「ええ。おはようございます、桐島さん」




能面のように笑顔を作り、挨拶をする。

そして挨拶が終われば、再び窓を見る。




「あ、あの···あのね···?わ、私とお話しない···?」


「結構です」


「で、でも···」




しかし、まだ会話は終わっていないようで次の言葉を繰り出そうとする彼女。

本当に困った。



「ちょっと、あんたね!」




どうしたものかと悩んでいると、桐島さんの背後から一人の女の子が近付いてきた。

見るからに気が強そうだ。




「彩花が勇気を出してあんたに話しかけてんのに、なにあんた無視してんの!?最低!」




撤回。見るからにではなく、まんま気が強い。

面倒な人種だと一瞬で理解した。

再び、能面のような笑顔を作る。 




「あなたは誰でしょう?まず、私に罵声を浴びせる前に自己紹介くらいしたらいかがです?」




もっともな意見を述べただけなのに、気が強い少女はその顔を怒りに変えた。

カルシウム不足か?牛乳を飲みなさい。




「あたしは彩花の友達の西川愛莉にしかわあいり!あんたのクラスメイト!数日経ってんのに、クラスメイトの顔と名前すら覚えてないわけ?」


「失礼。他人に全く興味がないので、覚えろという無理難題を吹っ掛けないでくれますか?」


「あんた···!最低な人間ね!彩花、こんな奴に構う必要ないよ!陰キャみたいだし、放っとこ!ね?」




散々な言われようである。

しかし、俺は本当に興味が無いから覚える気がないのは事実だ。

信じれば裏切られる。

ならば、裏切られる前に自ら関わろうとしなければいい。簡単なことだ。




「で、でも···」


「こいつが彩花の幼馴染みなわけないって!見るからに根暗だし、あんたが近付けば何されるか分かったもんじゃないよ?なぁんか『犯罪者』みたいな顔だしさ!だからさ、こいつから早く離れよ?」




『犯罪者』。

その言葉で、つい俺は仮面を取り外してしまった。




「···『犯罪者』はそっちだろう」


「えっ···?」


「は···?」




おっと、いけない。

つい思ったことを口に出してしまった。

俺の低い声に驚いたのか、西川と名乗った女子は目を丸くしていた。

桐島さんはその言葉を聞いて過去の自らの悪行を思い出したのか、その場で泣いてしまう。




「ちょっと、彩花?大丈夫?あんたさ、女の子相手に酷いとは思わないの!?」


「失礼。お友達を大事に思うのは結構ですが、つまらない正義感を振りかざしてまで俺に当たらないでくれますか?」


「はぁ!?せ、正義感···!?」


「ええ、そうですよ。あなたのソレは、ただ単純に『気に入らない俺を叩きたい』だけ。反吐が出ますね」


「あ、あんたね···!」


「そもそも、俺に構う必要が無いと自分で言いながらら何故まだ俺に話しかけるのか。全くもって理解が及びませんね」


「っ···!もういい!彩花、あっち行こ!」




俺の言い分に言い返せなくなったのか言葉が見付からなかったのか、西川は泣いている桐島さんを連れて自分たちの席に戻った。

その時、またしても俺に近付いてくる女の子が居た。




「あ、あの···あそこまで言う必要は無かったのでは···?」


「···今度は岸さんですか。『あそこまで言う必要』?では、あなたは西川といった女子の暴言を大人しく聞いていろと?」


「そ、そうじゃなくてですね···その、桐島さんの言い分も聞いてあげるべきだったのではないかと···」


「論外ですね。俺が聞く必要は無いです」




そう言うと俺は不毛な会話を止め、持参してきた本を開いて読み始める。




「その本···あ、あれですよね、映画にもなった人気の···」




タイトルが言えないのか、岸さんは自分が知る限りの情報を口にする。

あんなに本が好きだった彼女にしては、随分とお粗末だ。

彼女は、もう本を読むことを辞めたのだろう。

まあ、俺には関係のないことだ。

彼女に構わず、読書を続ける。

そんな俺にこれ以上は無駄だと察したのか、岸さんは自分の席に戻っていく。




「ごめんなさい、彼方くん···」




去り際にそう呟きながら。

ごめんなさい?何がだ?何故謝られた?

良く分からない。どうでもいい。

読書のほうが大事だ。さあ、読もう。





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