第2話 トラウマに拒絶という花束を
学校に着くと、玄関前の掲示板にクラス分け表が設置されていた。
俺の名前は···
「ふむ、A組か」
自身の名前を確認し、玄関に入って靴を履き替える。
そのままクラスに向かい、教室のドアを開けると数人が席に座ったり談笑していた。
どうやらすでに友達を作った奴もいるようだ。
俺は黒板に貼り付けられている席順を確認し、自身の席へと向かう。
着席して鞄から本を取り出して読んでいると、誰かが近付いてくる足音がした。
「あ、あの···カナくん、だよね···?」
一時読書を中断し、顔を上げると一人の女の子が立っていた。
一見すると儚い系のロングヘアーが良く似合う美少女だ。
こんな子が、俺なんかに何の用だというのか。
「『カナ』とは、俺のことでしょうか?」
「え、えっと···
「確かに、花咲彼方は俺ですが···?」
どうやら俺のことを知っているらしいが、俺はこの子について何も知らない。
「や、やっぱりそうなんだ···!あはっ、久しぶりだね!私だよ!幼馴染みの『桐島彩花』だよ!覚えてる···?」
その名を聞いて、記憶が蘇る。
確かに、彼女は幼馴染みだった。
しかし、その関係は小学生の時に切れた。
俺が最初にこの『心の病気』が発生したのは、紛れもないこの女が原因だ。
――――――――――――――――――――
小学生の頃、俺は彩花とは仲良しの幼馴染みだった。
周りから、『将来結婚するんだろ?』と囃し立てられ、彼女も『うん!カナくんと結婚する!』と笑顔でいつも言っていた。
俺も満更じゃなかった。
そう、あの日までは―――。
事件が起こったのは、学校の放課後。
ホームルームが始まった瞬間に起きた。
クラスメイトのリコーダーが盗まれたと騒ぎになった。
そして始まった『犯人探し』。
そこで、俺は衝撃を受けた。
『カナくんが···やったの···』
なんと仲が良かったはずの彩花が、震えながら俺を指差した。
もちろん俺はやってないと反抗した。
しかし、『いつも騒いで困らす悪ガキ』と『優等生』ではどちらの言い分が正しいのかと周りが判断するのは明白だった。
『返しなさい!そして謝りなさい!』
『なんで?ボク、やってないよ!』
『嘘おっしゃい!悪いことをしたら、謝るのが当たり前です!』
クラスメイトだけでなく、先生さえも俺を犯人呼ばわりして責め立てた。
やってもいない犯罪を認めろという理不尽さに俺は納得せず、最後まで反論した。
しかし聞き入れてはもらえず、最終的に親まで呼ばれた。
だが、親は俺のことなど信じずも庇いもせず、ただひたすらに皆に謝っていた。
それから、俺は『泥棒』や『変態』呼ばわりされ、クラスから孤立された。
それだけじゃなく、イジメなどにも遭った。
小学生はまだ善悪の区別もつかないため、悲惨なイジメにも遭ったことあった。
仲の良かった友達や彩花さえも、俺から離れていった。
卒業まで、俺は孤独で過ごした。
それが、俺の小学生時代。暗雲の幕開け。
「···思い出しました。ええ、確かに面影はありますね、桐島彩花さん」
「な、なに···?なんで敬語なの···?もっと砕けた感じでいいよ?」
「ありがたい申し出ですが、この口調が性に合ってますのでお気になさらず、桐島さん」
「き、桐島さん···?え、えっと···む、昔みたいに彩花って呼んで···?さすがに桐島さんだと他人行儀だから···」
「他人ですが何か?」
「えっ···?」
きっぱりと告げると、桐島さんの顔が真っ青になった。
何かおかしなことを言ったのだろうか?
「あ、あはは···何を言ってるの?わ、私たちは幼馴染みだよ?」
「その関係が続いたのは小学生までです。以降は何の接点も無かったので、もはや他人です」
「も、もしかして···あの時のこと、まだ恨んでるの···?」
あの時のこと。
それは言うまでもなく、『泥棒冤罪事件』のことだろう。
「いえ。あれから数年経ちましたし、恨んではいません。怒ってもいません」
「だ、だったら···!」
「ですが、俺は二度と冤罪に巻き込まれたくないんです。ですので、俺に関わらないでいただけるとありがたいです。それでは、失礼」
「っ···!ご、ごめ···っ」
目に涙を浮かべる桐島さんをよそに、俺は中断していた読書を再開する。
周りは何事だと騒ぐが、桐島さんが大人しく席に戻ってからは特に何も起きなかった。
これでいい。
そう自分に言い聞かせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます