創神石
今、俺とサンクスの距離は近くなったような気がした。
それは俺の心を少し満たすことになった。
みんなの所へ戻る最中、今まで起こったことが走馬灯のように走り抜けていく。
本当は俺には何もなかった。
こちらに召喚された時から、未来などなかった。
だから将来のことも考えることはできなかった。
いや違うな、本当は前の世界にいる時から目標なんかなかった。
普通に会社に勤めて一生を社畜として暮らすだけの人生だっただろう。
前の世界に俺にできることなんかあったのか?
「俺にできること」
本当はそんなことすら考えたこともなかった。
こちらに召喚された時もそんなことは考えなかった。
「俺にできること」
そんな当たり前のことも考えなかった俺には絶望しかなかった。
そんな時にラミアに会いラミアの愛が俺を包み込んでくれた。
俺はラミアに甘えたのだろう、だから短絡的な答えを選択した。
「俺はラミアと結ばれてラミアに命を捧げる」
こちらに来てからそれが生きる目標であり、生きる張り合いだった。
そうさ。俺には何も目標もなかったし誰かを助けようとも、助けられるとも思わなかった。
そんな考えは俺には思い浮かぶことすらなかった。
そんな俺でもここ数日のうちに目標ができた。
ロザリアとサンクスに感謝だな。
そして、ラミアがいなければ俺はここにはいないだろう。
今更ながら、最初から感じていた違和感がまた頭を持ち上げた。
「ラミアは本当に魔の者なのだろうか?」
ラミアは確かに闇の力を持つ者だ。それは間違いはない。
でも闇の力を持つからと言ってラミアの心は人に近い。
そうでなければ俺はとっくに、この世界にはいないだろう。
それでも良かったかもしれないな。
そろそろ戻ってきたはずだが船は見えない。
当然だ、偏光結界による隠匿が成功しているようだ。
そんな訳で宇宙戦艦風の船は誰にも発見されることなく静まり返っていた。
「サンクス、お疲れ、やっと帰ってきたようだ」
「えっ、ここなの?」
サンクスには感知できないようだった。
「まだまだだな、サンクス!!」
「そうかな。でも大丈夫さ、ちゃんと修行を積んでいくよ」
サンクスの案外素直な答えに驚いた。
船に乗り込むとラミアが飛びかかって来た。
すぐにキスの嵐だった。
「おい、どうしたんだ?」
ラミアは俺の腕にできた傷を見ると心配そうな顔をして傷を直そうと魔法を使った。
「負傷が残っているわよ、どうしたの苦戦したんでしょ。
最初から強敵だと思ったんじゃないの?
なんで私に一緒に戦おうと言わないの?」
「すまない、実は知り合いだ・・・」
そう答えた、そしてラミアに召喚された時のことを話をした。
その間もラミアは愛おしそうに俺にキスをする。
そんな俺たちを見てサンクスは目のやり場に困っていた。
ラミアと俺の話し声を聞いてかロザリアもやって来た。
サンクスは照れるような顔をしてロザリアのそばに近寄っていく。
「ロザリア姫、僕は君を守れるような男になるよ」
「ありがとう。
でもそのことは、良くわかってましたよ。
どうしたのですか。
もしかして、なにかあったの?」
「違うんだ、僕は僕に誓いを立てた。
だからこの誓いをロザリア様にも聞いておいて欲しいんだ。
貴方を守る、僕は貴方を守れる男になる」
「ありがとう。
でも私は今は王女ではありません。
そんな私でもそう言ってくれるサンクスには感謝しかないわ」
ロザリア皇女は少し涙ぐんでいたが、ありがとうと感謝の言葉を繰り返していた。
ブリッジに四人で移動すると、船の状況をチェックする。
水から分解された燃料である水素は十分な量になっていた。
「いつでも発進できそうだ
もう少ししたら、発信の船内放送をして発信だ」
ラミアが少し心配そうに話しかけた。
「だいたい目的地まで1000キロくらいかしら?食料は大丈夫かしら?一ヶ月くらいの旅になるわね」
「食料は必要ないだ。多分早ければ半日で着くよ」
「そうそう半日分・・・、えっ?半日?
半日で着くの?」
「空飛んでいくからね、早いんだ」
「そうだ、これを預かっておいてくれ。
召喚石だ」
さっき集めた俺の分も含めて召喚石三つをラミアに渡した。
受け取ったラミアは動きが止まってその石を凝視していた。
「どうしたんだ、ラミアは珍しいものをいっぱい持っているから、珍しくはないかなと思ったけど?
それも一緒に管理しておいてくれ」
だがラミアの顔から笑顔は消えた。
「これは、創神石・・・・」
「創神石?
召喚石のはずだし、実際これで俺は召喚されたんだ」
ラミアは何も言葉を発せず石を凝視したままだった。
「これは消滅したはず・・・
こんな物は存在してはいけないはず」
ラミアが少しおかしい、三つの石を持ったまま震えていた。
「消滅したって?
この石って何か秘密でもあるのか?
何を知っているのか?」
「知らないのか、思い出せないのかすらわからない。
でもそう私の中の何かが言っている」
「すまない、危ない物なら俺が持っていようか?」
「ごめんなさい取り乱したわ。
でも大丈夫、ジェイが私に預けた物だから、私が預かるわ。
七個揃わなければ何も起こらないはずだから」
「えっ?七個?、五個じゃないの?」
「七個のはずよ、というか、私にも分からないけど七個だと思うのよ?」
ラミアの記憶に混沌が生じているのか?、ラミアの様子自体もおかしい
どうも召喚石というのは、実は何か別の用途があるのだろうか?
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