アイラ王女

 王女ロザリアは疲れからかうとうとしていた。

 すると今まで起こったことが走馬灯のように夢の中を駆け巡って行った。


 私の国を守ってくれていたアクアのヒーローが倒された。

 そして強力な守りの無くなった私の国はあっけなく侵略された。


 一瞬で城は陥落した。

 陥落後は悲惨だった、何もしていないのに、お父様、お母様も、さらに家族、親戚のほとんどが処刑された。

 私を含む数名の王族、貴族だけがレジスタンスに助け出され逃げ出せた。


 王の処刑後、王国が滅亡したと広報された。


 そう国が亡くなったのだ。

 それでもレジスタンスの皆は私を王女と呼んだ。

 なんて滑稽な話なんだろう。

 そしてその時から私には絶望しかなかった。


 悲惨な顔をしていると、私を周りのレジスタンスのみんなが励ましてくれた。

 だが、それは逆に皆の期待に応えられない自分の無力を知ることになり絶望感は拭えなかった。


 みんなの気持ちは嬉しいのだから、そのことを気取られないようにするために笑っているフリをしていた。


 でもそんなことは、すぐにばれてしまう。

 特にサンクスには隠せない。


 サンクスもお父さんのアクアのヒーローを失っている。

 サンクスも同じように悲しみの底にあるのだろう。

 そんな状況でもサンクスは必死で私を守ろうとしていた。


 サンクスを見ていると気持ちを切り替えなければと思う。

 でもそう思えば思うほど悪いことしか考えられない。


「私は無力だ」


 ああ、私はどうすれば良いの?


 それは国が滅亡してからの私の永遠に答えの出ない自分への問いかけだと思われた。

 だが、考え続けている私は思い出した。


 王家の者だけが知る、今は燃えてしまった秘密の部屋にあった肖像画。

 その肖像画の主である王女は神になったという伝説があった。

 伝説では、その場所に行けば神になれるという。


 「ドラゴンズゲート」、そこは奇跡の生まれる場所。

 それはセグリエ王国の元になった国にあったという首都に立つタワー。


 そんなことは伝説だ、現実に起こるはずが無い。

 でも、もし起こるなら、私は神になれなくても良い。

 そう神などにならなくても言い。

 だから、少しでも力を持つことが出来ればと願った。


 ただ国を失ってもまだ未練たらしく王女と呼ばれる私など価値がない人間だ。

 そうだ国の無い王女など本当に滑稽なだけだからだ。


 そうだ、私では力を得ることなどない可能性が高いだろ。


 そう考えていると私の中で 「悪い私」 が声を掛けて来た。


「自分に力は得られないとしても、選ばれた人であればなれるかもしれない。

 たぶん、人とヒーローの間に生まれた者・・・選ばれた人間サンクスなら成れるかもしれない。

 そうだ、サンクスを・・・」


 でも「悪い私」とは裏腹に私は抵抗する、そうだ、人で無いものにサンクスをするわけには行かない。

 そうなんだ、王女である私が、サンクスに責任を押し付けるようなことはしたくない。

 私は「悪い私」に抵抗した。


 どうしようもない無力感に最後は疲れ果てていた。


「そうだ私だけがドラゴンズゲートに行くしかない」

 いつしか、そう思い込むようになっていた。


 その時は精神的に追い詰められていたのだろう。

 そう決めて、レジスタンスの拠点から抜け出た私。


 でもそんなことは出来るはずもなく、多くの者達が陰ながら護衛してくれていた。

 そうだ、陰ながら・・・みんなは私を気遣い優しく見守ってくれていたのだ。

 もちろんサンクスも居た。


 私は愚かだ。

 私の軽はずみな行動のために・・・


 たった数日、そう数日で、

 多くの護衛の者たちが傷つき倒れて行った。

 最後にサンクスだけが傍に残った。


 そして愚かにも私自身も慣れない砂漠で倒れてしまった。


 後でジェイが言っていたが熱中症と言うらしい。

 苦しい状態の中で、会話が聞こえた。

 その会話から、私はまた大きな罪を犯したと悟った。


 どうやら、サンクスに強盗まがいのことをさせてしまった。

 選ばれた人であるサンクス。

 そのサンクスに・・・

 その瞬間、神は私を見放し、そして「もう許されることは無い」と思った。


「サンクス、ごめんなさい」

 そう呟くと力なく絶望の淵に落ちていく私。

 意識がだんだん失われていく。


 少しすると、意識がなくなっている私に差し込んでいた眩しく熱い直射日光を遮るものがあった。

 それは優しい人影であった。

 その人影の優しさに意識が少し戻り、薄く開けた目に飛び込んできたのは女の人の顔だった。

 そうだ、苦しい息の中私の顔を覗き込む者の顔が見えた。


 懐かしいようなその顔。

 その顔には見覚えがあった。


 その顔は・・・


 あの肖像画の王女・・・


「アイラ様」


 間違いない、いや、間違えるはずは無い。

 なぜなら、アイラ様は私に似ているのだ。

 鏡で見ても似ているところはいくつもあった。

 お父様もお母さまも似ていると言っていた。


 何度も鏡の中でも見た顔だ、間違えるはずは無い。


 そうだ、その顔はアイラ様だ。


「神よ、感謝します」

 そう思った。


 でもその女の人は「ラミア」と名乗った。

 そうか安易に神だとは言えないからだと想像した。


 もちろん、今だにアイラ様であることは証明できていない。

 でも「ラミア様」に会ってから、私、いや滅亡したセグリエ王国再建に新たな光が見えて来た。

 間違いない、「ラミア様」は「アイラ様」だ。


 私は今もそう信じている。

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