お前が待っているのは俺じゃない。

 サンクスの力はだんだんと大きくなり、倒せる相手も多くなっていく。

 お俺は赤い頭のコピーを集中的に倒していたが、こちらもだんだん数が少なくなってきた。


「ジェイ、あと八つだ、こっちは任せて!!」

 サンクスの張り切った声が聞こえる。


「おう!!、任せた!!」

 返事をしながらも、確かにサンクスは違うと思った。


 『ハイブリッド』という存在は俺の想像だ。


 異世界人である俺達の世界の人間とこの世界の人間との間に生まれたサンクスは特殊なのか?


 この世界の人間だって自然のことわりに気が付かないことは無いと思う。

 もちろん炎のことだってそうだ、魔法の炎と自然界の燃え盛る炎が違うこと。

 そして泉の水が魔法で出した水と形や丸まり方という振る舞いが違うことも気が付かないはずはない。

 でも今現在長い歴史の中でこの世界ではその力を利用した歴史は無いようだ。

 気付いたとしても、この世界の人たちは自然のことわりを頭で理解し利用することが出来ないのではないだろうか?

 考えられるのは俺達魔法が使えない世界の人間からすれば当たり前に使わなければならない力である自然のことわりを魔法があることで使うことが出来ないのではないだろうか?。

 だがサンクスは両方の世界の『ハイブリッド』であるからその力も、使えた可能性がある。


 数体を倒したところで相当頑張ったのか、息が上がっているサンクスが嬉しそうに叫んだ

「やった!!倒したぞ!!」


「凄いじゃないか、クローンとは言えヒーローという存在を倒せたのだからな!!」


「ほとんどジェイが倒したんじゃないか」


 あれ?アイツ・・謙虚と言うことを学んだのかな・・・


 さて、全てを倒した途端少し安堵する。

 用事は済んだので帰って船を出発させなければならない。


 その前にジャーギルが居た辺りに向かう。

 だが、戦いの最後は炎と電撃の嵐だったからな、可哀想にジャーギルは炭になっていた。


 その周りに召喚石が落ちていた。

「ジェイ、それは何?」


「これは召喚石だとさ。

 水、火、木の勇者を召喚するための石らしい」


「じゃあ、これがあればヒーローを召喚できるの?」


「ははははは、可愛そうな異世界の召喚者を増やすと言うのか?

 ほとんどの異世界生活者はそんなことを望んでいない・・・

 いや、望んでいる奴も居るかな・・・」


 だが石には違和感を感じた。

「それより、この石まだ輝いている。

 どうやれば良いんだ?」


「どうしたの?」


 俺は石を覗き込むようにした。

 二つの輝いている石は何かが見えるような気がする。

 良く目を凝らすと石の中に何かが浮かんできた。


「なる程な、そう言うことか」

 直ぐに水から雲を作り大きな雷を今見えた場所に落とした。


 パアァ~~~~ン

 大きな雷はまるで何かが裂けるような破裂音となり響く。


 その後断末魔のような叫び声と共に俺の持っている石の輝きが無くなった。


「どうしたの?何があったの?」

 心配そうにこちらを見るサンクス。


「なに、木のヒーローが逃げようと画策していたんだけど、召喚石の前では隠れようがないということだ」


「そうなんだ、僕たちの完全な勝利だね・・・」

 その後サンクスは俺の顔をジッと見ながら、大粒の涙を流し始めた。


「待って・・・、待っていたんだ・・・、本当に、でもどうすれば良いのか・・・そうなんだ、会う方法すら分からなかった・・・」

 声にならない声が掠れながらも続けられる。


「おいおい、なんだ・・・」


「本当に待っていたんだ。アクアのヒーローを・・・」


「すまないな、俺はお前の待っているアクアのヒーローじゃない。

 だってそうだろ、アクアの力を使っていないだろ」


「ジェイに間違いは無い。

 僕は待っていたんだ」


「俺を待っている?

 なんで俺を待っているんだ?」


「王女を助け・・・

 王女の夢である国を復興させるため、国民たちに平和を与える。

 そのために、どうしてもアクアのヒーローの協力が必要なんだ」


「そんな大げさことは俺には出来ないよ。

 おれはラミアと一緒ならそれで良い。

 それだけさ」


「でもジェイのお陰で王女と僕の全てが変わって来たんだ。

 間違いないんだ明日の希望が見えて来たんだ」


「違うな。

 まだ幼いお前達、王女とサンクスは今も戦っている。

 明日への希望は王女とお前・・・サンクスが前を見て進むことでつかみ取っているんだ。

 俺じゃないさ」


「でも僕が待っていたのはジェイに間違いは無い」


「お前が待っている者というのは

 お前の大事な王女を守り、そして王女の大事な国を、国民を守ることができること

 それを実現するために必要な者達だろ」


「そうだ、だからジェイが必要なんだ」


「お前はお前の実現したいことを実現できる力が欲しいだけさ」


「だからジェイなんだ」


「違うさ、お前が待っているのは俺じゃない。

 お前が待っているのは


『お前が守りたいものを守れるお前自身』


 なんだよ」


「僕自身?」


「そうだ、王女やお前には無限の可能性がある。

 「ザガール件や賢者達の件」を良く考えてみろ。

 王女とお前は奇跡的に国を復興させる方向に話を進めているんだ。

 俺とラミアは少し力を貸しただけだ、それ以外はお前たちが勝ち取って来たんだ」


「『ザガール件や賢者達の件』は王女の力が大きい、僕にはなにも」


「そんなことは無い、お前も大きな力になっていた。

 そうなんだお前には才能がある。

 間違えなければお前はお前の望む者になれるだろう。

 そうさ、お前が待っているのは将来のお前自身なのさ」


 まだサンクスには確証がないので『ハイブリッド』のことは黙っておくことにした。


「僕が、僕が望む者になれる・・・・

 本当になれるのかな・・・」


「お前が望み精進すればなれるさ

 親父を超えるヒーローにもなれるさ」


「召喚されていないから無理だよ・・・」


「召喚されていないからこそ、本物のこの世界の勇者ヒーローになれるんだ」


「この世界の勇者ヒーロー・・・」


「そうさ、お前はこの世界の勇者ヒーローになる男なんだ」


「ジェイ、僕がこの世界の勇者ヒーローになれるなら、

 道を間違えないでこの世界の勇者ヒーローになれるように見守って手伝ってほしい」

 

「お前なら大丈夫さ。

 さて、いつまでもここに居てもしょうがない。

 帰って出発することにしようか」


「はい!!」


 帰りはなぜかサンクスと俺の距離が近かった。

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