明日への旅立ち③
ラミアの言う通りであれば蟲を探し出す方法は簡単だ。
赤外線を見えるようにすれば良い。
時間を貰って外に出た俺は早速、大量にある砂を原料にガラスを作り試作品を作成し始めた。
簡単に言えばサングラスのような眼鏡型の探知装置を作り始めた。
その様子をラミアが珍しいものを見るように眺めていた。
そしてラミアが質問して来た。
「また精霊石の円盤は必要?」
ラミアは長い間に沢山の便利道具を集めていたようだ。
精霊石の円盤、それは特殊な精霊石:魔法力を蓄えた石?というか円盤である。
(そう言えばさっき戦ったゴーレムも精霊石で動いていた、
結構ありふれたものなのか?)
ただ、ラミアが持っていたものは円盤状でその形は魔法陣を書き込むものだった。
その魔法陣に精霊石に蓄えたエネルギーが流れ込み継続的に魔法を発現させるものだ。
実は今皆が隠れているこの大きな結界を維持するためにも利用させてもらっている。
俺たちが戦っている間もこの結界は安定して存在していたのはこの精霊石の円盤のお陰だ。
「いや、今回は見えるようにするだけだからエネルギーを与える必要が無いから大丈夫だ」
だが今回は精霊石の円盤は不要だった。
エネルギー源は不要で蟲の居場所を特定できるだろう。
出来た試作品を掛けて見た。
確かに赤外線を検知することで色々な蟲が見えた。
「すまないラミア、教えてくれるか?、彼らの言う蟲と最も近い虫はどれだ?」
「そうね、右のあのあたりに居る虫ね?」
そういうとラミアは対象の虫を指さした。
「あの虫が出す波長と同じ赤外線が分かればいいんだな」
そして通過する赤外線を調整しフィルタし増幅する波長の調整をしていった。
早く完成しなければならない。
なぜならさっきから俺達の様子を賢者たちが心配そうに見ていた。
待っていろと言ったのだが、待つことも出来ないくらいなのだろう。
それほど本当にこの装置を必要としているのだろう。
調整したものが出来上がると同じものをあと7組作る。
赤外線波長の調整が出来れば同じ設定で量産は簡単だ。
次に蟲退治のための武器を作り始める。
離れた場所の結界内のポイントのみを攻撃する武器。
ラミアの話では短距離空間移動が可能なようだ。
つまり蟲が気が付かない内に結界を飛び越え虫を確実に倒さなければならない。
これは前回使ったマイクロ波を発生させる仕組みを作ることにした。
その小さな管状の装置は小規模な雷を魔法で発生させる。
雷から発生する電磁波の内マイクロ波のみを選択し管の開口部から発射する。
実際には三つ程度の電磁波を共鳴させることで電子レンジ並みの熱を対象に与えることが出来る。
尤も重要なのは波長に合わせたフィルタとなるアンテナの役割を開口部が担っている。
この部分の制度を謝ると波長を重ね合わせても一致した周波数にならないと大きなエネルギーにならないため注意深く作る必要があった。
これは三つで一つのセットとして二セット作成した。
三つのパイプから同じ周波数の電磁波を発射し重ね合わさったところが最大の波となる。
一瞬で数キロワットの電子レンジの電磁を浴びることになる。
通常の水分を含む生物は一瞬で死に至るだろう。
結局すべてが完成したのは約束通り三十分ほどであった。
出来上がった者にラミアは興味津々だった。
「ふ~ん、この管で蟲を退治するのね。
矢とか弾はでるの?
もっとも結界で阻まれるんじゃない?」
「結界を通して虫が赤外線で確認できるということは、逆に電磁波は通るということだから大丈夫」
「電磁波?」
「光だと思えばいい、赤外線も同じく電磁波の仲間なんだけどね?」
「良く分からないわ?」
作業が終わったことが分かると、賢者たちが押し寄せて来た。
「ジェイ様、出来上がったのですか・・・」
様子を見ながら待っていたのだろう、本当に全員が押し寄せるように俺の前に来た。
そして道具を見ると説明を求めて来た。
「そんなに慌てるな、ちゃんと説明した遣るから・・・・」
説明を聞くのも時間が惜しいようにする賢者達。
「「「おお、これがそうなのか、簡単な仕組みのようだが・・・原理は分からないな」」」
「「「奇跡の魔道具だ・・・・」」」
「「「そうか瞬間転移だって・・・」」」
何かこみあげるものがあるのか。説明が進むにつれて泣き出す者が多かった。
ただこの魔道具は少しの練習が必要だった。
「使いこなすためには少し練習が必要なんだ」
そう言うと全員が直ぐに使いたいと全員が教えてくれと言い寄って来た。
三人を一組で電磁波杖の練習を始める。
中心にターゲットになるよう気を置き、水を入れる。
全員で狙い中心の水が一瞬で沸騰するように魔力を電磁波杖に集中する練習をした。
だが、全員の執念とも言える集中力は俺の予測をはるかに超えていた。
水は一瞬に蒸発する程の威力であった。
フル装備である赤外線眼鏡を着けて攻撃の訓練を終えると全員が口々に呟いていた。
「「「これで蟲を退治できる・・・」」」
彼らは涙ぐみながらまるで愛おしいものであるかのように電磁波杖を胸に抱いていた。
「「これで退治できるのだ、直ぐにでも蟲を退治に向かいましょう」」
だが一緒に彼らを見ていたブロスが全員に釘を刺した。
「お前たちの考えていることはなんとなく分かる。
今すぐにでも行きたいのだろう。
退治できるのであれば自分の命はどうなっても良いと思っているのだろう?
分かるぞ、いや分かるんだ。
俺の家族も蟲の犠牲になったからな。
お前たちは自分たちが蟲を退治するために犠牲にしてしまった人々への罪の償いのため命を捨てもかまわないと思っているだろう。
そんな考えでは行かせることは出来ない」
「しかし、俺達は王様よりお預かりした領民たちを守れなかったんだ。
それも多くの領民の亡骸をと貰うことも無く灰にしてしまった。
そんな俺達に生きている資格はない」
「よく考えれば分かることだ。
蟲を退治しても何も変わらない。
あれはインセクト兵器だからな。
あれを作り出せるものを倒さねば何も変わるまい。
そしてそれは簡単ではない。
従魔兵器を使う者は次々と現れるだろう。
インセクト兵器に関する資料と作り方を知る者を全て消し去ることが出来ると思うか?
奴らの組織の詳細な情報も得られていないのだ簡単ではないぞ」
「グレンですか、それなら我々全員が命に代えても・・・」
「馬鹿者共がたった八人で何が出来るのか?
命を掛ければ何でもできるとか根拠のないことを言うとはな。
どうしたのだ賢者という名を持つお前達が何という浅知恵であることか。
情けないことだと思う。
そうだ、王女がそれを望むと思うか?
たぶん王女は『命を大事にしてください』と言われるだろう」
「しかし、こうしている間にも蟲による犠牲者が増えていくのです。
自分でも焦っているのは分かっております。
しかし時間がありません。
少しでも早く対応を・・・」
「ここはちゃんとした計画を持って対応すべきだと言っておるのだ。
少し待てというのだ。
そう、グレンを倒しても次が現れるということだ」
「なんと言うことだ・・・
悔しい、そうだ逆に蟲を操れれば・・・
奴らがやったようにグレンの奴を操ることが出来れば・・・・」
その言葉を聞いてラミアが何か思いついたようだった。
「皆さんお悩みのようですね。
相手を操るのは催眠法を含め色々ありますけど、催眠では限界がありますわ。
他人を永続的に監視していても完全に思いのままに操るというのは不可能です。
そこで少しやり方を変えてグレンを遠隔で操るのではなくて・・・
例えばグレンとか言う者になるのはいかかですか?」
ブロスはその言葉に驚く。
「えっ?、ラミア様、今なんと?
グレンになる?と申しましたか?」
「そうよ、貴方達の誰かがグレンになれば、グレンは貴方達が思う通りに動かせるのよ」
「それなら組織ごと潰す方向に持っていくことが出来るかも知れない・・・」
全員の視線がラミアに向かった。
「「「でもそんなことが出来るんですか?」」」
「出来るわよ、この魔道具を使えばね」
ラミアは収納から不思議な仮面のようなものを取り出した。
その言葉に全員が黙り次の説明を聞き逃すまいとしていた。
「簡単よ、化けたい相手のイメージをするだけで変身が可能なのよ。
一度やってみますか?」
「やってみて良いのか?
それと、それは男でも女でも何でもなれるのか?」
「もちろん実験してみて頂いて結構です。
そして男でも女でも、動物でも魔物です、生命あるものは化けられます」
試しに一人がグレンに化けた。
「本当のグレンだ・・・」
「匂いまでグレンだ・・・」
「喋り方も、仕草も、何もかもグレンだ」
「どうですか信じましたか?」
その様子を見ていたブロスが作戦を思いついたようだった。
「申し訳ございません、ラミア様、その魔道具ですがいくつか質問しても良いでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
「この魔道具、予備はあるのでしょうか?」
「そうね、とりあえずは三つまでなら準備できますよ」
「それでは三つとも私達に貸していただくことは可能ですか」
「大丈夫ですよ、一緒にこれをお貸しいたしましょうか」
そう言うとラミアは小さな長方形のガラスの板を取り出した。
「これは?」
そのガラスの板を翳したブロスが驚いた。
「えっ?」
「面白いでしょ、化けている方の元の姿が見えるのです。
もしお仲間が分からず何かあると困るでしょ。
要するに本物と間違えないようにする道具です」
本当にラミアは不思議な便利道具を沢山持っているようだ・・・
俺の元の世界に戻る魔道具も持っているんじゃないだろうか?
そんなことを一度聞いてみたくなった。
ブロスは蟲対策魔道具とラミアが提供した魔道具を持って全員を集め作戦会議を始めた。
俺は作戦会議には参加しなかった。
今は俺達には最大の課題が残っていたからだ。
ザガールの人々を全員連れて千キロ近い距離を進まなければならないという課題だ。
単純に歩きでは二十日から1か月は簡単に掛かるだろう。
全員の飲み水と食べ物の確保と全員を守るための方法も考えなければならない。
多分このまま出発することは不可能だ。
さてどうしたものだろうか・・・
「ラミア、飛行船は持っていないのか?」
「飛行船?」
飛行船を知らないラミアが変な顔をした・・・
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