長い戦いの果てに①

 イグルはだんだん巨大化し怒りの巨人アンガージャイアントになって行く。


「父さん!!」

 グレスの叫びも聞こえない。大きくなっていくイグルの腹から大量の血が流れていく。

 巨大化する程に傷口が開き大きな傷となっているのだ。

 イグルは激痛に襲われているはずだが、イグルの目にはゴーレムしか見えて無かった。


 ミザカはその出血の多さに心配そうにイグルを見守る。

「イグル様のお腹からあんなに血が・・」


 グレスも心配そうにイグルを見つめた。

「たぶん自我を保つために何か傷をつけたのだろう。

 だが巨大化すればそれだけ傷口が開いてしまう。

 あの出血が続くなら長く戦うことは無理だろう。

 俺達も全力で行くぞ」


 サムリは昔を思い出し心配そうに声を震わせた。

「しかしイグル様は狂戦士バーサーカーに。。。」


「大丈夫だサムリ、父さんはそのためにあの傷を付けたのだろう。

 今は激痛に襲われてるだろう・・・それほどに本当に母さんを愛していたんだろう?」


 イグルの変身にゲバラとクルーラは喜んでいた。

「ついに狂戦士バーサーカーに変身しよったぞ。これで楽勝だ!!

 最大出力で奴を仲間の所に近づければ仲間同士で潰し合うだろう」


 クルーラも同じように考えたのだろう愛想よく返事する。

「アイアイサー、了解いたしました」


 魔道ゴーレムライオネス砂塵トルネード!!」

 砂の攻撃によりイグルは飛ばされるだろうと考えたのだが、イグルは飛ばされなかった。


「そうかアンチマジックだ。通常の魔法で攻撃しても駄目だ」


「どういたしますか?」


魔道ゴーレムライオネスの力を見くびるなよ、投げ飛ばしてくれるわ!!」


 魔道ゴーレムライオネスとイグルが取っ組み合いを始めた。

 魔道ゴーレムライオネスは自分より巨大なイグルを投げ飛ばした。


「見ろライオネスは無敵だ。あのような木偶の棒など・・うん?」


「ライオネスの腕がありません」


 ライオネスの片腕が無くなっていた。

 無くなった腕は砂に戻っていく。


「アンチマジックの効果だ、直ぐに残っている腕を切り落とせ。修復できなくなるぞ」


 残っている腕を切り落とすと腕は再生を始めた。


「ふう、焦ったわい、さて同士討ちを・・・」


「あいつら、全員でこっちに来ますよ」


 クルーラの言う通りイグル達は全員でライオネスに向かって来た。


「同士討ちもせぬとは・・・しかしアンチマジックが厄介だな・・・少し距離を取れ」

 魔道ゴーレムライオネス、後退りをしながら距離を取って行く。


「う~~ん、仕方がない。最後の手段だ精霊石を暴走させろ」


「何を言うのですか!!そんなことをしたら・・・」


「大丈夫だマグマ・ストリームをお見舞いしてやる。

 あれは魔法ではない単純に大地を溶かしたものを吐き出すだけだからな。

 いくら怒りの巨人アンガージャイアントでも魔法でないものは防げまい」


「しかし精霊石を暴走させていられるのは三十分ほどです」


「このままでは三十分も持つまい。

 奴に捕まればアンチマジックでこの魔道ゴーレムライオネスは砂の塊になるんだぞ。

 いいからやれ!!」


 最早作戦も何もない、何とかこの場を逃れる方法を考えるだけだった。

「はい分かりました」


 クルーラは気乗りがしないが精霊石を暴走させた。

 魔法は最低限、砂と土を取り込む時に使われゴーレム内部に取り込まれた砂と土は精霊石の暴走熱により一気に溶けた。


 なおライオネスの中も大変熱くなっていた。


 クルーラは結界を張りながらも板状のもので扇ぎ始めた。

「ゲバラ様、暑くて敵いませぬ・・・」


「我慢するのだ、奴らをもう少しで亡き者に出来るのだ」

 そういうゲバラも大汗を搔きながら我慢の形相だった。


 そしてイグル自身も本当は変身したことで自己の意識はもうない。


 腹の痛みも何も分からない世界、ただ昔の記憶だけが彼を支配していた。

「マグリ、グレス・・・、ガリア・・・」


 幸せだったころの思い出が彼を突き動かしている。

 そう今のイグルではなく、変身前の意思だけがこの巨人を動かしていた。


 その歩幅のためだろうか、最初に巨人がゴーレムに近づいた。

 そして巨人の手がゴーレムに触れる寸前、ゴーレムから赤い溶岩状になった液体が放出された。


「ぐわ~」

 強固な結界魔法で防御されているはずの巨人の腕はみるみる焼けただれた。



 少しの熱量であれば結界で防げただろう、だがその熱量は途方御なく魔法の結界防御限界を超えた熱量になっていた。


「イグルさん止めるんだ・・・」

 サンクスが叫んだが、イグルは引かなかった。

 腕が見る見る焼け爛れて行く中それでも掴みかかろうとするイグル。

 だがその手はライオネスの溶岩に阻まれライオネスには届かなかった。


 サンクスが必死に考えていた。

「だめだあんなに熱い溶岩を防ぐ方法はない。

 大量の水があれば、俺の魔法で・・・」


 グレスもサムリも手が出せないだが思いつめたように呟く。

「俺の結界なら、もしや。。」


 サムリはグレス見ると宥めるようにグレス様と呼んで説得した。


「だめですグレス様、結界の限界を超える熱です。

 どうしようも有りません」



 イグルは自分が死んでもライオネスを倒そうと近づいて行った。


「今しかない、今しか、そしてグレス達とその未来のために自分が出来ること。

 それはこれしかない」


 そう思い、イグルは、この巨人は、突き進むだけのものになっている。


 サンクスは焦っていた。

「あのままじゃダメで、イグルさんが、なんとかしないと!!水だ、水が無いとどうしようもない」


 サンクスの常識では「水などない、砂漠だから・・・」そう思っていた。

 だが昔ジェイが言っていたことも思い出していた。


「ジェイは砂漠でも水を出していた。

 そうだ砂漠だから水が無いのではない。

 水はあるんだ。

 俺は、ないと思い込んでいるだけだ。

 そうだ雲に水はある、だからここにもたくさんの水がある。

 そして少し地面を掘れは湿っているじゃないか。

 そうだ、砂漠の虫も、その水で生きているのではないのか?

 そうさ、ジェイがやっていたことを信じるんだ」


 サンクスは目を閉じて水を感じた。

 空間、地面の中、あらゆるところの水を感じようと感覚を研ぎ澄ましていく。


 やがて大きな水脈ほどの水が自分の周りのあらゆる所にあることが分かって来た。

「本当だったんだ・・・本当だったんだ。本当だったんだよ父さん・・・・ジェイを信じていいんだ」


 グレス達の方を向くと大きな声で叫ぶ。

「グレスさん、サムリさん、少しで良い時間を稼いでくれ」


 そう叫ぶとサンクスは魔力を最大限まで溜め始めた。

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