【挿話】イグルの回想 ガリアとマグリ①

 変身するイグルの脳裏に過去が走馬灯のように思い出されていた。


 それは併合前のザガール国。


 イグラと結婚したマグリは遠縁とは言え王族であった。

 そして二人の間にはグレスが生まれていた、当時はまだ十歳だった。


 そしてマグリにはガリアという弟が居た。

 ガリアにもリガルという妃が居り子供もサジ、シム、サンという名前の三人を授かっていた。


 ガリアはイグラを本当の兄のように慕っていた。

 もちろん今日もまたマグリのところに遊びに来ていた。


「姉さんイグラ義兄にいさんは居るかい?」


「あら、また来たの?リガル達を放って置いて良いのかしら?」


「今日はクラバト王の要件なんだよ・・・」


「またその言い訳ね」


「最近闘争が多くなってきている。王は今のままではザガール国は無くなってしまうのではないかと心配しているのだ。私も末端とは言え王族だ、出来ればそんなことはさせたくはない。もちろんイグラは王族ではないから闘争には巻き込むことはしない」


「分かっているわよ、あなた達がどんなに重要なことをしているのかはね」


 この時のザガール国王クラバト王は冷静にサンブルド王国からの侵略に対し対応策を考えていた。

 だがザガールの戦士の力を重視した戦い方では魔法という防御と攻撃に対抗が出来なかった。

 具体的には接近戦ではない魔法による遠距離攻撃に全く弱くそのために多くの犠牲も出ることが懸念されていた。


 しかもサンブルド王国側では戦争は些細な原因で始められる状況にまで情勢を持ち込んでおり対策を考えることは早急な課題だった。

 クラバト王は古代の書物ではザガール国でも魔法は使えていたことを知った。

 そこで数名の者に魔法と自分たちのメタモルフォーゼの関係を調べザガールの戦士にも魔法を使えるようになる方法を考えるように命じたのだ。


 その数名の中にガリアが居り、その協力者としてのイグラは古文書を読むことが出来る数少ない研究者だった。

 

「ガリア様、やはり怒りの戦士アンガーファイターから怒りの巨人アンガージャイアントに至る変身には一定の法則がありそうです」


「イグラ義兄にいさん、もう結婚してから十年以上になるんだよ。いい加減にガリア様は止めてくれガリアで良いよ」


「そういう訳にはいきませんよ。ガリア様はガリア様です」


「今回の調査内容が本当なら通常の変身能力と思っていたものが変身(メタモルフォーゼ)系の魔法の力だと証明できそうだな。我が民族は誇り高き民族であるが故に魔法を習得することに抵抗するものも出てくるからな。証明できれば今の怒りの戦士アンガーファイターのままで魔法を使えるものが出てくるやもしれない」


「その通りです、怒りの戦士アンガーファイターから怒りの巨人アンガージャイアントに至る変身を解明できれば何らかの魔力の法則が分かることでございましょう」


「ただ、ここまで分析に時間が掛ったのはエレメントという概念が邪魔だったからだ」


「そうでございますね、ここまで調査をしてみるとエレメントは主たる魔法の基礎ではないのではないでしょうか?」


「そうだな『暖炉の炎とエレメントを基本とした魔法を使った場合の炎が異なるという事実』に誰も気が付か無いのは人間がエレメントという概念を信じ込み誰も疑っていないことが原因なのだろう」


「自然が見せる炎はわざとらしさが無いのです、我々の変身がまるで元々の能力であるかのように振舞うのはエレメントという概念ではない自然な力から発生しているものだからかもしれない。だとすれば我々がこのメタモルフォーゼを発生させる原因を究明できればより強力な魔法を顕現させることが出来るかもしれません」


「今は一刻も早く怒りの巨人アンガージャイアント」の変身方法の確立が急がれる、活路はもっと大きな力でメタモルフォーゼすることではないのだろうか」


「古文書によると今のような負のエネルギーである「怒り」ではなくもっと大きな「生命を燃やすような力」が必要だとありました。ただ命を燃やすような力であるが故に魔の力に負けるとありました」


「命を燃やすような力かどんな力だろう、それより魔の力ってなんだ?」


「魔の力は自分の力を超える力を持つため自分意思を超える魔物の意思が憑依すると記述されています」


「魔物の力?魔法が使えるようになるということだろうか?そうだとすればクラバト王へ良い報告が出来るんだが」


「いや、そういう意味ではないような気がします。もし魔法であれば負けるという表現ではないはずです」


 話をする二人の傍にグレスがやってくる。


「叔父上さま久しぶりです」


「おお、グレスではないかどうだ怒りの戦士アンガーファイターにはなれたか?」


「それがまだ全然変身できないよ、なぜなんだろう・・・」


「焦ることは無いさグレスは優しいからな。怒りの戦士アンガーファイターではなく優しい戦士になれば良いさ」


「叔父上、それはおかしいだろう?優しい戦士ってなんだよ?人が真剣に悩んでいるのに茶化すなんて酷いよ」


 そう言うと母親に言いつけに行くようにマグリの傍に行くグレスだった。


「マグリが無意味な怒りを禁じているからなグレスは怒りによるメタモルフォーゼの概念が我々と違うのかもしれない。あの子にこの魔法理論を教えることが出来ると新しいザガールの戦士が誕生するかもしれない」


「グレスは本当に将来楽しみな子だな」


  ◆   ◆


 それから数年後ついにサンブルド王国側からの侵略が始まり両国は紛争状態に入った。

 もちろん接近戦ではない魔法による遠距離攻撃が出来ないことによりザガール国には勝ち目はなかった。


 ガリアとイグラも戦闘に参加していたが後退を余儀なくされた。


「イグラここはいったん引くぞ、体制を立て直さねば全滅する」


 そして小さなガリアの収めている領内に戻った。

 だが、戻る最中にガリアの領内に大きな火の手が上がっているのが見えた。


「まさか・・・」

 ガリアの心配は当たっていた、ガリアの収めていた領地は全て火の海となっていた。


「大規模遠隔魔法か・・・」


 それは何十人という術者を使い離れた場所に炎の攻撃をする魔法だった。


 ガリアの目に焼け落ちる城が見えた。


「リガル達はちゃんと逃げ伸びたのだろうか・・・」


 末端でも王族であるということ、それは逃げるなどと言うことは出来ない立場だろう。

 だがガリアは王族であろうとリガル達に無事でいてほしいと望んでいた。

 そう言う意味では誇り高いザガールの戦士としては失格なのかもしれないと思った。


「優しい戦士、俺もそうなのかもしれないな。きっとマグルの傍に居たからだ」


 イグルはその時何も言えなかった、ただ今は早急にリガル達の状況を確認すること第一であった。


 今のガリアとイグルにはリガル達が無事であることを望むだけだった。

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