ツクヨミに願いを①

 クレスト達のゴーレムも魔道ゴーレムベアラと呼ばれる黄色いゴーレムに変形した。

 ベアラは大きな砲台を2門両肩に抱え下半身が精霊石の力で走るいくさ車だった。


「ふふふふ、この砂漠地帯ではこのベアラの機動性に敵う者はおらん」

 そういうとベアラは足場の悪い砂地を高速で移動を始めた。

 

「ともかく逃げるぞベルトガ最大全速で逃げろ!!」


 ただし彼らは知らなかった、フォグレスであるフェスリーの砂漠での機動性の高さを・・・

 なぜなら浮遊しながら走るという反則技なのである、いくさ車などすぐに追いつかれた。


「ベアラより早いのか・・・なんだこの大きなフォグレスは!!」


 俯き悩んでいたロザリアはベアラに乗る二人に向かって最後通告することにした。


「あなた方に勝ち目はありません、降伏しなさい」


 もちろんクレストは応じるはずもない。

「うるさい小娘が、所詮、お前などそのフォグリスの威を借る小娘だろうが!!、偉そうに我々に命令するな!!」


 ロザリアはその言葉を聞いて考えていた。

(そう、その通りですね。今の私の評価『小娘』・・・そう。国を失い王と王妃も居なくなった。なのに王女だけ存在するなんて不自然。私は威風もなく恐れられる存在でもない何も出来ない小娘。それが今の私。フェスリーやラミア様達に頼り守られるだけの弱い存在)


 ベアラの中では小声でクレストとベルトガが話し合っていた。

「クレスト様、相手は小娘ですから一時降伏するフリをしたら如何でしょうか?」


「なぜだ?」


「対峙して、あっちの女が出てくると勝負になりませんよ」


「大丈夫だ、ロザリアはまだ子供だ。あっちの女は動く気配がないから本気でロザリアに我々の相手をさせようとしているのだろう、そうだロザリアの心を折ってしまえば隙ができるはずだ」


「隙が出来ても、あのフォグレスは早いですよ?」


「大丈夫だ、魔道イーグレットが出現している。少しの隙でも出来れば『爆裂脱出魔法』でバグラ様のところに逃げる、いや合流するのだ、魔道ゴーレムが2体ならば我々の勝ちだ」


 そういうとベルトガに命令する。


「安心しろベルトガ、我々は負けん、まずはサンドストームだ」


「はい、クレスト様」


 そして二人の息の合った技が発言する。

「「魔道サンドストーム」」


 ベアラの周りに大きな竜巻が起こり砂を巻き込んで大きくなっていく。

 一気にその竜巻がフェスリーに襲い掛かっていく。


 それはサンドブラスターと同じように全てを「やすり掛け」するように磨り潰してく強力な攻撃だった。

 

「攻撃しながら後退するぞ」


「しかしサンドストームで磨り潰されないものなど居ませんよ」


「その過信が間違いなのだ、なるべくバグラ様の方へ向かうのだ、バグラ様もロザリアを確保しようとしているはずだからな」


 少しずつ後退するベアラ、その考えは当たっていた。


 フェスリーはとても怒っていた。


 黄色いゴーレムの中から自分の大事な友達ロザリアを「小娘」と呼んだことに怒っていた。


 そのことはフェスリーの体の周りの炎で分かった。

 フェスリーが怒ると体から炎が噴き出すが、怒りが大きくなると炎を大きくなる。

 

 その炎は砂交じりの強風の砂を溶かし風を押し返していた。


 ベアラの攻撃が無効化されていると分かった。

 しかしその押し戻す高温の空気が迫るため攻撃を中止できない。

 再びロザリアを攻撃し始める。


「神に見放されしロザリア、ついに悪の力である魔獣に頼るとはな」


「悪の力ではありません、フェスリーは友達です」


「友達?馬鹿なのかお前は?、それともお前も魔獣なのか?」


「馬鹿でも構いませんフェスリーは友達です。そして神は私たちを見放したりはしません」


「今のお前や元のセグリア国民の状況を考えて見れば分かるだろう。お前たちの信じる神など所詮まがい物だと知れ」


 その間にもベルトガに命令していた。


「今のうちにベアラ砲を発射する準備をしておけ」

 そう命令されてベルトガは長い術式の詠唱を始めた。


「私たちの神は、まがい物なのではありません」


「そうかな、儂はまがい物だと思うがな、そうそうセグリア王国が陥落した後聖女たちが大量に我が国の捕虜になったのを知っているだろう、あの者たちは良かったぞ、みんな生娘だったからな」


「まさか・・・彼女たちを」


 脳裏に聖女たちの顔が浮かぶロザリア。

 王城へも出入りしていた聖女たちは多く、ロザリアの知り合いも多かった。

 その彼女たち一人一人の顔が浮かぶ。


 吐きそうになる程、涙に薄れゆがむ周りの景色。

「あなたは、彼女達の純粋な神への信仰の心を知っていて、そのような恐ろしいことを・・・」


「お前たちの邪神への信仰心など関係ないわ、我が神が与えた賜うた獲物(生娘たち)だ、本当に何度思い出してもあの者たちの柔肌は忘れらない。ははははは我が神は偉大だ」


「酷い・・」

 その声は涙声だった、だがその声がチャンスだとクレストには思えた。 


「あのような辱めにあっても邪神を信じて最後は自害していったわ。そうだ、お前たちの邪神は最後まで助けることはなしに大勢の聖女を見殺しにしたのだ」


 その間にもベルトガに発射準備をするように合図する。


 絶望が自分の中で広がり無力感がロザリアを襲う。

(そんな悲しい話は聞きたくは無い。でも罪人を裁いたり罰を与える者はすべてを聞かなくてはならない。今の話もこの男だけではなくもっと多くの者が関わっているはず、そしてその全員の罪の告白を平常心で聞き続けることが必要になるのね。私は無力だと理解していたはず、だから公安、司法、そうよ国があれば・・・たとえ、それが人にすべて任せることだとしても、私たちの信じるモノを守るために、失った大きなものが必要なんだ・・・ほんと、私はまだまだ『小娘』ね)


 ロザリアは前を向いた、そのことに気づくかのようにフェスリーは炎の温度を上げた。

(今私に出来ること、それは聖女達の仇を打つことではない。そんなことをしても誰も感謝しない。そう彼女たちが生きていてもそれは止めるだろう。今の感情は私怨でしかない。彼らの罪はもっと深く、多くの者を傷つけ蔑ろにして来たのだろう、だとすれば、今、私に出来ること、それは・・・)


 ツクヨミに手を掛けるロザリア。

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