グレスとミザカ①
デザート方面隊ザフグルート基地。
そこは砂漠の中にある元ザガール国の国民を2千人とそれを管理するサンブルド王国のデザート方面隊五十名ほどの部隊で構成されていた。
管理者達は管理楼と呼ばれる塔に住んでいたが元ザガール国民はテントのような粗末な仮住まいのままであった。
デザート方面隊バグラ隊長は報告を待っていた。
だがクレスト参謀の報告は期待しているものでは無かった。
「バグラ隊長、ロザリア王女追跡部隊の魔導士からのライフシグナルが消失しました。どうやら全滅した模様です」
「砂漠の勇者などと言われても大したことは無かったと言うことか」
「相手はセグリア王国のシルクス団長を倒した奴らですから、二十名では力不足と言うことでしょう。しかし砂漠の勇者たちはこの夜でも襲撃が出来るのです。ですから今は奴らも安心して居ることでしょうから、今から夜襲を掛けようと思います。流石に奴らも暗闇から襲われれば一溜りもありますまい」
「クレストよ、既に一度失敗しておるのだ二度目は無い。我々に失敗は許されん」
「その点は大丈夫です、ザガール兵など捨て駒です、百名でも二百名でも幾ら出陣させても惜しくはありません。この作戦の夜襲にはこれから直ぐに赴きます。そして今回は五十名を前方から先兵隊として襲撃させます。そして奴らが後退することも考えて、奴らの後方の二方向から時間差攻撃を掛けて行きます。この攻撃で休む暇も与えず、避ける方法も無いため王女を手に入れることが出来ましょう」
「そこまでの手段であれば安心だな。ゴーズ団長に良い報告が出来るように直ぐに魔導部隊とザガール部隊を調整後直ぐに出発しろ」
「はっ、了解いたしました。必ずや良き報告を齎せましょう」
クレストが指令室よりザガール分隊の指令室へ行く。
「イグラ、イグラは居るか?」
「クレスト参謀如何いたしましたか?」
「先程出発したお前達の先遣隊二十名は全滅したぞ。自慢の部隊とか言っておきながら情けないものだ、お前達も大したことは無いな」
「まさか、グレスの隊が全滅?」
「グレスだと?グレスと言えばお前の
「その通りでございます、我が
「馬鹿め、お前が出陣せず
クレストは簡単な地図を描いて作戦を説明し始める。
「このままでは我が軍のゴーズ兵士団内での評価が下がってしまうからな、直ぐに攻撃を繰り出すのだ。次の出発のために先鋒五十名と後方二方面に二十名ずつで四十名、計九十名の出陣準備をさせろ。もちろんお前達が得意な夜襲で攻めるぞ」
「了解いたしました、直ぐに準備致します」
「そうそう、失敗した二十名の家族はまだ生かして置いてやる。だが今回失敗すれば、前回失敗した者の家族と今回参加した者の家族は処刑する。そう心してしっかり働け」
イグラは管理楼から出ると、直ぐにザガール戦士達を広場に集めた。
集まったザガール戦士達はイグラのいつもと様子の違う顔に大事が起こったことを感じていた。
いつもと違いイグラが悲しそうな声でひと言目を発した。
「グレス達が全滅したようだ」
皆に衝撃が走る、その中で戦士の一人であるサムリが聞き返した。
「イグラ様、それは本当でございますか?選りすぐりの戦士二十名がですか?」
「クレストからの話だ、間違いは無いだろう」
大声で泣き始める女戦士ミサガ、イグラはミサガに声を掛ける。
「ミサガ泣くな、勇敢に戦ったザガール戦士には涙を手向けてはいけない、その健闘を褒め讃えるのだ」
涙を流し始めるサムリ。
「『お前はもう直ぐ子供が出来るから何かあるといけない』と代わりにグレス様が出発した、まさかこんなことに。私が代わりに行っておけば良かった」
「安心しろ我が子グレスは生まれるお前の子供にお前を会わせたかったのだ。グレスは後悔などしていないだろう」
その言葉を聞いて涙を拭うサムリ。
「私などに勿体ないお言葉です」
「皆、聞いてくれ。また出陣の要請が来ている、今回は九十名だ。前と同じく元セグリア王国の王女追跡だ」
驚きを隠せないサムリ。
「まさか九十名?相手は一個師団ですか?」
「セグリア王国にそんな師団が残っている筈がない、これは予測だが居ても十名以下であろうと思う」
「そんな人数に九十名は多すぎる」
「サンブルド王国の魔導士も含めて前回二十名以上で作戦に失敗したのだ、サンブルド王国も必死で必勝の体制を取ろうとしている」
サムリが真剣な顔でイグラに申し出た。
「今回こそは私が出陣させて頂きます、必ずやグレス様の無念を晴らし我が民族の誇りを取り戻して見せましょう」
「グレスはそんなことは望まないだろう、お前は生まれてくる子のために・・・」
だがサムリは話を途中で遮った。
「私は子供には勇気を残したく考えております。グレス様を身代わりにした親がいるなど子供にとっては不幸でございますからな」
イグラは少し悩んでいたがサムリの要望を聞くことにした。
「本当に良いのだな」
「はい、後悔はありません」
ミサガも同じく名乗り出た。
「グレス様の弔い合戦です」
「お前は間違っているぞ、元セグリア王女は襲われたから応戦しただけだろう、そうだ仇などいない。それと弔い合戦などグレスは願っていない。我々は狂戦士ではないし、ただ戦うだけの物でもない。いつものミサガで在って欲しい、ミサガよ、お前の優しさにグレスは惚れたのだ」
涙を堪えるミサガ。
「でもグレスのために何も出来ないなんて残酷です」
「今は、祈ってやってくれ」
九十名の選抜は直ぐに終わった。
サムリをリーダーとする先兵隊が準備を終えた。
サムリはイグラに出陣の許可の礼を言うと勝利の誓いをした。
「グレス様を倒したものが居るのであれば私が相手を致しましょう。そして勝利しザガールの名を皆に知らしめます」
その後サンブルド王国の魔導士十名が付き添い先兵隊は出陣して行った。
だが、イグラは知らなかった、ミサガが先兵隊にこっそり紛れ込んでいることを。
◆ ◆
最初に食事をした男が俺に話しかけてくる。
「俺の名はグレスこの隊のリーダーだ、今回の戦闘で一人も欠けることなくここに全員集まっていることは奇跡だ礼を言うよ。あっそう言えば名前を聞いても良いか?」
「俺はジェイ、連れが付けた名前だ」
「ジェイか、でも本当の名があるような言い方だな?本当の名前は秘密なのか?」
「連れに新しく付けてもらった名が気に入っているだけだ。それ以外に理由もないし本当の名前なんかどうでも良い」
そうだ前の世界の名前はこの世界の人間には馴染みにくいだろう、それよりこの世界で呼ばれるならラミアの付けたジェイが一番いい。
「それよりお前達の家族は大丈夫なのか?」
「分からない、でもな今の俺達ではどうすることも出来ないな」
その話は他のメンバーも消沈する話のようだ、みんな暗い顔になった。
「だがもし本当に水が手に入るのであれば、せめて残っている民を新たな場所でで何とか救いたい」
グレスは頭を地面に擦り付ける様にしながら嘆願した。
「だからお願いだジェイ、水を、命の水を俺達にまた与えてくれ」
その声は心から絞り出すような切ないものだった。
「心配するな、何とかするさ!!大船に乗ったつもりで居るんだな」
「「「ありがとう、ジェイ」」」
気付くと周りの男達も一緒に頭を下げていた。
そんな雰囲気で話しているとラミアが結界の窓から手を振っていた。
ラミアの傍に行くと『中に入れろ』という手の動きに思えたので結界の中に入れた。
「俺の名前を付けた相棒のラミアだ」
「名前は冥土の
「冥土の
俺の知らないラミアの呼び名だった。
◆ ◆
ラミアも壁の向こうに行ってしまった、残こされたふたりに向こうの声は聞こえていた。
その結界の壁にもたれ掛かり暗い顔のロザリア王女とサンクス。
サンクスは面白くなさそうな顔をしていた。
「ジェイの馬鹿野郎。なんであんな奴らと・・・あいつ等もお父さんを襲ったんだ。なんであんな奴らと仲良くしてるんだ。あいつ等だって父さんの仇だ。姫だって奴らに王城を攻撃され家族を・・・、それなのに何で助けようなんてするんだ、絶対にダガダには行かない、そうだろ姫」
「私は・・・」
ロザリア王女は膝を立てて座って膝に顔を埋めていた。
顔を少し上げると呟くように答えた。
「私は本当に愚か者ね、何も知らなかった、何も知ろうとしなかった」
サンクスはロザリア王女の言っていることの意味が分から無かった。
「どうしたの姫?ジェイ達に幻滅したの?」
覗き込んだサンクスの目に涙に濡れた姫の顔が写る。
「違うわ、ジェイ様達は凄いわね。私は自分のお愚かさを思い知りました」
「なんでだよ、あんな敵を迎え入れて仲良くするジェイのどこが凄いんだ、あいつ等はお父さんの仇なんだよ、姫だってお城を攻撃されただろ」
「そうね、そうかもしれないわ。私もそう思っていた。あの時は『なんでそんな酷いことが出来るの?』って叫んでいた。でも私はその前に彼等の何を知っていたのかしら、そして彼等にどんな関りを持っていたのかしら?」
ロザリア王女は顔をあげると両手で顔を塞ぐようにして隠した。
「そうよ何の関わりもない何も知らない彼等のことを、ただただ悪い人達と思っていたのよ」
「別に良いじゃないか。知らないことは知らないことだよ、人の道に外れるようなことをするような奴らのことなど知らないで良いんだ」
ロザリア王女はまた立てた膝に顎を乗せる様にして話始めた。
「私はセグリア王国に育ったからセグリア王国の常識しか知らなかった。ザガール国の人は強さを求める戦闘に特化したプライドの高い民族で野蛮な人たちだと教えられた。そしてザガールがサンブルド王国に併合された時もザガール国の人は敵になったという人たちの言うことだけを信じていました」
「どこも間違ってないじゃないか、どこか間違っているの?姫様」
ロザリア王女は少しの間沈黙した。
「でも本当はどうなんだろう?私は自分で体験してこの砂漠で生きて行くことが相当難しいことを知ったわ。だからザガールの戦士達が強さに傾倒するのも分かるような気がする。この砂漠ではあの強さが必要なのよ。そして彼らにとっての強さやプライドは砂漠で生きて行くために必要なことだと思うの。でもその最も高く大事なのはずのプライドがあるのに今彼らがジェイに頭を下げているのよ」
「ジェイが強いから、強者に媚びを売っているんだよ」
「違うわね、家族、友、同族を守りたい---そうね、プライドも何もかもをかなぐり捨ててジェイに頼っている姿。それは私達と変わらない家族や友を思う普通の愛情だと思う」
「俺達と一緒ならなんであんな酷いことが出来るんだよ」
「水・・・それを奪われた、それは皆の命の水・・だから言いなりになるしか無かったじゃないかしら?」
「プライドがある民族なら、そんなことに負けたらダメだろ!!自分達だけ良ければ良いわけない、だってお父さんは、この世でたった一人の俺のお父さんは・・・」
「満たされている時は誰でもそう言えるかもしれない。でも思い出してみてサンクス、あなたも私のために水を得ようとしてジェイに剣を向けたんじゃないの?」
「それは・・・・」
「ごめんなさい、私のためだったのは分かっているわ、本当にごめんなさい弱い私を許してください・・・自分勝手と思われても追い込まれると、そう言う行動に出てしまうことを常識や正義感だけで責めることは出来ないのかもしれない、ジェイは追い込まれている状況を何とかすることを選択しようとしている」
無言のサンクス。
「サンクス、あのね私はジェイと一緒にダガダに行こうと思う。そこに行けば私が知らなかったことを知ることが出来る気がする」
その言葉を聞いて目を閉じているサンクス。
(馬鹿ジェイなんでこんなことをするんだ。そうだ今も分からないけどお父さんが言っていたことを思い出した。もしジェイがお父さんの言っていたことと同じこと考えて居るなら?そうだとすると・・・そうだ)
何かを考えている様子だったサンクスは少し間をおいて口を開いた。
「大丈夫です、俺もダガダに行きます。馬鹿ジェイについて行かないと何をするか分からないからね」
◆ ◆
「冥土の
「知らないのか?この砂漠には妖女ラミア様という妖怪が居るという話だが?」
「ああ、聞いたことはあるが?冥土の
これにはラミアも同意した。
「私もよ」
グレスは俺達が知らないと言うと得意になって冥土の
「誤解だよ。ラミア様と言うのは確かに人外な存在だ。でも我々砂漠で彼女の近くで見ている者には分かっている。ラミア様は死を迎える人に寄り添い安らかなる死へ導くものだ。人外であろうと彼女は高貴な心の持ち主さ、例えばな昔俺たちの国のには強いが頑固な戦士が居てな・・・」
彼は彼の民族に伝わる話を沢山話してくれた。
「そうなのか知らなかった、このラミアはもしかするとその妖女ラミア様かもしれないぞ?」
「ないない、そんなことは絶対にない。だってその格好は女神レゾナンテの恰好だからね。冥土の
「そうなのか?」
俺はラミアに聞いてしまった?
「そうね、人外は神の怒りを買うから女神の格好はしないでしょうね」
「なるほど」
思わず納得してしまった。
この旅を始めるにあたりラミアが服装を変えたのはそう言う理由なんだろうか?
「本当にお前達は仲が良いな、なんか二人で納得しているな?」
「すまない、それよりラミア何か用なのか?」
「貴方方は砂漠に民なのでしょ、これを見て欲しいの」
ラミアは紙を出してきた。
紙を見たグレスが驚いて内容をまるで紙を舐めるかのように上から下まで眺めていた。
その顔は段々と真剣になった。
「これを、これを何処で手に入れたのですか?」
「あるダンジョンの宝箱の中に入っていたのよ」
「宝箱?考えられないな」
直ぐに分かる嘘だ、きっとラミアがそいつの最後に関わった時に預かったのだろう。
「真剣に読んでいるが、その紙はなんだ?」
「そうね、私も聞きたいわ」
グレスは紙の内容を見せながら説明を始めた。
「これはクラバト王の伝言だ」
「「「クラバト王」」」
全員の声が揃った。
「クラバト王は最後の王に成ってしまった。王城陥落後追っ手から逃げ延び併合された我が国を取り戻す方法を探し求めています。ただ一緒に逃げ延びていた王族達はその後次々に捕らわれ処刑されて行きました。しかし国王の所在は今も不明だったのです、その国王の伝言というか遺言です」
「 「「遺言?」」 「「では王様は・・・」」 」
周りの者達のすすり泣く声が聞こえ始めた。
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