砂漠の戦闘民族
「もう来たのか?」
大きな声が出てしまった。
今日はゆっくりと休もうと思ったのだが、夕方にはサンブルド王国の追っ手がやって来た。
それも緑色のトカゲのような生き物に乗って襲ってきた。
もう直ぐ夜だぞ?夜襲と言うのはこの砂漠では不利だと思うのだが、どうなんだろう?
小僧に聞いてみた。
「もう直ぐ夜だから虫や小動物が襲ってくるのに何故今頃襲ってくるんだ?」
小僧が襲ってくる奴らを見ながら、納得したように答えてくれた。
「あのトカゲは砂漠の民であったザガール国の者達だ、夜になっても対応策があるんだよ。よう~し、俺も戦うぞ」
小僧がそう言って武器を持って出てきた。
「小僧はもう少し休んでおけ」
「なんでだよ、足の怪我は大丈夫だ、靴も作ってもらったし俺も戦う!!」
足元には俺がさっき作った靴を履いていた。
この靴フワフワの毛が密集しているが蒸れない不思議なインソールが入っている。
作った本人が言うのもなんだが、なんとも気持ち良さそうなものである。
そこでみんなの分を作ろうと思っていたが、今のところ小僧の分までしか出来ていない。
つまり、その前に襲われた訳だ。
そう襲われている。
しかし不思議なことに攻撃者は魔法も使わないで相手は剣や槍で物理攻撃しかしてこなかった。
今張っている結界は、とても強固なのだ、剣や槍程度の攻撃では簡単に壊せない。
それが分からない訳でも無いだろうに不思議だ。
「この分なら明日まで中に居ても大丈夫じゃないかな?」
この言葉に小僧が噛みついて来た。
「ジェイは何を暢気なことを言っているんだ、あれはサンブルド王国に併合されたザガール国の砂漠の勇者たちだぞ甘く見ると痛い目に遭う」
「そんなに砂漠の勇者って凄いのか?」
「ザガール国の砂漠に勇者達だ『
と説明を聞いていると不意に大きな音と振動が伝わって来た。
ドド~ン
どうやら爆裂魔法が炸裂したようだが、砂漠の勇者達も驚いていた。
魔法を発現させた魔導士数名が少し向こうに居るのが分かった。
「あれもそうか?」
「あれはサンブルド王国の魔導士達だな、ザガール国の勇者は魔法を使わないんだ!!」
魔導士は三名だったがその内の隊長格が勇者とかいう者達に偉そうに指示していた。
「お前らは本当に馬鹿だな、そんな攻撃で結界が壊れる訳が無いだろう、俺達が結界を壊すから下がっていろ!!」
そんな話が聞こえた、この程度の魔法しか使えない相手なら問題はなさそうだ。
特に負ける要因は無いので俺一人だけ外に出た。
とりあえず大きな声で存在をアピール。
「結界を壊されると困るんで帰ってくれるかな?」
外に出た瞬間に、勇者とか言う男たちは剣を持って俺に襲い掛かって来た。
なるほど早い、そして全員が正確に俺の急所を狙ってきていた。
でも遅いんだ。
いや通常だったら早いと言うべきだけど戦闘用の並列意思を多重化している俺には遅く感じられる。
その時だ、戦士達に向けて魔導士から攻撃があった。
ドド~ン、爆発音とともに数名が倒れた。
「お前達は何をやっている激怒すればそんな奴倒せるだろう。ほら早く激怒しなければ仲間が死んでしまうぞ」
そう言うとまたしても勇者達に攻撃を加える魔導士たち。
あちらこちらで叫び声がする。
「わぁ~ぁっ」
「があぁぁ~~~」
戦士達が叫び終わると、やがて数名の戦士達は巨大化していく。
その身長は三メータ近くなり、発達した筋肉と重厚な感じとなったその体で、俺に襲い掛かってきた。
ドシ~ン
さっきとは違う、体に纏う結界があるにも関わらず俺は吹き飛ばされた。
あれが
身体強化魔法の特殊版だな。
あの力で押されると結界も危ないかもしれない。
しかし不思議だ、戦士達はこんな力があるのならなぜ最初から
それとあいつ等だ。
そうだ魔導士たちだ、あのやり方は気に入らない。
「サンダーボード!!」
一声発するとサンダーボードが顕現する。
これもマクロ化してある魔法だ。
魔導士に向けて俺はサンダーボードに乗って爆走し始めた。
驚いたことに
ゆうに時速で言うなら60キロは出ているだろう、その速度は野生の動物並みの速度だ。
だがサンダーボードの速度はこんなものでは無い。
俺の狙いは三人の魔導士だった。
憶測ではあるがたぶん奴らさえ始末すれば戦士達とは話が出来るかもしれない。
なぜなら最初から全力で襲ってこないのは無駄な争いは好まないと考えたのだ。
ただ戦士達の正確に俺に向かって飛んで来る矢、ある意味うっとおしい。
でも結界に当たって弾き飛ばされるので気にはしない。
三人の魔導士はこんな乗り物は見たことが無いのだろう。
俺が不思議なボードで高速で移動することに驚いていた。
呆気に取られている奴らに、サンダーボードの動力源である電気をお見舞いしてやった。
あれ?・・・真っ黒?
「しまった・・・やっちまった」
少々感電する程度だと思っていたが三人はまる焦げになって倒れた。
サンダーボードは、俺を乗せて高速での移動が出来ると言うことは相当な電力が動力源である。
つまりそんな電力を食らってしまったら、そりゃ焦げるな。
また矢が大量に飛んで来たので避けようと思った時、トカゲの強襲にあった。
その姿は統制が取れており確かに戦いなれた者達の姿だった。
「やるね兄さんたち!!」
そう言うと俺はサンダーボードの速度を上げた。
体感だが彼らは時速100キロ近く出ているようだった。
俺は速度を上げて追いつけない状態から、一気に反転し彼らの正面にぶつかる直前まで近づいた。
仰け反る様に避ける男達を横目に結界まで戻ると数名が剣と槍を持って待っていた。
今の段階で負ける気がしなかった。
「止めておけ、お前達では俺に勝てないよ」
俺の直前の男は口を開いた。
「それでも俺たちは家族のために戦わなければならない」
「家族のため?」
「お前の知ったことでは無い!!」
そう言うと俺に襲い掛かる男。
仕方がない、俺は剣を抜いた。
ただし剣を鉄の模造刀に変えると構える。
大体通常に人間の速度で俺に勝てるわけがないのだ。
スローモーションで動く男に力の限り腹に切り込んでやった。
「グァッ」
そう言うとアッサリ男は倒れた。
鉄の模造刀である、つまり塊で殴られるのだそりゃ気絶するよな。
そして追いついてきた
気のせいか彼の筋肉は縮小しているような気がした。
たぶん俺が魔導士を倒したので、怒りの感情が消えて変身が解けてきているのだろう。
「止めろ、お前達が戦う理由は無いだろう」
それでも
俺は鉄の模造刀で同じように力任せに叩きつけた。
変身が解けて行く男は防御することも無くその攻撃を受けていた。
これが本当の剣であれば男は死んでいるかもしない。
そう言う覚悟なのかもしれない、
そのまま立ち塞がった残りの者を同じように力任せに叩きつけて倒して行った。
最後に数名のトカゲに乗っていた者達が俺の傍まで迫っていた。
「いい加減にしろ!!」
そう言うとさっきよりは威力を弱めた電撃をトカゲごと食らわせた。
電圧は高いが電流は少ない目にした、多分スタンガン見たいな攻撃だと思う。
この攻撃の結果、全員が倒れた。
「何にも嬉しくない勝利だ」
大人しくさせるために気絶させた。
でも生かして捕えても仕方がないよ。
困って挙句、とりあえず全員縛り上げた。
ただし時間が時間だ、一時間もしない内に日が暮れる。
このままにしてはおけない。
ここは夜になると多くの虫や小動物が出てくるのだ、その虫に襲われれば死を待逃れないだろう。
俺は捕まえたものを虫から守るため予備結界を張り中に縛り上げたまま保護することにした。
そうそう、もちろん武器は取り上げておいた。
小僧は不満気だった。
「なんでそんな奴らを生かしておくんだ、いっそ外に放り出しておけば虫に始末してもらえるだろう」
「そうは行かないよ、俺は人殺しじゃないからね」
結界の間には様子が分かるように小窓を開けておいた。
小一時間ほどすると、男たちが気が付き始めた。
縛られた自分に気づくと驚いていた。
「なんだこれは、俺達をどうするつもりだ」
当たり前のように俺は答えた。
「外に置いておくと虫に襲われるから中に入れたんだ」
「なぜ殺さない」
「俺は人殺しじゃないからね、虫が居なくなる明日には釈放してやるよ」
「釈放だとなぜ?」
「お前達を指令していた三人はもういない、だからお前達も死んだことにしてどこかに消えると良いじゃないか。俺達に付きまとうなら死んで貰うけどね。お前達元ザガール国の勇者なんだろう」
全員が気づいたので、俺はそこに全員分の食事を運んで傍に置いた。
そして俺達の結界に戻ると一人の男の縄を魔法で解いた。
男は驚いていた。
「これは何のつもりだ」
「お前が全員の縄を解いてやれ。食事は全員分あるから仲良く食べるんだぞ。そうそう食事は大丈夫だよ。わざわざ毒なんか入れないよ」
男は全員の縄を解いた。
しばらくは誰も食事に手を付けなかったが、ある時一人が食べ始めた。
他の者が食べた男を罵倒する。
「施しを受けるのか?」
「既に命を助けてもらった上、縄を解いてもらった時点で施しを受けたことになると思う。毒なら歓迎さ。そうだ奴の意図が分からないが食べてみないとそれすら分からないだろう、みんなも食べろ」
そう言われて男たちは食事を始めた。
「「なんだこれは、食べたことが無いものだ」「おいしいじゃないか?」「なんだこれは?」」
食事中、緊張が解けて行くにつれ彼らは饒舌になっていた。
食事が終わると最初に食べた男が大きな声を出した。
「美味しかったよ『ごちそう様』、全く驚きだな。これは情けでも掛けたつもりなのか、なんか答えろよ」
その言葉に返事をするために男達の結界の中に入っていく。。
「お前は馬鹿か、まさかこっちに入って来るとはな」
そう言うとさっきの男が横に来て俺を羽交い絞めにしようとした。
「残念だな、俺の周りも結界を張れるんだ、そんなことは意味が無いよ」
「そうだろうと思った」
男は羽交い絞めの手を緩めた。
「俺達に情けを掛けてどうするつもりだ?」
「情けなんか掛けていないさ、俺は人殺しでは無いからお前達を釈放するだけさ」
「そんなことをしたらまたお前達を襲うぞ?」
「それでも良いさ、お前達は命令されているから俺達を襲っているだけだろ?家族のため・・かな?」
「そうだ家族を人質に取られている」
「さっきも言ったがここで死んだことにすれば、そのまま逃げても分からないんじゃないか?」
「我々砂漠の民はもうここで生きて行くことは出来ない。数年前、奴らが土の
そうか水を取り上げられた砂漠の民は死ぬしかないな。
「それなら水があれば何とかなるのか?」
「そうだ命の水だ、だがそんなことは誰にも出来ないさ」
「分かった、水は俺が何とかしてやろう」
「いい加減なことを言うな、土の
「大丈夫だ水は何とかしてやる。ただこの場所では奴らに狙われるだろうし何かと問題だろう。どこかお前達が隠れ住むところがあれば良いんだが、何処かに無いだろうか?」
「それならダカダの町が最適だろうな」
「ダカダの町?」
周りの奴らからも声が聞こえてくる
「「「伝説の始まりの都市ダガダ」」」
「俺たちの国には全ての終わりが迫る時、またダガダから国は芽生えるという云い伝えがあるんだ」
さて、問題はダカダがどこにあるかだ、そして最大の問題は寄り道しても姫や小僧が許してくれるかどうかだからな・・・
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