二章 砂漠の民

セグリア王国

 さて西を目指した気楽な旅で、この旅の本当の主役はお坊さんで準主役はお猿さん。


 違うな目的地は東南だったし、お坊さんではなくお姫様で猿でなくて小僧だった。


 なんか小僧の歩き方がおかしい。


「小僧大丈夫か?」

 砂漠の暑さは結界を纏わせる腕輪があるので問題は無いはずだが?

 どうも足元がフラフラしている。


 流石にこの砂漠の砂の中は子供の足では大変なのだろうか?


「へん、大丈夫に決まっているだろ!!」

 痩せ我慢の小僧が小走りでやって来る。


「お前もやせ我慢せず、フェスリーに乗ったらどうだ?」


 小僧の顔は真剣だった。

「俺はこんなことではへたばってられないんだ、俺達を送り出してくれた皆のために」


 小僧その理論はおかしいくないか?

 本当に皆のことを考えて居るなら少しでも早く着くことが重要だろ?


 そう思ったが、小僧の不調の原因がわかった。

 だが口には出さないで、今は一度休むことにした。


「昼ご飯にしようか」


 小僧がホットした顔になった。


 ロザリアのためにも、本当は少しでも早く目的地を目指すべきだ。

 それでも無理をすると逆に着くのが遅くなるだろう。

 そうさ、今は休むことにしよう。


 俺は結界ハウスを作ると皆で中に入った。


 うれしそうな小僧。

「なんかこの中に入ると安心するんだな~」


 さっきから気になっていたので小僧に声を掛ける。

「小僧、足を出せ」


「足を?なんでだよ」


 小僧はサンダルのようなものを履いていた。


 俺達に会う前からサンダルのまま歩いていたのだろう。

 だが、ここは不安定な砂漠だから無理をしていたので靴擦れが出来ていたのだろう。

 その患部は大きく皮がめくれ赤くなっていた。

 それも治り掛けた固くなった肌までが何重にも皮が剥けていた。


 結界で守られているのは外部に対してだからサンダルの中は及ばない、これは痛いよな。


「足に酷い靴擦れが出来ているじゃないか。無茶のし過ぎだ」


「こんなの直ぐに治るさ」


 俺は小僧に少し語彙を強く言う。

「これからも同じ砂の中だから。こんな歩き方をしていたらダメだぞ!!」


 ロザリアにも分かるように大きな声で入っておいた。

「今日はもう休みだ!!直ぐに靴を作ってやる」


 そしてラミアの保管庫の中から皮を出してきて靴を作り始めた。

 魔法と言うのは本当に便利なもので、靴も簡単に作れそうだった。


 その間にラミアが小僧の足の患部を治療魔法で治していた。


「ラミア様ありがとうございます」

 小僧もラミアには丁寧なんだ。


 フェスリーも小さくなり結界内にいる。

 ラミアの言う通り鞍は赤いスカーフになっている。


 そして今はいつもの安住の地であるロザリアの肩に乗っていた。


「昼ご飯は香辛料をふんだんに使った料理だ、俺の故郷ではカレーと呼んでいた。子供には辛いかもしれないので、お前達の分は甘くしておいたから食べてみろ」


「辛い!!」

 ラミアが叫んだ。


「そんなに辛いか?」

 さっき食べて見たが、そんなには辛くはなかった中辛くらいだと思う。


「辛いけど、でも癖になりそうな味ね」

 ラミアも気に入ったようだ。


 ロザリアはなぜか嬉しそうな顔をしていた。

「おいしいです、暑いから食欲がなかったのですがこれなら食べることが出来ます」


 フェスリーには変なものを妊娠中に食べさせるの避けた方が良いだろうと別に肉を煮たものを準備しておいた。


 ちなみに小僧だが、何も言わず、ただ頷きながらぶつぶつ呟いてに食べていた。

「うん、うん、おいしい、おいしい」


 食べ終わるとなんか物足りないような顔をしているが、何も言わなかった。

「まだお替りあるぞ、食べるか?」


「良いの?」


「もちろんだ、沢山食べておけ」

 小僧は顔いっぱいに喜びを表現した。

 

 小僧の足の具合も見ていなかった俺のミスだ、その日はゆっくりすることにした。


   ◆    ◆


 サンブルド王国では従魔軍団長グレンが魔導士団長クリミドスから呼び出されていた。


「グレン、報告にシルクスに宿らせた蟲からの情報が途絶えたというのはどういうことだ?あの手練れのシルクスを倒すことは難しかっただろう、だがその上で奴に宿らせた蟲まで駆除されたというのか?シルクスが死ぬ時には蟲は逃げ出し相手に宿るのでは無いのか?」


 同じ団長クラスと言えど、少しおどおどしながら答えるグレン。

「信じられないが一瞬で蟲からの通信が途絶えております、相当高度な魔法を使ったのではないかと思われます」


「シルクスは王女を追わせていた、と言うことは相手はレジスタンスの誰かだ。しかしそんな魔法を使えるものがレジスタンスに残って居ると言うことになるがそんなことは無いはずだ」


「その通りでございます、セグリエ王国の魔導士、騎士団などは全て我が国とリサンダ王国が分けてしまいましたからな残っている筈はありません」


「相手の似顔絵を直ぐに作り情報を収集せよ、ゴーズの兵士団に力を借りても良い」


 やっと解放されるからか安心した様子でグレンは返事をしていた。

「分かりました、ゴーズに相談いたしましょう」


 その後グレンはゴーズの所へ相談に行った。


  ◆    ◆


 ゴーズの兵士団、その殆どは元セグリア王国の第一近衛騎士団、第二騎士団から捕虜として連れて来られた者達だった。

 

 薄汚れた顔と汚いボロを着たような騎士が一人、元第一近衛騎士団の団長であったストレーンに近付いた。


「ヤグ、お前少しは綺麗にしないと臭いぞ・・・」


「申し訳ありません」

 そういうとヤグと呼ばれた騎士はその場に留まって自分の臭いを嗅いだ。


 ストレーンは少し離れて何かを考えこむ様に佇んでいた。


 実はストレーンの頭の中で会話を始めていた。

 その相手は、近くにいる者のようだった。

「ストレーン、いきなりゴーズからの呼び出しだったみたいね、どうしたの?」


「シルクスがやっと安らかな眠りに着いたようです」


「シルクスが・・・、グレンは従魔と同じように第三騎士団を操ろうとして、団長に蟲を住まわせれば全ての団員を操れると考えたのよ。でもシルクス団長を蟲で操っても団員が付いて行くはずは無かった。結局、残酷なことに団員を殆どシルクスに始末させることになってしまった。残忍なこの国の者達は、その後もシルクスに元のセグリエ王国の反乱軍を始末させたりしたのよ。シルクスの心は計り知れない無限地獄だったことでしょう。本当にシルクスには本当に安らかな眠りを与えてあげたい」


 少しするとヤグはなぜか少し目頭を押さえていた。


「ロレッタ様、ロザリア姫は無事です。ただ私達の知らない者達に守られているようでございます」


「ロザリアが無事でしたか安心しました。そうそう私の方は今のところ夢反応で何とか3人までは蟲に取り付かれている者を特定しました」


「ありがとうございますロレッタ様、グレンにとっても蟲は希少ですからね。間違いないのは四匹がグレンからゴーズに渡されているということですから後一人特定出来れば動きやすくなります」


「本当に残忍なやり方ですね、第三騎士団の失敗から彼らはストレーンのいる第一と第二騎士団には家族、親戚を人質に取り反抗的なものを監視するために団員の誰かに蟲を宿らせるという方法を取ったのです。我々は団員と言えど疑心暗鬼で何も話が出来なくなった、下手なことをすれば家族や親戚が目の前で処刑されるということです。もちろん我々が蟲が宿る者を見つけたと分かればすぐに別の者に蟲を宿らせるでしょうから感ずいたことも奴らに気取らせてはいけませんからね」


「ロレッタ様、私達の力が足りないばかりに申し訳ございません、そのような恰好をさせ、あまつさえ伝令のようなことをさせている、貴方様には何とお詫びをすれば良いのでしょうか」


「謝る必要もそんな時間も無いのですよ、国がなくなったのですから元公爵など意味の無いことです。私は私の聖魔法で出来ることを、貴方も貴方の出来ることをすれば良いのです。そうロザリアも自分の出来ることをするために危険な大砂漠に出て行ったのです」


「分かりました私達も、自分に出来ることをやって行きましょう。もう直ぐ我々に王女探索の任が与えられるようです、それまでにもう一人を特定できなければ我々は王女を守る方法が無くなります情報を頂き次第、我々も第二騎士団と共同し急いで特定出来るよう調査してみます」


「それでは今の件は第二騎士団のクリスマートには後で夢通信で話しておくわ」


 ヤグは一礼すると出て行った。


 ストレーンはヤグが出て行くと少し考え事をしているようだった。

(ロレッタ公爵、王族であることを隠すためにそのような恰好をさせたこと、ヤグなどと呼び捨てにすること、何時かお詫びさせて頂きます。今は貴方様の聖魔法である夢通信だけが安心して仲間と意思疎通するの方法なのです)


 ストレーンは渡された似顔絵を見ていた。

「髪が黒で本当に真っすぐなストレートだな、瞳も黒と言うのはセグリア王国でも見ない顔だが、この特徴・・・唯一見たことがあるのは播磨ハリマだ、まさかこの男もアクアの元素勇者エレメントヒーローなのか?」

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