旅立ち
ラミアは本当に邪の者だろうか?
人の死に寄り添い人の死の尊厳すら理解できる彼女。
そして今は我々を狙った者であるのにも関わらず死を悼んでいる。
彼女が悲しみに涙を流すことは演技ではない。
今はロザリアとサンクス、そしてシルクスのために流している涙だった。
本当は悲しむ彼女と共に居たいのだが、彼女は子供達を抱き締めていた。
そうだ子供達にとって今彼女は必要なんだ、俺は傍で見て居た。
二人の様子が少し落ち着いてきたのを見計らって準備に掛った。
俺は土魔法というモノを使おうとしている。
だが小僧曰く、俺が使うと土魔法と違うらしい。
そうだろうな俺は土のエレメントなんて感じない。
尤も土魔法を使うと言いながら砂を固めていた。
砂を固めて、シルクスの葬儀台を作るのだ。
この世界の葬儀なんて知らない。
そうかといって元の世界の葬儀だってそんなに知らないのだ。
所詮真似事なんだ。
どうしても葬儀を行いシルクスの遺体を火葬にしたかった。
何故って?ここは異世界。
また死体を蘇らせることが出来るなんて奴が出て来るかもしれない。
そうなるとシルクスもゾンビ化してまた襲ってくる。
---何てことにならないようにしたいんだ。
もう彼には安らかに眠って欲しい。
そうだろ、家族や部下をその手に掛け、いや掛けさせられたことなんか忘れて安らかに眠って欲しい。
四角い葬儀台が出来たので下に油を地下から取り出し薄く敷いておく。
そして花を飾る、この花はいつもの砂漠の花だが相当量ある。
なぜなら実は香料が取れないかと最近大量に保管してあったものだ。
花の上にシルクスの遺体を置いた。
準備が出来たので皆を呼んだ。
式典何ていう堅苦しい物じゃない。
ロザリアが言葉を添える。
「我が王都を守る役割を担い全うした第三師団長シルクスの魂よ永遠に安らかに眠りなさい」
ロザリアは涙声で、それでもしっかりした口調でシルクスへ言葉を掛けた。
この言葉も最初は謝罪の言葉ばかり考えているロザリアだった。
だがラミアがそうでは無いと言い聞かせていた。
そうだ姫が悪いわけでは無いのだ、英霊を送るのだからと今の簡単な言葉にした。
その後小僧、いや”サンクス”もシルクスへ語り掛けた。
「俺はシルクス兄さんと父さん(リョウ・ハリマ)に誓います。サンクス・アルド・ハリマは自分の役割を果たします」
小僧も泣くだけではなく、シルクスの死を超えることを望んでいるのだろう。
それと今の言葉からすると「亮」という名前それは前アクアの
シルクスは俺を「亮」と呼んだ、きっと俺を「亮」だと勘違いしたのだろう。
小僧はあの時のことに全く触れないが俺と間違うなんてと気に入らなかっただろうな。
そんな軽い感じで、異世界も宗教もなにも関係なく滞りなく式は進んで行った。
もちろん俺は経など読めないが、最後はラミアが歌を歌い始めた。
ラクちゃんの時に歌ったあの歌だ。
最後に俺がシルクスの遺体の前に立つと言葉を掛けた。
「お前の遺体をこれ以上利用されることは無いだろう、安心して眠ってくれ」
そう呟くと俺は火を着けた。
最後に骨も残したくなかったので火の温度を高温にする。
ロザリアとサンクスは涙をいっぱい溜めて何時までも燃え盛る火を見ていた。
その日は色々有り過ぎた。
あっという間に日が暮れて、夜食を食べる。
夜食と言っても今日は深夜になっていた。
でもそんな時、ロザリアが思いつめたような顔で突然話しかけてきた。
「あのラミア様、ジェイ様、お話が有るんです」
そう言うと立ち上がろうとした、内容は分かっているから静止した。
「ロザリア、言いたいことは何となく分かっているんだ、今日はシルクスのために祈ってやってくれ、話は明日の朝にしよう」
冷たいようだが、そう言っておいた。
ロザリアはそのまま黙っていた。
◆ ◆
その夜ラミアが俺に詰め寄って来た。
「ジェイ何故あの場で話をしなかったの?貴方だって決めているのでしょ?」
「違うんだ。今日の出来事を考えて見ると彼らの狙われ方は異常だ『連れて行って』と言われても・・・目的地に何が有るんだろうと思うと心配でね、目的地に着いてからどうなるんだろうと考えるともっと不安になるんだ、だから君と一度話をしてからと思ったんだ」
「ジェイらしくないわね、着いてからのことは着いてから考えれば良いのでは?」
「俺は良いんだ、でも君も行ってくれるんだから」
「私だって目的地に着いてからどうなるとかどうするのかとか分からないわよ、そんなものは着いてから決めるのよ。ジェイが心配するように、どう考えたって目的地で彼らを助けるものは何も無いと思うわ。私達しか彼らを守れる者が居なければ、そこでまた考えればいいのよ」
「ラミアは、それで本当に良いのか?」
「もちろん私の決心は固いのよ」
なんかラミアも色々な思い入れが彼らに芽生えているようだ。
そう言うことなら俺も覚悟を決めるさ、とりあえず冗談で返しておこう。
「そうか、それには相当な対価が必要そうだな・・・・」
「そうね、相当な対価を要求すると思うわ」
◆ ◆
翌朝、ラミアと俺は早く起きて準備をしていた。
ラミアは何かしているようだったが『見ないで』と言われたので見てはいない。
だが、ラミアが持って来たモノで何をしていたか分かった。
ラミアは自分の本当の爪を切っていたのだ。
「ここにある5本の爪は妖力が込めてあるのでどんな形にでも出来るわ。そして私は約束通り人型で過ごします、そこでこの爪の一つを槍に変えて持ちます」
そう言うとラミアは爪の一つを振り1.8mほどもある槍にした。
「持ち運びが大変じゃないのか」
「ご心配なく」
そう言うと槍は小さくなり髪飾りになった。
「なるほど形を変えられる武器とはそう言うことか」
「ジェイも一つどうぞ」
「ああ、とりあえず剣にでもするか、後は使う時次第だな」
手に取って、そう思った瞬間に爪はロングソードに変わった。
「凄いものだな、爪はまた直ぐに生えてくるの?」
「そうね、直ぐ伸びちゃうのよね、三百年くらいで元に戻るわ」
そうだった彼女と年数の概念が違っていたんだった。
「これは俺からのプレゼントだ」
そう言うと準備した腕輪を渡した。
人型で居るというラミアを守りたいという気持ちから作ったものだ。
「それは俺の並列意思が組み込まれた結界発生装置だ。何時でも必要な時、その模様を押せば俺が居ようと居まいと結界が鎧のように展開する。ただし俺が生きている限りという制約付きだ」
「凄いわね、強力な結界が自分の魔力の消費無しで張れると言うことね。自分の結界を張れば二重の結界になると言うことね、ありがとうジェイ」
対価としてラミアが口づけをくれる。
俺もラミアから貰った剣の対価に口づけで返した。
「さて二人に会いに行くとするか」
そういうと彼らの所へ行った。
すると、ロザリアが土下座でもしそうな勢いで頭を下げて懇願しだした。
「お願いです、私達をドラゴンズゲートまで連れて行ってください。私達に出来る事であればなんでもします、お願いします。お二人の協力がどうしても必要なのです」
もちろんロザリアだけでなく小僧も頭を下げていた。
ラミアも俺もおかしくなって笑い始めた。
「こんな所をシルクスに見られた殺されてしまうな、姫様が何をしているんだ、本当に」
「でも私は、こうやってお願いするしか出来ないのです」
「心配しなくても分かっているよ。送って行こう。そうさドラゴンズゲートまで一緒に行こう」
二人はお顔をあげて手を取り合って嬉しそうな顔になった。
昨日、話を聞いて貰えなかったで不安だったらしい。
「その前に君たちに渡すものがある、このラミアの特製道具入れから取り出すぞ」
「「なんですか?」」
二人は少し期待するような顔で俺達を見た。
「まずは自分を守る武器だ、すまないなサンクスの剣は俺が折ってしまったからな、これを使ってくれ」
ラミアの爪を魔道具だと言って渡す。
見たことも無いモノに興味津々の小僧。
「何ですかこれ?鋭い刃物のようですが、今から剣にするのですか?」
「お前が欲しい武器を思い描けばその通りになる」
「そんなモノがあるのですか?」
小僧は言われた通り何かを考えた様だった、爪は直ぐに反応し棒になった。
「本当だ、考えた通りの形になる、重さも考えた通りだ、変形もする」
そう言うと小僧はは形を次々に変えて行った。
ロングスティック、ショートスティック、だがその内もう一つ欲しがった。
予備を渡すと2本の棒をヌンチャクに変えていた。
とても嬉しそうな顔で武器を振り回す小僧
「これは凄い俺の戦闘スタイル合わせてピッタリの武器になる」
嬉しそうな顔を見ると剣を折ったという罪悪感から解放されたような気がする。
「良かったな、小僧」
次にロザリアの方を向いてラミアの爪を渡した。
「ロザリアも受け取ってくれ」
だがロザリアは顔を横に振った。
「私は不要です」
小僧はその武器の凄さが分かるからだろう、ロザリアに進める。
「何を言うんですかロザリア様はロングソードの達人ではありませんか、ぜひロングソードをお持ちください」
だがロザリアの顔は暗く、人を傷つけることが怖いようだった。
「私にはそのような武器を持つ資格は有ません」
俺も説得することにする、自分を守れないようなら連れて行けないと言わなければならないからだ。
「ロザリア違うぞ、これは自分を守る武器だと言ったはずだ、相手を倒す武器では無いんだ、持っておかないとみんなに迷惑が掛かるんだ」
ラミアに『連れて行けないぞ』と言う前に遮られた。
ラミアは俺の考えを察知したようだった。
「そうね無理にロングソードでなくても大丈夫、短剣なんかどうかしら、そんなに思い詰めないで、自衛のために持っているで良いのよ」
このお姫様、ラミアにはいつも従順だった。
「はい!!ラミア様」
そう言うと彼女の手に持った爪はラミアの提案通り短剣となった。
なぜかその短剣が気になる小僧はロザリアにべったりとなった。
「ロザリア様、一度抜いてみれば凄い短剣になっているのでは」
だが短剣を鞘から引き抜くと刃が無かった。
「これでは短剣の役目は果たさないですね」
ロザリアは安心したように言葉を発したが、ラミアは驚いていた。
「驚いたわね、その短剣はロザリアが切りたいと思うモノを切れる能力を持つ剣となる短剣ね。昔一度だけ見たことがあるわ、その短剣は特殊な短剣なのよ、その名を『ツクヨミ』と言います」
「ツクヨミ?」
刃の無い短剣を眺めながら不思議な会話が続いた。
さて渡さなければいけない守るモノはまだある。
「それとこれは俺の贈り物だ」
さっきラミアに渡した腕輪と同じものを渡した。
この後、この場所での最後の朝食をする。
小僧たちと出会い、そして悲しい騎士に出会った、思い入れは少しある場所になった。
食事を済ませると出発準備を始める。
フェスリーはロザリアの肩に乗っていた。
そんなに荷物がある訳ではないので出発準備は直ぐに出来た。
「子供の足で砂漠を渡るのは大変だからなフェスリーに頼もうかな、どうかなラミア?」
「大丈夫よフェスリーもロザリアはお気に入りだからね」
そう言うとまた収納庫からなんか出してきた。
「これは鞍よ、フェスリーに着けると良いわ、この鞍はフェスリーが小さくなっている間は赤いマフラーになるのよ」
フェスリーは元の大きさに戻ると、鞍を付けられた。
早速ロザリアが乗って見るが小僧は逃げていた。
ロザリアはフェスリーをまるで一体化したのでは無いかと思うほどうまく扱っていた。
フェスリーに乗るロザリア、とても楽しそうだった。
魔獣だと恐れていた時とは大違いだった。
出発準備が大体終わった。
最後に結界を破壊すると今まで寝泊まりした所がなくなった。
「こんな簡単に・・・」
サンクスが何かを言いかけた。
しかし「まっ、いいや皆一緒だもん」とか呟くと元気に笑った。
俺は予てから考えていたことを提案してみた
「そうだ、あのな設定変更だ、ロザリアがお姉さんで小僧が弟という設定だからな」
「なんでだよ、俺の方が年上なんだよ」
「そんな風に見えないって、ロザリアの方が落ち着いているし、お前はガキだし」
サンクスは納得がいかないらしくロザリアも元のままで良いというので兄妹の設定のまま旅に出ることになった。
小僧は俺達が姫と呼ばないことが不満らしい。
「なあジェイ、もう隠していないんだからロザリア姫とか呼んでも良いんだぜ」
「ば~か、襲撃者たちは姫を狙っているんだろ、だから小僧も『兄妹』何て設定にしたんだろう。何も変わっていないんだ、『姫様隠密道中』なんだぜ、姫様なんて呼べませんよ」
それはまるで子供の喧嘩口調だった。
「では出発前の最終確認だ」
ロザリアはフェスリーに跨り。
サンクスはまだフェスリーが苦手なのか歩くと言い張っている。
でも貰った武器の棒を長くして杖代わりに突いていた。
ラミアは今までの恰好ではなく少し黒っぽい衣装になった。
俺は以前と違い立派な剣を刺している。
うん?あれ?これってなんか見たことがある風景だ。
伸びる棒を持つ小僧とフェスリーに跨るロザリア、そして残りのお供が二人・・・
そして目的地は遥か彼方。
ああ、あの西に行く話か・・・・
「よしっ、旅の準備が整ったようだな、じゃあ西に向けて出発だ!!」
「違うわよジェイ東南に向けて出発なのよ」
「そうなの?」
「馬鹿ジェイ、どうして西なんだよ?」
「いや、お前が猿だから・・・」
「なんで猿なんだよ」
:::
とりあえず冒険の旅が始まった。
ラミアとはまだまだ一緒に居られそうだ、そう思うと安心感が広がった。
ラミアが居れば俺は元気なのさ。
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