ラミア④

 案外ラミアはコーヒーが気に入ったようでミルクは必需品となっていた。


 ところがこの頃、ラクちゃんがなぜか大人しくなった。

 多分、出産が近いのだろうと考え乳絞りを控えようと考えて居た。

 少しは必要分を絞っておいたのだが、ケーキやアイスを作っていると

 足りなくなる、そこでコーヒーを朝食に出さないようにした。


 ラミアが物足りなそうな顔をしていた。

「コーヒーは無いの?」


「ラクちゃんは出産が近いんだと思うから安静にしてもらっているんだ。少し我慢してね、代わりに今日から紅茶を出すから」


「紅茶?」


 俺はコーヒーの代わりに紅茶を出した。


 実はこれもラミアが保管する薬師から貰った結構怪しい乾燥した草から作ったものだった。


 ラミアもお茶葉を煎じて飲むのは初めてだったようだ。

「煎じて飲めと言われていたけど、こういう飲み方なのね。煎じるって面倒だと思ったけどおいしい。今までに味わったことの無い変った香りと味ね」


 そんなこんなで数日後のラクちゃんの出産を待っていた。

 家族が増えるという喜びに溢れていた。

「どんな名前にしようかな、ラミアはどんな名前にしたらいいと思う?」


「そうね安易な付け方は避けたいわね」


「それじゃ、ラクちゃんと言うのが悪い名前みたいじゃないか?結構可愛いと思っているんだぞ」


「そうねラクちゃんは安易だけど、例外的に良い名前かな?」


「かな?とはなんだよ?」


 とかなんとか、とりあえず喜びごとは人を陽気にさせる、相変わらずに楽しい生活だ。


 昼は狩りで砂漠に一人走り回り、今日の収穫を血抜き処理したところで、日が傾き夕方になった。

 夕方になるとレンズでの狩猟が出来なくなるので食材を持って帰路についた。


 今日はお肉を薄く切って鍋にするかな?

「熱い砂漠で鍋はどうかな、でも夜は寒い位になるしな、時間を見計らえばOKだろう?」

 などと気楽なことを考えて帰った。


 暗くなり始めると結界を張る、そうしないと虫や動物が集まって来るからだ。

 そして結界は中は周りの暗闇に紛れるため光を遮断してある。


 中では少しの明かりで結界の中を照らし晩御飯を作り始めた。


 しかし少しすると周りが騒がしくなった。

「なんだ?」

 少しの隙間を結果に作り外を見た。


 明るい炎が燃え始めたと思っていると、周りに集まって来た動物や虫をを焼き払った。


「あの結界の中だろう」

 見知らぬ男の声がする。

 その方向を見ると男達が各々大きなトカゲに乗り約二十人くらいで取り巻いていた。


「おいそこに居るのは分かっているんだぞ。妖怪ラミア様、出てこい、おれ達が従魔にして毎日可愛がってやるぞ!!」


 そう一人の男が言うと周りの男達も笑い出した。


「ジェイはここに居て、追い払って来るわ」

 そう言うとラミアが出て行こうとした。


「待てよ、相手は大勢だそれと従魔にするとか言っている。ラミアが出て行くのは危険だ、俺が出て行く」


 俺は結界の外に出ていた。

「あの何かの間違いではありませんか、ここには俺しか居ませんけど?」


「なんだお前は?そうかラミアの餌だな。可哀そうに騙されて捕まったんだな。ラミアが居るのは探索魔法で分かっているんだ。助けてやるからラミアを出せ」


 男はそう言うと大きな声で結界の中に聞こえるように叫んだ。

「大人しく出てこい、結果を吹き飛ばすぞ、そうなるとこの餌も吹き飛ぶことになるぜ」


 その声に反応するようにラミアが出てきた。

「さっさと帰れ」


「「「おおっ」」」

 男達からどよめきが起こる。


「思っていたより遥かにいい女だぜ」


 ラミアは再度警告する。

「さっさ帰れと言っている」


「ジェイは結界の中に入っていて」

 ラミアはそう言うと男たちの方に向かって行った。


「ラミア危ないよ」

 ラミアを追いかけようとしたがラミアが制止した。


「ジェイは結果の中で大人しく待っていて欲しいの」


 ラミアがなぜそう言うか俺には意味が分かってなかった。

 俺はただラミアが心配だった、だからラミアがなぜそう言うのか考えられなかった。


「ラミア」

 そう言うとその場を動かずラミアを見ていた。


「本当にいい女だな、夜が楽しみだ。まずは拘束するぞ」

 数名の男からロープのようなものがラミアに向けて発射され、ラミアの腕に絡みついた。

 どうやら魔法が付与されたロープらしい。

 そしてラミアはそのロープを切ろうとするが切れない。

 そしてラミアとの間合いを取り巻いた男たちが狭めて行く。


「結界ロープだそう簡単には切れないさ、諦めな。足を狙って足を止めろ、従魔契約のために間合いを詰めるぞ」


 俺は焦っていた。

 今は夜だ、太陽が出ていない俺の唯一の太陽を使った攻撃魔法は使えない。

 今できる攻撃魔法は水を放射するくらいだろうか?

 後の俺の魔法は電気は弱電を発生させ、火は調理する範囲で出せるだけだった。


 だがこのままではラミアが危ない。

 今出来ること・・・


 そうだ、大量の水を放射することならできる。


「これでも食らえ!!」


 水は男達に命中するが男達は笑っていた。

「水を掛けるとはな、アクアのエレメントを感じなかったからな、水を撒いたのか?」

 俺の方に一人の男が物凄い速さで、こっちにやって来た。


 俺には短剣しかなかった、それを一生懸命振り回し応戦した。


「馬鹿め、俺たちはな餌にされようとしているお前を助けようとしているんだぞ。それをなんだお前は恩知らずだな」


 振り回しているのに全く当たらない、身体高速化の魔法なのだろう。

「ラミアから離れろ」

 そう言いながら剣を振り回す。


「お前は本当に馬鹿だな、当たるかそんなもの」

 本当に当たらない、男は余裕で見切っていた。


「もしかして身体高速化が出来ないのか?こんな初等の魔法も使えないなんて、なるほど餌になるしかない奴だな」


「ジェイ、逃げろ」

 ラミアの声が聞こえた。


「大事な妖怪ラミア様が逃げろと言っているぞ。早く逃げたらどうだ、どうせここに居ても餌になるだけだぞ」


「俺は逃げない」


「本当にお前は馬鹿だな、ではそこで俺たちがあの妖怪を捕まえて楽しむさまを見ているが良い」


 そう言うと男は土魔法で土槍を創り出し俺の足を貫いた。


「あっ、うっ!!」


 太腿を貫いた槍、骨が砕けたような感じだ。

 そのままその場で俺は倒れた。

 骨まで砕けるような傷は、猛烈な痛みとなって俺を襲い、俺の意識が遠のく。


 男はラミアの方に向かった。


 痛みに堪えながらラミアの方を見ているしかなかった。

 ラミアは俺の足に刺さった土槍を見て結界のロープを指先から何かを伸ばして切った。


 その指から長い爪が伸びていた。


 そのままラミアも身体高速の魔法を使ったのか高速で男達と戦闘を始めた。

 早すぎて分からないが、さっきの爪だろうか、鋭い刃物で2人の男が肉塊になって行った。


「少し離れるんだ」

 男の一人が言うと男たちはラミアから距離を取った。


「ラミア様どうした、餌を傷つけられて起こったか、おおっ、怖い怖い」


 ラミアは怒りの表情だった。

「お前達は許さない」


「そうやって何人も馬鹿な男達を騙して餌にしたんだろ」


「違う、砂漠を渡る英霊たちを見送ったのだ、彼らを餌呼ばわりはさせないわ」


 そうか・・・

 英霊達だというラミア。

 ラミアは会った者達を敬うことはすれ、決して粗末に扱いはしないのだろう。

 そうだ彼らの死の瞬間まで優しく寄り添っていたんだ。


 そうさ、薬師は持っていた大事な薬をちゃんと説明しながらラミアに託した。

 そうなんだ、ラミアは遭遇した全ての人に全身全力で寄り添って、そして寄り添われた者達もラミアを愛したんだろう。


(俺は何をしているんだ!!)


 俺は痛みに耐えながら考えて居た。

 ラミアの足手まといになっている、俺はラミアを守らなければいけないんだ。


 治療魔法を幾つかの術式で作る。

 治療魔法の術式自体は今までも小さな切り傷を治すのに術式は作ってあった。


 例えば、止血、細胞修復、細胞複製、増血、骨も骨細胞なので細胞修復と同じ術式で処理できるはずだ。


 まずは周りの殺菌だ、結界を張りその中で一気に土槍を抜く、この時止血を完全にしなければ大出血になる。


 治療魔法は注意が必要で、単純に治すと色々と問題を発生させる。

 ゆっくりと全ての異なる組織を元に戻すように修復していかなければならない。

 そうだ、異なる組織を別の組織で修復することは命取りになる。

 隣の組織に注意しながら徐々に組織を修復し治療を進めた。


 そして治癒の術式はマクロ化し並列動作させる。

 何重にも、何重にも並列に動作させる。


 そうすることで段々治癒速度が上がって行く。

 何週間もかかる治療が数時間で出来るだろう。


 だが治せても直ぐに歩くことは出来ないだろう。

 治ってからも少々のリハビリをしなければ腱や組織に無理が掛かり断裂するからだ。


 マクロ化し自動修復が出来始めた時、攻撃魔法の創作を始めた。


 そうだ太陽が無くっても、今の俺でも攻撃方法はあるはずだ。


 そして並列思考が出来るようにするために幾つかの思考をマクロ化することにした。

 そうだ見ることや考えることもマクロするのだ、そうすることで並列思考が可能になり並列実行で高速化も可能だ。

 

 ラミアに対している襲撃者たちは攻めることを止めなかった。

「おう、埒が明かない。話が違う的が小さすぎるぞ、呪縛魔法が重なるから使えないじゃないか」


「仕方が無いだろう、まさか本性をここまで現さないなんて思わなかったからな」


 不意に聞こえた「本性を現さない?」という言葉。

 そうか、ラミアが俺を結界の中に入れたかった理由が分かった。

 それはラミアが本性を俺に見せたくなかったんんじゃないか?


 俺のために十分に戦えないのかもしれない。

 ラミアを見ると相当な傷を負っており、血まみれだった。


(俺は知らずにラミアを危険な状態にしていたんだ)


 その時考えが浮かんだ。

「そうだ、結界魔法だ」

 俺は襲撃者を結界魔法で固定化することを思い着き実行した。

 

 襲撃者たちは結界魔法で一時的に固定化されたように見えた。

 だが、直ぐにガラスが割れるように結果は簡単に壊された。


「全く邪魔な奴だなお前は」


 そう言うと襲撃者の一人が大きな魔法を俺に向けて放った。


「ドドドドーッドドドーッドドードーン」


 大きな爆発音。

 その魔法は俺の張っていた居住スペースの結界を壊し俺もろとも吹き飛ばした。


 住居スペースには子供を身ごもったラクちゃんが寝ていたはずだった。


 不意にラミアが近くに現れて叫んだ。

「ラクちゃん」

 そのラミアの手に血まみれで動かなくなったしたラクちゃんが乗せられていた。

 そっと手を添えラクちゃんの目を閉じるラミア。


 そしてラミアはラクちゃんのお腹に耳を寄せた。

「子供達の鼓動が聞こえない・・・」

 ラミアの泣きそうな声が聞こえて来た。


 やがてラミアは子守唄のような歌を歌い出した。

 闇魔法なのだろう、ラミアの体から黒い煙のようなものが溢れてラクちゃんを包む。

 その後ラクちゃんは黒い煙となりラミアの胸に吸い込まれて行った。


「安らかに眠るがいい」

 そしてラミアは静かに胸に手を当て動かなかった。


 その間も襲撃者の攻撃は続くがラミアは動じない。

 どんな攻撃であっても受け、血がいくら吹き出そうと攻撃を受けていた。

 それはまるで「ラクちゃん」の痛みを少しでも自分にも受けようとするかのようだった。


 最後にラミアが叫び声を上げた。

「わああああぁぁぁぁぁっ~」


 ラミアの声と共にラミアの姿が段々大きくなっていく。

 実際にはラミアの下半身が大きなヘビとなっていく。

 上半身は髪が長く伸び指の爪が全て剣のような鋭い爪となった。


 ラミアの顔は、何も変わらないが悲しみを湛たその顔は美しくも思えた。


 身体高速化であろうか、今ならマクロ化し並列処理する意識でとらえることが出来る。

 襲撃者と戦うラミアは強かった。


 十名程を肉塊にしたラミア、だが術者たちはあるフォーメーションを取っていた。


「この大きさの的なら十分だ」

 男の一人がそう言った。


「これで思い通りだ、このフォーメーションで呪縛魔法の魔法陣は完成するのだ」


 襲撃者の言う通りラミアは大きな魔法陣に囲まれその魔法陣から次々と太い包帯のようなものがラミアに巻き付いて行った。


「なに、こんなもの、こんなもの」

 ラミアは必死に抵抗した、その抵抗で大きな傷が出来ても抜け出そうと抵抗を続けていた。


 恐ろしいほどのラミアの怒りと悲しみが俺にも伝わって来た。


 なにも出来ない俺は情けなかった。

 だが攻撃魔法、攻撃魔法、さっきからこればかり考えて居た。

 結果一つの方法が思い着いていたが本当に有効かどうか分からない。


 だが今使わないでいつ使うんだ。


 方法は簡単だ水を水素と酸素に分けるんだ、それに小さな雷で火を着ける。

 量によっては大爆発するだろう。

 だが奴らも身体強化や結界を張っているかもしれない。

 奴らに当たるまで近づけて爆発させないといけないだろう。


 そこで結界魔法で小さな羽の入れ物を作りその中に圧縮した酸素と水素を入れた。

 そして起爆魔法により小さな雷で爆発できるようにしたものを考えた。

 これをフェザーと名付け術式を構成する。

 そしてそのままマクロ化し、一機に多数作るために並列実行を始めた。


 俺は上半身を起こした。

 俺の周りに多数のフェザーが作り出された、それはまるで鳥の羽のような形に広がった。

 その時、俺は鳥人のように見えただろう。


「シュート!!」

 そう叫ぶと羽は襲撃者目掛けて一機に飛んで行った。


 そしてフェザーは襲撃者に向けて着弾すると爆発していく。

 いつ収まるとも分からない爆発が続く、そしてその爆発が終わる時。

 多くの人間の部位が肉塊となって転がっていた。

 それを見て”人を殺してしまった”そう思った。


「今のは、なんだ、なんなんだ・・・」

 少し離れていて助かった者が数名居た。


 だがその助かった襲撃者の生は一瞬にしてラミアに刈り取られた。


 血まみれのラミア、だが何故かラミアは後ろを向いていた。

「ジェイ、助かったわ」


「ラミア大丈夫か、血まみれだ」

 そう声を掛けたがラミアに反応は無かった。


「ジェイは運がいい、これでこんな化け物とは別れられるわ」


「何を言っているんだ。なんで別れなければならない、童貞を貰ってくれる筈だろ」


「こんな化け物に貰って欲しいのか?ジェイとの取引は終わったのよ」


「ラミア、ラミア・・・」


 俺がいくら叫んでも返答がない。


「ジェイ、さらばだ!!」

 そう言うとラミアは去って行こうとした。


「ラミア、行くな!!、行かないでくれ・・・・」


 そう叫ぶがラミアには届かなかった。


 俺は声を限りに叫んだ。

「この世界でラミアが俺に一番優しかったんだ、行かないでくれ!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る