ラミア③

 砂漠に一日だけ咲く花の話。


 そんな話をラミアに教えてもらった。

 そして砂漠の砂の中には細かい種が大量にあった。


 早速試してみた。

 この種、水を与えると芽が出るようだった。


 朝、芽を出せば昼には花が咲く、茎の背丈は20センチくらいだろうか?

 花は小さく、色は赤、青、黄色、白・・・本当に色々だった。

 そして驚くべきことに夕方には種を作っていた。


 1日で種まきから収穫まで出来るのだ。

 なんて効率が良い植物なのだろう?


 ラミアが雨でもないのに昼間咲き誇る花園に驚いていた。

 その花園で楽しそうに踊り、そして寝ころんでいた。


 もちろん歌声も聞こえてくる。

 俺の世界の恋の歌。

「始めは甘くて、酸っぱい♪~」


 この歌はそんなに好きじゃなかった。


 最後は好き同士なのに別れる歌だった。

 そんなフラグの立つような歌は歌って欲しくなかった。

 そりゃあ、童貞を彼女の貰ってもらえば対価として命を捧げるとう約束だ。

 そうでなくても、元々寿命も大きく違う種族の二人だ。


 結果そういう別れになるのだろうが、今その話をするのは寂しいじゃないか。


「ほろ苦い思いが残るの♪~」


 そう歌うと俺の顔を見て不思議そうに質問するラミア。

「ねぇジェイ、ほろ苦い思いってどういう思い?お前達は面白いな思いを味で表すのか?」

 

「ほろ苦いか、そうだなコーヒーでも飲めば分かるよ」


「コーヒー?」

 聞いたことの無い食べ物に変な顔をし頭を傾けるラミア、なんか可愛い。


「材料があればいつか作ってあげるよ」


「頼むわね」


 さて食材確保を継続しよう。

 この植物の栽培も俺は地下から大量に水を得ることが出来るから出来るんだけどね。

 水をこれだけ必要とするのだ、今まで誰もやろうとは思わなかっただろう。


 さて食べれるかであるが、葉は柔らかくそのままでも食べられる、茎は少し湯がけば食べられる。

 うんうん、サラダが出来るな。


 ちなみに種は細かく固い、砂漠の中で、いつ降るか分からない雨が降るまで砂に紛れるのだから固いのだろう。

 そして小さいがイネ科の種に似ていた。


 そこで砕いて粉にしてみたら小麦粉と米粉の中間的なものになった。

 なお収穫量は種が小さいので少ない。


 そして俺はパンを焼くことができた。

 (小さなパン、それもナンのようなパンだけどね)


 初回は食べる分はサラダにした、ラミアは「薬なの?」と聞きながら食べていた。

 始めて食べるものだからか、不思議な顔をしていた。



 食材が揃うと、俺の野望が大きくなっていく。


 さてちょっと広い土地を確保し、雲を発生させ風を起こし種を巻き上げさせる。

 雨の核としてこの種を使うのだ、重要なのは種は間隔を空けることだ。


 結果地面に満遍なく種を撒くことが出来る。


 そして食べる量を除き、種を収穫する。

 数日繰り返し大量の種を準備しラミアの保管魔法で保管する。


 朝食の時、パンを焼けるようになった。


 朝はパンとサラダ。


 後、目玉焼きかスクランブルエッグがあれば良いな・・・


 コーヒーか・・・豆は難しいな。代用品としてはたんぽぽコーヒーかな?

 これなら草だから数日で育つ。


 早速種を探し始めた。


 種は地下にある。

 大昔はこの辺りも草原や森だったとラミアが言っていた。

 ならば砂地の下の地層にはそれらの種が埋まっているだろう。


 まずは電気センサーで種らしきものを探し、見つけると、その種を水と一緒に地上まで湧き上がらせる。


 別に召喚されたという訳でアクアの力に拘っているんじゃないけど案外水と言うのは使い勝手が良い。


 この種を育てるのだが、こちらは結構大変だ。

 恒温室という温度と湿度をコントロールできる部屋を準備して種を撒いて発芽まで数日かかる。

 この作業で俺は沢山の種を手に入れた、そしてたんぽぽに似た草が見つかるまで続けた。


 その後も狩りに出てトカゲみたいなもの卵や蟻の巣から蜜を入手し。

 その後小さなヤギのようなラクダのような妊娠した哺乳類?を捕まえた。


 卵と乳と蜜をゲットだぜ。

 ただ乳は動物が小さいので大量ではないけどね。


 この小さな哺乳類は「ラクちゃん」と言って一緒に連れて行くことにした。

 でも妊娠していないと乳は出ないよね・・・と言うことは、出産するまでにオスを探さないといけないな。


  ◆    ◆


 その日、ラミアと出会ってから一カ月だった。


 夜食は少し贅沢なものにする。

 肉や野菜、そして簡単だがケーキ、アイスクリームも作った。


「なに、この冷たい甘いものは、おいしいわ」

 ラミアはケーキやアイスクリームを気に入ったようだった。


「でも野菜とかいう草はまだ慣れないわね・・・」

 なるほど、野菜はもう一つか・・・

 食べなれないこととドレッシングが無く塩だけなので味気ないかもしれないな。


 ラミアは食べ残りそうな野菜をラクちゃんに食べさせていた。

 ラクちゃんはおいしそうに食べていた。


「ラクちゃんはこれが好きなのね、対価として美味しい乳を出しなさい」

 ラミアはラクちゃんにも対価を要求していた。


 そしてテーブルの上の食べ物を見てラミアが不思議そうに俺に聞いてくる。

「今日は凄いのね、どうしたの?沢山取れたの?」


「違うよ、記念日って言ってね君と出会って一か月なのさ」


「出会って一か月?そんなものが大事なの?」


「ああ、人間の一生は短いからね、一瞬一瞬を大事にしたいんだよ」


「人って不思議なものね、でも嫌いじゃないわ、ねぇ、ジェイ明日の対価のお返しは大変かも・・・ジェイ耐えられるかしら?」


「お手柔らかにね、自制できなくなったら終わりだからね。俺はまだラミアと一緒に居たいから」


 対価のお返しに耐えられないのは困るかも、今でも自制心は無くなりつつある、手が勝手に動こうとするんだ。

 でも、もう少しラミアと一緒に居たい。

 大体当初目的のラミアを少しでも喜ばせることなんかできていない。


 そうそう最近エロ動画は見ていない、何故なら動画通りやってもダメだと分かった。

 前に胸を弄んでいるのを真似て見たが「乱暴にしないで」とか言われた。


 そうだよな俺の胸でやって見たが痛いだけだった。


 今はそれよりも自分がやってもらって気持ちの良いことをするようにした。

 例えばラミアの長い髪の毛を手で梳くとか背中を手でなぜるとかだ。


 今は特に直接的なことはしないようにしている。


「俺のテクじゃラミアに敵わないからな、なんせ童貞だからね」


「童貞は自慢することなの?」


 いきなり言われるとなんか恥ずかしいものだな・・・

「そうじゃないよ、恥ずかしいから言わないで・・・」


 ラミアは意地悪そうな顔をして一言告げる。


「でもね私はいつも処女、そして永遠の処女なのよ」


 後で分かるのだが最初意味が分からなかった。


 それは嘘では無かった。

「いつも処女」

 ラミアの言う、いつも処女とはどういう意味なんだろうかと考えていた。


 当のラミアはラクちゃんと遊んでいた、


「ラクちゃんこっちにおいで!!、ほら野菜だよ」

 ラミアがラクちゃんと遊んでいる、小動物と戯れる妖女、見ているとなんか微笑ましいものだ。


 本当に妖女なのだろうか?人間では無いのかと疑ったことも多い。


「いつも処女」

 実は簡単なことかもしれない、彼女の本当の姿と言うのがあると言うことだろう。

 人とひと時を過ごす姿は仮初の姿、つまり人としての処女もその場限りということだと推測する。


 妖女、人で無い者。


 俺はラミアを愛している。


 彼女無しではすでに生きていなかっただろう。

 そして、今の生活も失いたくない。


 そう言えばそんなアニメ映画があったな、だがあれは逆だ最初から人では無い姿をしていた。

 それでも少女は彼を愛せたので魔法が解けるのだ。

 その結果、彼は王子様に戻った。


 ラミア、もし君も同じように魔法に掛かっているなら、どんなに良いだろうか?


 でも、もしラミアの本当の姿を見た時、俺はどういう反応をするのだろう。

 今の気持ちのままで居られるのだろうか?


 本当のラミアの姿か・・・


 いきなりラミアが覆いかぶさって来た。

「ジェイ、どうしたの、真剣な顔をして」


「ラミアを喜ばせる方法を考えて居るのさ」


「なんかエッチね」

 

 ラミアはエッチねという言葉を覚えた。

 考えて見れば「エッチ」というのは英語の文字だけど、日本で出来た言葉で純粋な日本語だよ。

 ラミアが日本語覚えたのか?

 それともこの世界ではやっぱり「エッチ」ていうのか?


 いやいや、とりあえず話題を変えよう。


「ラミア、やっと出来たので一度飲んでみて欲しんだ」


 そう言うと黒い液体をコップに注いだ。


「これは何?」


「コーヒーだよ、ただし”たんぽぽコーヒー”だけどね、本当のコーヒーはもっとコクがある。でもこれはこれで体には良いんだよ」


 簡単に言えば、この間収集した種の中でたんぽぽに似た種類の草を育て、その根っこを乾かして、その後粉にしたものを準備した。

 これをローストしドリップすることで出来たコーヒーだ。


「ふぅ~ん」

 そう言うとラミアはひと口、口に含んだ。


「苦い…」


「苦いだろ、そこで、これの出番」

 そう言うとラクちゃんのミルクと蟻蜜を固形化したものを準備した。


 これを注ぐとマイルドになって、甘さも追加されて飲みやすくなる。


「本当、飲みやすくなったわ、本当に苦い飲み物ね、でも薬とは違うわね、匂いも薬とは違うわ」


「慣れれば、最初のブラック、つまりミルクも甘味も入れなくても飲めるよ」


「そうなんだ、でも苦い、歌にあるけど、こんな気持ちになるってどういうこと?ジェイはそんな気持ちになったことある?」


「何度かあるかな、失恋は何度かしたことがあるからね、ラミアは失恋したこと無いんだね」


「失恋、分からないわ。私は唯一種族らしいの歌にあるような恋なんて出来ない。そう他に仲間を見たことが無いから。突然発生した種族だとラーサババが言っていた」


「ラーサババ?」


「なんでも知っている、空の上に居るおばばのこと」


「何でも知っているなら、一度会いたいものだ・・・会ってテクを教えて・・・いやいや、帰る方法を教えて欲しいものだ」


 少し慌てた風になった俺を見てラミアが不思議そうに、そして楽しそうに笑っていた。


 そうか、唯一種族であるなら、相手が居ないから「永遠の処女」であることも頷ける。

 だがそれは、一生相手と巡り合えないと言うことを意味していた。


 俺はますます頑張って”テク磨くぞ”と思った。


 ラクちゃんが何故か寄って来て「ビィープ、ビィープ」と泣き出した。

 それを見たラミアが野菜を格納魔法から取り出して適当な大きさにして口の前に出した。


「お腹が空いているのよ、もう直ぐ子供が出来るから沢山食べないとね」


「そうだな、沢山生まれると良いのにな、沢山ミルクが取れるよ」


「ダメよミルクは赤ちゃんのものだからね」


 ラクちゃんをまるで家族のように労わるラミア。

 ラクちゃんも妖女であるラミアに懐いていた。

 普通動物は危険な妖女には近づきもしないだろう。


 ラミアは本当に妖女なんだろうか、俺は彼女が本当は人間であるに違いないと思い込もうとしていた。


 あの物語のように。


 出来るものであれば彼女に掛った魔法もしくは呪いから彼女を解き放ってやれないだろうか?


 本当にラミアとの生活は楽しかった、そしてすっかり忘れていたのかもしれない。

 だから生活に関わる魔法ばかりを修練したり工夫し創作した。


 だが、俺は後悔することになる。


 俺を砂漠に置き去りにした者達に生きていると分かれば追われることになるはずだ。

 今は逃げているから大丈夫だと思っていたのだろうか?

 そんなはずは無い。


 なぜ戦闘魔法を修練しなかったのだろうか?

 その日の襲撃してきたのは俺を砂漠に置き去りにした者達では無かった。


 だがそれ以上に強力な戦闘集団だった。


 俺は自分の大事なものを守ることが出来ない自分をいやというほど知るのだった。

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