ロザリアとサンクス①

 眠れなかった、だが朝はやって来る。


 昨晩のことが嫌な思い出として思い出されるが、ラミアが横に居ることで安堵する俺。


 朝のコーヒーすら出せない、ラミアがラクちゃんを思い出すのではと考えてしまう。


 昨晩のことは何も思い出したくないしラミアに何も思い出させたくない。


 俺は馬鹿なのだろう、今更後悔していた。


『本当にラミアを引き留めて良かったのか?』


 彼女は俺に自分が人でない姿を見られて、一緒に居ること自体が嫌なのでは無いか?


 そうだ引き留めたのは俺のワガママなのでは無いだろうか?


 考えは答えが出無いまま、同じことを繰り返し考えてしまう。


「彼女の気持ちを確かめたい」

 でもそれは聞けることでは無かった。


 そして、その日から数日経つ間に分かったことは、二人の間にはわだかまりが残っていること。


 二人はあの日のことに触れないように、二人ともが気を使っていた。


 それでも変わったことがある、ラミアは積極的に行きたいところを言うようになったのだ。

 どこかに案内してくれるのだろうか、唯一の楽しみである。


 俺はいつもの様に昼間は一人で狩りに出た。


 一人になって俺は考えられる戦闘に関する魔法や訓練を始めた。


「もうこんな思いは嫌だ、絶対にこんな思いはしたくはない。だからラミアを守れる力が欲しい」


 たぶん無茶苦茶な訓練と連続魔法の実験を繰り返していたのだろう。


 そう、狩りになんかなってなかった。

 なぜなら獲物を塵すら残さず消し飛ばすのだ。


「命を何だと思っているんだ俺は…今の俺は悪魔かもしれない」


 術を放つ手をジッと見つめた。


「でもそれでも良い。ラミアと同じか釣り合う存在になれるなら、そうだ俺は化け物になりたい、違うラミアは化け物じゃないんだ・・・」

 

 前回の戦闘の中で分かったが、並列意思はマクロ化され多重化されることで高速化思考として利用できる。

 これを究極まで早くすることにした。


 そして結界を結界鎧として纏うことで身体保護と並列マクロの間で情報交換をすることで神経伝達を高速化した身体高速を術式として構築した。


 それでも戦闘速度は遅いだろう、そこで電気を利用することにした。


 物理の時間に習ったことだが電気を流すとフレミングの法則で磁力線が出て磁場が出来る。


 簡単に説明すると、右ねじの法則で同一方向への向かう二つの電子の動きはその電子間に引力が発生する。

 そして逆方向に動く二つの電子は斥力を発生させるのだ。


 そこで自分の進行方向に雷を流す、その上に結界ボードに電気を纏わせてタイヤのように雷を回すのだ。


 そう雷に乗る、つまりサンダーボードだ。


 そしてそれは一種のリニアモータであるため簡単に時速300キロ以上出せる。


 でも実は未だに怖くてそんな高速は出せてない・・・


 高速で砂の上を滑るように高速移動し雷だ、爆雷だ、炎だ、水柱だと色々暴れまわる。

 一通り暴れて荒れ果てた砂漠の中、獲物は塵も残っていないだろう思ったのだが?

 狐のような耳の大きな動物が砂の中に居た。


 晩飯だと思い早速捕まえる。


 今の俺から逃げることは不可能さ、どんなに噛みついても大丈夫、俺は全くヘッチャラだ。


 それは三十センチほどの小さい動物だったが妊娠中でお腹が大きかった。


「お前子供を宿しているのか、なら食べられないな。そうだコーヒーフレッシュほどで良いから乳を分けてくれないか?」


 言葉が分かる筈の無い相手に話しかけた。

 もちろん抵抗を続けるキツネみたいな動物。


「食われたくなかったら大人しくしろ!!」 


 そんなことを言いながら悪魔に成れない俺はその子を連れて帰った。


「なにフォグリス?、今日の晩御飯?えっ?まだ生きてるじゃない、そんなものを連れて帰ったら駄目よ」

 流石にラミアはこの動物を知っているようだった。


「この子にコーヒーフレッシュを出してもらうことにしたから。明日からまた朝はコーヒーだよ、そうそう名前も考えてあるんだ」


「フェスリーという名前」


 ラミアは俺の手からフェスリーを取り上げると、その顔をジロジロと見ていた。


 フェスリーはラミアの正体が分かるのか小さくなっていた。


「おいしいミルクを沢山出すのよ、分かったわね」


 ラミアはフェスリーを脅しているようだった。


「おいおい、脅かしたらダメだろう」


「脅かしてなんかいないわよ、今日から家族よ、お腹の子供も家族よ」


 久しぶりにラミアの明るい声を聞いて嬉しい気分になった。

 その晩、嬉しくなって俺はフェスリーにもごちそうを作ってしまった。


 フェスリーは安心できる場所と安定したご飯が得られることが分かると子供を産むのに良い場所と考えたようだ。

 それが証拠に結界内に定位置を見つけて寝そべっていた。 


 フェスリーは素早いのでラクちゃんのような悲劇は起きないだろう、いや悲劇は起きないことを願いたいし、そのための訓練だ、そう俺がこいつ等も守る。


 翌日からコーヒーが再登場した。

 コーヒーフレッシュ担当のフェスリーは大活躍だ。


 しかしよく乳の出る動物だな?

 シッポまで入れて三十センチのそこそこの大きさでこんなに乳が出るとは驚きだ。

 驚きながらぼやっと乳絞りしていたらほぼ1リッター近く絞っていた?


 自分の体より多くの乳が出せる?流石異世界だ俺は訳が分からなかった。


 ところがラミアは何時の間にかブラックコーヒー派になっていた。

「苦みは大人の味わいよ」

 などと意味深なことを言っていた。


 ということで絞った乳は勿体ないのでケーキやバターにした。

「ケーキ美味しい!!」

 満面の笑みを浮かべたラミアそこには前のままのラミアが居た。


 俺は嬉しかった。


 だがそれは、戻るはずの無い元の生活が戻ったんだと勘違いしていただけだった。

 フェスリーは最初ラミアを怖がっていたようだったが今は完全に安心できる相手として見ていた。

 それが証拠にフェスリーの妊娠したお腹すらラミアに触らせていた。


 しかしフェスリーの乳の出る量が半端ない、本当にあの体のどこからこんなに乳が出るのやら。


 俺たちは朝方の涼しい時間に移動する、フェスリーはラミアの肩の上がお気に入りの場所のようだった。

 高いところから見下ろす感じが好きなのかもしれない。


「どこまで行くのか俺たちの旅、何時までも続けば良いのに」

 そんな言葉が俺の口から洩れていた。


 いけないな、きっとこれはフラグが立ったな。

 案の定ラミアが立ち止まった。


「しまった。ここはまずいわ引き返しましょう」


 そう言った瞬間に地面に土で出来た丸い扉のよなものが開いた。


 それも見渡す範囲に多数の土の扉が開いたのだ。


「探り糸を踏んだようね、奴らが襲ってくるわ、ここは私が・・・急いで結界を張ってフェスリーと中に逃げて」

 そう言うとフェスリーを俺に渡した。


 俺は強力な小さな結界を張りフェスリーを入れた。


「ジェイも隠れて」

 ラミアは俺にそう言うが俺は制止した。


「俺も戦うよ、君たちは俺が守るんだ」

 前回のこともある、俺は守らなければならない。


 地面に空いた扉から蜘蛛が出てきた。

 それもおびただしい数だった。


 未だかつてこんな風景は見たことが無かった。

 大きな蜘蛛、小さな蜘蛛、白い蜘蛛に黒い蜘蛛全く形も色も違うのだ。


 普通襲ってくると言えば同じ種類の蜘蛛だろう、でも今、襲って来ている蜘蛛は異なる種類の蜘蛛で構成される群衆だった。

 つまりそれらは同種ではない、明らかに種類が異なる蜘蛛が、何らかの繋がりで、ここに集合していた。


 ラミアが爪を剣のように鋭くして高速移動をする。

 大きな蜘蛛を狙い、その前に居る中くらいの蜘蛛に切り掛かって行った。


 俺も氷を針のようにして大量に創生し小型の蜘蛛に向けて発射する。

 小型の蜘蛛に氷が命中し最も数の多い小型の蜘蛛も薙ぎ払われて行った。


 これなら数だけが問題で大したことなさそうだ。

 そんなことを思った瞬間だったラミアが立ち止まった。


 ラミアの体が白く色付いて行く、まるで粉が吹いたようだった。


「ラミア大丈夫か?」

 そう叫ぶが返事は無い。


 ラミアは体を捩り何かを振り落とすかのような動作を始めた。

 急いで近付くと、物凄い量の埃ほどの蜘蛛がラミアに取り付いていた。


 埃ほどの蜘蛛も毒牙を持っているようでラミアの体が赤く張れていく。

 そして赤くはれた部位はどんどん大きくなって紫色になって行く。


「小さくても数が多いんだ毒が大量に回るぞ、なぜ身体強化していないんだ?」


 俺は結界の鎧を纏っていのでどうも無いが、なぜラミアは攻撃を直接受けているんだろう?


「身体強化するには・・・いやっ、今あの姿になるのは・・・」


 そうか、分かった、俺は理解したよ。

 ラミアの防御の基本は鱗だ、つまりあの姿にならないといけない訳だ、


 俺はラミアを救うべく、直ぐに術式を創作し始めた。


 水を地下から汲み上げる、その時に酸性の物質を入れるのだ。

 その弱酸性の水を準備しラミアに水煙のようにして吹きかけ埃蜘蛛を蹴散らす。


 それと同時に解毒アンド治癒魔法でラミアの体を癒して行く。


 同時進行で今俺が纏っている結界の鎧魔法をマクロ化する。


 そして纏う対象をラミアとして俺の鎧を創生するのと同時並列実行する。


 魔法が発動するとラミアが驚いていた。


「これは!!」


 ラミアに鎧が顕現すると俺の方を見てラミアが微笑んだ。


「この鎧、ジェイに抱かれているようだ、優しい感じがする」


 ラミアは高速化して中型の蜘蛛を次々に粉砕していった。


 微細な粉のような蜘蛛は俺の酸による攻撃で全滅していった。

 それにしても数が半端ない、多きな蜘蛛以外に中型、小型会わせて千匹はいるぞ・・・


 俺は小型の蜘蛛に氷攻撃を仕掛けるが中型の蜘蛛が小型の蜘蛛を防御しだした。

 そうだ、大きくなるほど外骨格が固く俺の氷攻撃も聞かないのだ。


「そうかい、分かったよ、もっと強力なものをお見舞いしましょうかね」


 特訓で編み出した前回フェザーと名付け術式を拡張した術式だ。


 爆発力は調整可能で前回よりも強力に炸裂する。


 そして何より結界を使っていることで指向性爆発が可能になる。

 その指向性は点、線、面、そして通常の無制限爆裂の四種類を網羅できる。


 この術式、呼び方は同じだが記述する時は爆裂羽フェザーと改名した。


 まず、爆裂羽フェザーを点で爆裂させる。

 すると、中型の蜘蛛にまるで銃で打ち抜かれたように穴が開く。


 次に爆裂羽フェザーを線で爆裂させる。

 同じく中型の蜘蛛数匹が鋭い剣の斬撃を受けたのと同じく真っ二つになる。


 最後に爆裂羽フェザーを面で爆裂させる。

 中型の空数匹が強い圧力でぺったんこになり地面にせんべいみたいに張り付いた。


 しかし大型の蜘蛛はラミアの爪も辛うじて刺さるくらい硬かった。

「固いわね」

 ラミアがそう言いながらも倒していく、凄い爪だ・・・


 俺も試しに大型の蜘蛛に力が最も集中する爆裂羽フェザーを点で爆裂させたが、確かに大きな破壊は出来そうも無かったが、何とか穴を開けられるようだ。


「本当に固いな、もう少し水素の量を増やした大型のフェザーを作るか?」


 そんなことを考えて居ると、巣穴が一気に爆発し巨大な蜘蛛が現れた。

 その数2匹だった。


 俺は驚いた、今までそんな蜘蛛は見たことが無かったからだ。


 蜘蛛は蜘蛛だが背中が甲虫のようになっており、その蜘蛛は羽を広げ羽ばたき空中に浮かんだのだ。


「ちょっを待てよ、空中戦か?」

 巨大な蜘蛛は空中に浮かぶと高速で動き回る。

 あんな大きなものが浮かぶんだ・・・不思議な光景だった


 いきなり消える蜘蛛の姿。

 高速思考で追ってみると、実際には前かと思えば横に後ろにと自由自在に高速で飛び回るため視覚から消えるのだ。

 

 高速移動で対応しないといけないのだが相手は空中だ、予測してフェザーを発射するが避けられてしまう。

 考えて見れば直進している状態からいきなり横移動出来るのは反則だ。


 空中から糸が降ってくるこのままでは糸に捉えられてしまう。

 ちょっとピンチになった気分だった。


 俺にはまだ余裕があった。


 だがラミアは余裕が無くなって来ていた。


 巨大蜘蛛の糸に絡まりながらその糸を爪で必死に切り裂くのだが中型や大型の蜘蛛がその間も襲ってくるのだ。

 そしてラミアは今までの大量の蜘蛛の相手で時間が掛かっているため相当消耗している。


「ラミア大丈夫か?」

 そう言うが返事は無かった。 


「この危機は私の責任だ、今更躊躇して何になる」

 なにか悲しそうな表情で、ラミアはそう呟くと変化しだした。


 ラミアの下半身が大きなヘビに変化した。

 そして中型や小型の蜘蛛の火炎や毒攻撃はその鱗の前では無意味だった。

 小型や中型の蜘蛛はラミアはその尻尾で押し潰されて行った。


 そして大型の蜘蛛もラミアの尻尾の一振りでサクッと分断された。  

 尻尾の一振り、それは加速度と重量による恐ろしい攻撃だった。


 ラミアの上空の巨大蜘蛛は糸ではらちが明かないことを認識し紫の毒霧を口からまき散らし始めた。


 蜘蛛の毒は消化系の毒だ、通常の生物は消化酵素で溶かされてしまう。

 それが証拠に小型と中型の蜘蛛はこの攻撃で溶けてなくなって行った。

 なるほど最初から使わないはずだ。


 人型を維持する魔法を使わずに済むからだろうか魔力の消耗が激しかったラミアも対抗して魔法を使いだす。

 火炎魔法を空中に向けて放つがやはり高速に縦横無尽に飛び回るため当たらない。

 それでもラミアは空中に向けて火炎を放ち続けた。


 巨大蜘蛛たちは火炎には火炎とばかりにラミアに向けて火炎弾を打ち始めた。


 その頃、俺に大量の糸が降り注ぎ、俺は捕らえられたように思われた。


 だが俺は並列思考を最大化し高速な思考状態にしていた。


 高速思考が出来ないと制御できない術式を使うからだ。


 その術式は前回使った砲弾術式、そう前回”むち打ち”になりかけた人間砲弾の術式を拡張しマクロ化したものだ。


 まずは水を空中から取り出し、ノズルの上部、つまり腰のあたりに溜める。

 その水を水素と酸素に分離しノズルに供給し放電点火する。


 一気に水素爆発が起こる、それ以降も水は空中から収集し続け水素と酸素は供給され続けるのだ。


 そして最大の変更点は柔らかい結界により上半身を固定することだ、これにより上半身は衝撃から解放される。


 もちろんコントロールもできる、水素量を変えることで爆発力は変わる。

 ノズルの上下右左の爆発バランスを変えれば、方向転換も出来る。


「ドドドッドカーン」

 大きな爆発音が響き渡る。

 そして何度かの爆発音の後糸の塊は盛り上がると、糸の塊を突き抜け、大量の炎を噴き上げ砲弾化した俺が飛び上がった。


 巨大蜘蛛は確かに巨大だが、その巨大さ故に的にはなりやすいだから錯覚を利用した動きで目を胡麻化しているのだ。


 だから近づければ、こちらのものだ、俺は雲を操り大きな放電を誘導する。


 誘導する道を作ってやれば、その中心に雷を落とせば、その通り大電流が流れる。


 そしてその形は皮肉にも蜘蛛の巣のようであった。


 巨大蜘蛛たちはその形に恐れを抱いたようだったが遅かった、俺は雷をその中心に落とした。

 大きな雷でできた蜘蛛の巣状の広がり、それに捕らわれる巨大蜘蛛達。


 蜘蛛たちの内羽は薄くこの放電で燃え始め燃え尽きた。

 そして羽を失った巨大蜘蛛たちは地面に落下して行く。


 落ちてきた巨大蜘蛛たちをラミアの爪は簡単に切り裂いた。

 雷により外骨格は脆くなっていたのだろう。


 地上に戻るとラミアも魔力を使い果たしていた。


「ジェイ大丈夫だった」


 ラミアは今の自分の状態よりも俺を心配してくれた。

「大丈夫さ、少し疲れたけどね」


 ラミアは胸に手を当て黒い霧を発生させ、そこにある全ての蜘蛛の死骸を黒い霧に変えた。

 そしてその霧はラミアに吸収された。


「ジェイ、貴方も受け取る権利があるわ」


 そう言うとラミアは俺に口づけをした。


 彼女の口から俺の口を通して魔力が流れてきた。

 少しすると俺の魔力は回復していった。


 十分に回復したので離れようとした。


「えっ?もう十分なの?」

 ラミアが不思議そうに聞いた。


「魔力はそんなに使っていないからね」

 ラミアが信じられないような顔をしていた。


「信じられない、あれだけ大きな魔法を使ったのに?雷なんて大変な魔法で魔力をどれだけ使ったことか想像も付かないわ」


 そう言われても俺は魔力を殆ど使っていなかった。


 そして俺はその時エレメントという概念が邪魔をしているのではと理解した。


 エレメントという理論は大まかな理論なのだろう。

 ものをたった五つのエレメントとかで区切るのだ、そりゃ無理があるわな当然だ。


 俺が使っているのは科学だ。

 自然のことわりを利用することで本当は準備さえできれば魔力など要らない。

 だがこの世界のエレメントを使う魔力はその自然のことわりすら魔力で制御しなければならないのだろう。

 だから魔力の消費が激しいんだろうと理解した。


 戯れにラミアに聞いてみた。

「ラミア今度一緒に空を飛んでみないか?」


 ラミアは一瞬で否定する。

「なんか怖いわ・・・」


「そんなことは無いよ、飛んでみて分かったけど、すぐそばに湖や町があった、砂漠の真ん中だと思っていたけど、こんなに近く町があるなんて?」


 俯くラミアは小さな声で答えた。

「驚くことは無いわ、私はそこまでジェイを送って行くつもりだったから」


 「送って行く?」突然だった、ラミアが何を言っているか分からなかった。

「俺は町なんかに行きたくないな、出来ればラミアと砂漠中を旅していたいよ」


 だがラミアは俯いていた。

「ジェイは特別な人、そう貴方にはきっと何かを成し遂げなければならないことがあるのよ」


「ラミアどうしたの?、なんかおかしいよ?」


「ジェイとは町までよ、そこでお別れよ、貴方は人間の世界に戻るのよ」


 この時初めて、ラミアが積極的に道を選んできたわけが分かった。


「なんで、なんでだよ、そんなことって、そんなことって」

 俺は目の前が真っ暗になって行くのが分かった。


「ダメだ、今のまま一緒に旅をするんだ」


 ラミアは何も答えなかった。


 だが少しして沈黙していたラミアの顔が強張り戦闘態勢になった。

 弱電センサーを張っている俺にも分かった後ろから誰かが近づいて来た。


「水と食べ物を持っていたら少し分けてくれないか?」

 子供の声だった。


 後ろを振り返ると剣を俺に向けた子供が荒い息をしながら赤い顔をして立っていた。


 取り込み中の俺たちにお構いなしでその子供は再度要求してきた。

「水と食べ物を持っていたら少し分けてくれないか?」


「子供のくせに強盗か?」


「違う、分けて欲しいだけだ」


「剣を突き付けて、何が分けてくれだ、大体何なんだお前は、誰だお前!!」


「俺は強盗ではない、アクアのエレメントの勇者ヒーローの子だ」


「はぁ?」


 『アクアのエレメントの勇者ヒーローの子』

 その言葉を聞くと呆気に取られて次の言葉が出なかった。

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