第7話「国王からの召喚状、そして」
アレク様とのわだかまりも消え、少しばかり打ち解けることができました。
そう思った矢先、ヴィクター・ジルベウト辺境伯の元に一通の封書が届きました。
「国王陛下からの召喚状ですか……」
「ああ、ディアナ嬢に王都に戻ってきてもらいたいそうだ」
「国王陛下名義では否応無しですわね」
「呼び出される心当たりは?」
「ありますわ」
王都の治安が悪化しているのでしょう。王都の平和と安全を担うのは私などでは勿論ありません。微力ながら力添えをしていたにすぎません。それでも私の名前で、抑えられていた勢力もあったのでしょう。
私がかいつまんで説明しますと、ヴィクター様は苦いお顔をなさりました。
「“力の神”の恩寵を受けているとはいえ、我が国はひとりの令嬢に縋らねばならんのか」
「使えるものは使うべきですわ。出し惜しみしても仕方ありませんし」
「であれば国王陛下も婚約解消などしなければよかったのだ」
「ニクス王子がなさったことですので」
「あの軽薄王子め。……すまない。聞かなかったことにしてくれ。それで? ディアナ嬢は王都に戻して、再婚約でもするのか?」
「流石にそれはお断りさせていただきたいですわね」
「――では、アレクと」
「申し訳ございません、ヴィクター様。折角のお話ですけれど、私は矢面に立って王都を護る剣として生きることになりましょう。辺境領のために尽くせぬ女を娶ってもアレク様のご負担にしかなりませんわ」
「……わかった。アレクには俺から伝えておこう」
「短い期間でしたけれど、お世話になりました」
王命ですからすぐに戻らねばなりません。
アレク様にお別れを伝える機会は得られそうにありませんでした。
それから――
私は“金剛令嬢”として、近衛騎士団と協同し、王都に巣食う犯罪組織を根こそぎにし、王宮内で陰謀を巡らせる者たちも排斥しました。
やがて私の名は国内外に轟き渡り、私自身はきちんと行き遅れたのでした。とはいえニクス王子に婚約解消された時点で、行き遅れは確定していましたし、王都に縛られた私をわざわざ娶ろうなどという奇特な殿方がいようはずもございません。
それも私自身の選んだ道。
だから後悔は、
ありませんと言い切れないのが私の弱い所です。
「ディアナ様、お客様です」
「私に?」
王宮の近衛騎士の控室に、わざわざ私を訪ねてくるお客様?
「お久しぶりですディアナ様」
訪ねてきたのは長身の若い貴族のご令息でした。
「どちらさまでしょうか?」
「アレクです。アレク・ジルベウト辺境伯です。お忘れでしょうか」
「あの、お小さかったアレク様?」
懐かしさのあまり、つい口が滑ってしまった私を、アレク様は笑って許してくださいました。
「あはは。今はディアナ様より背も高くなりましたよ」
「失礼いたしました」
「いえ、いいんです。それよりディアナ様、五年前、中途半端に終わったお見合いの続きをしに俺は来たんです」
「はい?」
アレク様が何を仰っているのかすぐにはわかりませんでした。
次の言葉で流石に理解できました。
「どうか俺と婚約してください」
「……ご冗談はおやめください」
「俺は本気です。あの日、貴女の剣を見て、惚れたのです」
「行き遅れの女ですよ?」
「年下の男はお嫌ですか?」
アレク様は悪戯っぽくお笑いになりました。
「王都にずっといなければならない女ですよ」
「王都と辺境領を俺が往復すればいい話です」
アレク様の表情は自信に満ち溢れていました。
「アレク様より力持ちなんですよ、私」
「俺も強くなりましたよ。親父よりずっとね」
アレク様は誇らしげな表情で仰いました。
「僕は貴女と共に生きたいのです」
「……ありがとうございます、アレク様」
五年越しのお見合いの結果、私はアレク様と婚約することと相成ったのでした。
(了)
ゴリ…もとい“金剛令嬢”はその怪力を理由に婚約解消されました。辺境伯嫡男とお見合いをすることになりましたが今度はうまくいくでしょうか? 江田・K @kouda-kei
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