第6話「王子は真実を知る」


「ニクス王子お覚悟ッ!」

「ひいっ」


 ボクの目の前をぬらりとした刃が通り過ぎていく。

 短いナイフを逆手に持った覆面の賊が、ボクを狙っていた。


 ボクを護るのは三名の近衛騎士。

 もっと大勢いたが、三名以外は全て賊の凶刃に倒れていた。


「ニクス様、あの刃には毒が塗られておりますゆえ、十分ご注意ください!」

「何をどう注意すればいいんだい!?」


 騎士の忠告に思わず抗議してしまう。

 国の内外関わらず、命を狙われるのは王族にとっては日常のようなもの。それはボクだって承知している。いるが! こんなに頻繁に暗殺者がやってくるとはどういうことなのかな!?


「くっ……、ディアナ様さえいてくだされば」


 近衛騎士のひとりが口にした言葉が耳に残った。

 ディアナ。それはボクの元・婚約者の名前だった。




 辛うじて暗殺者を倒した近衛騎士たちは、倒れた者たちの容態を確認し、可能な限り手当を行っていた。


「ニクス様、御怪我はございませんか」

「ないよ。ありがとう」


 怪我があったら死んでいるだろうに。

 そんなことよりも、


「さっき、ディアナがどうとか言っていなかったかね?」

「はい」

「暗殺者とディアナと何か関係があるのかい?」

「ディアナ様は人知れず暗殺者を何度となく撃退していたのです。捕縛できた者については近衛に引き渡されていました。王宮の、王都の平和を密かに守護まもっておられたのです。ゴリラだの金剛石すら砕くだのといった揶揄を気にもせずに」

「えっ」


 ディアナが? 暗殺者を?


「ボクはそんな話は一度たりとも耳にしていないぞ? 妙ちきりんな噂話なら耳にしてはいたが」

「ディアナ様は噂を否定しませんので……」

「確かにディアナが暗殺者を捕らえるのを見たことは一度あった。しかし誰からも、それこそディアナ本人からも聞かされていない!」


「ディアナ様は『淑女が己が力を誇示し目立つのは好ましくない』と仰って、手柄も栄誉も全てご辞退なされておいででした。我ら近衛に手柄を譲るばかりでした。近衛が存在感を示した方が王宮も民も安心するでしょう、と」

「……ボクの命も救われたことが……?」


 ボクの問いに、近衛騎士は――ディアナとの約束があるのだろう――沈黙を貫いた。だが、その沈黙こそが答えを雄弁している。きっと一度や二度ではないのだろう。


 ディアナ! おお、ディアナ!!

 愚かなボクを赦してくれないだろうか!

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