とりかへばや物語


ハルキとキョウコはお互いのまちがいに気づかぬまま、同じカラオケ店に入った。

お互いに雑談に夢中で、前後の人など気にしていない。

部屋に案内された後、彼らはドリンクバーへ飲み物を取りに来た。


「お前、何でこんなとこに!」


「ひさしぶりだな。卒業式以来か?」


晴輝は目の前にいた男を指さした。

ドリンクバーにいたのは、二階堂春樹だった。

同じゼミにいた文系ゴリラだ。


「今デート中だから、お前の相手なんてしてられないんだよ。

さっさと部屋に戻れ」


「マジか。奇遇だな、俺もなんだよ!」


「え、ゴリラなのに?」


「お前だってタヌキじゃねえかよ!」


二人で笑いあう。

ゼミ内で共通したあだ名のような物だったから、今更気にもならない。


「あの、どうかしましたか? そんな大声で話して」


「キョウコさん、この人がさっき話してたハルキです」


「こんにちは。二階堂春樹っていいます」


「え、貴方が二階堂春樹さん?」


二階堂春樹といえば、今日の待ち合わせの相手ではないか。

その彼が目の前にいる。


「じゃあ、あなた誰なんですか?」


「え、俺? 坂下晴輝ですけど」


沈黙が下りる。

今まで赤の他人とデートをしていたということか。


「あの、私、小野崎京子っていうんですけど……」


焦りからか、京子は自分から名乗った。

二人のハルキは絶句し、顔を見合わせた。

状況を察したらしく、重い沈黙が下りた。


「ハルキ君、どうしたの?」


恭子が三人の間に割り込んだ。


「あの、キョウコさん。

今更聞くのもどうかと思うんだけど、苗字なんだったっけ?」


「苗字? 竹岡だよ。竹岡恭子」


それを聞いた三人は黙った。キョウコも二人いたのか。

なんという偶然だろうか。


「え、何? 修羅場? ちょっと怖いんですけど」


「いや、そうじゃなくて。

この男が同じゼミだったハルキです」


「こんにちは。坂下晴輝といいます」


恭子は小さな叫び声を上げた、口に手を当てた。

今日のオフ会に誘った相手ではないか。

互いに勘違いをして、共に過ごしていた。


どうりで話も噛み合わないはずだ。

まったく関係のない赤の他人と話していた。


「なんかあったよな、こういう童話」


「王子と乞食、でしたっけ」


「そんなこと言ってる場合かよ」


「てか、これからどうするの?」


全員、パニック状態に陥ってしまって何も考えられないのだ。


「とりあえず、そっちに合流していい?」


口火を切ったのは坂下晴輝だった。


「何でそうなるんだよ」


「ほら、改めて話し合わないといけないだろ。

今後のことも含めて、いろいろと」


「それが良いと思います」


「私も賛成」


二人のキョウコも賛成し、二階堂春樹はため息をついた。こうして、とりかへばや物語は幕を閉じたのである。

この後、滅茶苦茶カラオケで盛り上がった。

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ハルキとキョウコのとりかへばや物語 長月瓦礫 @debrisbottle00

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