竹岡恭子の場合 その2


「いやあ、すごかったね。見た甲斐があったよ」


映画の迫力に圧倒され、恭子は何も言葉が出てこなかった。

複雑に絡み合う人間関係は非常に濃く、見ごたえがあった。

人気があるのもうなずける。


「キョウコさん、こういう趣味があったんだね。全然知らなかったよ」


「よく言われる。

ひさしぶりに来たけど、映画館とテレビじゃ全然違うね」


「確かに。俺なんて鳥肌すごかったもん」


関連作品も観たくなってきた。

こんな壮大な設定、完全に理解できそうにない。ひさしぶりに頭を使ったからか、腹の虫が盛大に鳴った。


「どこかでお昼食べようか」


「そうだね」


二人は気まずそうに顔をそらしながら、ファミレスに吸い込まれていった。

お互いに人違いをしていることには未だに気づいていない。


***


テーブル席に向かい合わせに座り、ハルキはブラックコーヒー、キョウコはカフェラテ、ランチセットをそれぞれ頼んだ。ハルキはそれを見て、はてなと思った。

自分の記憶が正しければ、キョウコは甘い物が苦手ではなかったか。

ブラックコーヒーをよく飲んでいると聞いた。


「今日はカフェラテなんだ?」


「そう、何かそんな気分」


なるほど、今日はそういう気分なのか。

それなら、文句は言えまい。


女心は難しいものだと思っているうちに、うどんが運ばれた。

ランチを食べながら、学生時代について話を咲かせる。


キョウコは専門学校に通っていたが、今は広告代理店に勤めている。

音楽に対する熱意は消えず、趣味で続けているようだ。


「へえ、ミュージシャン志望だったんだ。

楽器やってるって聞いたから、もっとお硬いイメージがあった」


「ほら、今っていろいろ流行ってるでしょ? ボーカロイドとかもあるし、そういうのに憧れてたんだ~」


「夢中になれるものがあるっていいよなあ。俺も思い出したんだけどさ、同じゼミにハルキって男がいて、そいつがまたとんでもないタヌキだったんだよ」


大学近くのゲームセンターに通っているようで、姿を何度か見かけた。

ゲームサークルなるものに所属しており、仲間たちと遊んでいるようだった。


そのくせ、あたかも自分はゲーマーじゃありませんというオーラを出していた。

女子にも受けており、人気もあった。


「ああいう雰囲気イケメンっていうのかな、ズルいよなあ。それだけで女子が来るんだもんなあ」


それ以来、彼のあだ名はゲーマータヌキとなった。


人のことはまったく言えないだろうにと思いつつ、話を聞いていた。

これがいわゆる同族嫌悪というやつだろうか。


よく似た人物もいるのだなあと思いながら話を聞いていた。

残念ながら、とんでもない勘違いをしていることに気づきそうになかった。

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