第7話 青野 大地は悶絶する
突拍子もないことは実感があとかあわいてくるものです。
今回のこともそうです。
喫茶店を出て、電車に乗って家に帰るまで、翔さんと普通にお話して普通に玄関のドアを開けました。
「大地~~~~~、無事か~~~~~~~!」
ひげ面の大きな男の人にいきなり抱きしめられました。
何のことはない。父親である。
「どうしたのお父さん、こんな時間に家にいるなんて。」
「どうしたもこうしたもない。秘書からお前が痴漢にあったと警察から連絡があったと知らされて、居ても立ってもいられなくて飛んで――――。」
「まさか仕事をほっぽり出して来たんじゃないでしょうね。」
「そうしたかったんだけど外せない仕事があって、すぐに駆け付けられなくて済まない。」
「もう、大丈夫よ。本当に過保護なんだから。」
「そんなこと言ったって、お前は母さんに似て美人さんに育ったからな、それに小学校のことあるし。」
「その話はやめて。」
「あぁ、すまない。」
「それよりホントに大丈夫だから。今日は一緒にご飯食べられるんでしょ。」
「ああ、もちろんだ。今日はお前の好きなビーフストロガノフを用意させている。」
「本当。」
私のお父さんは社長という立場で日々忙しく働いている。
お母さんは小さい頃に病気で亡くなっていた。
だから、この広い洋館が自宅の時点で私は1人ぼっちになることが多かった。
そりゃあ広い洋館だもの。
家政婦の何人かはいる。
でも、マンガに出てくるようなジイやみたいな人はいない。
今どきホントにそんな人がいるのだろうか。
まぁ、そんなことは置いといて。
兄弟でもいれば少しは変わったのだろうが、私は一人っ子。
この広い自宅で1人夕食を食べるのが当たり前だった。
「お父さんとご飯食べるのて久しぶり。」
「すまないね。いつも一人にしてしまって。」
「ふふふ、楽しみ。」
私は自室に戻って制服から部屋着へと着替えた。
姿見に移る私は白いワンピースにブラウンのストールをかけている。
お母さん譲りの綺麗な黒髪。
自分でも、もう男だとは思えない。
食堂に向かうとお父さんが出迎えてくれた。
「本当に、母さんそっくりに綺麗に育ったね。」
父さんのエスコートで食卓に着く。
「お父さん的には男の子なんだから自分に似てほしかったんじゃないの。」
「いやいやいや、そんなことは無いよ。息子が可愛く成長しても、お父さん冥利に尽きるかな。いや、ここは娘と言った方が良かったかな。」
「いいよ気にしないで。私はそこでヒステリー起こすほど壊れてなんかいないから。」
「こら、壊れているなんて表現よくないぞ。大地自身もそうだが、大地と同じ人たちに失礼だよ。」
「……ごめん。自虐過ぎた。」
「さぁ、そんな暗い顔しないで。せっかく一緒にご飯が食べれるんだ。明るくいこう。」
「これなら痴漢にも感謝かな。」
「……許さないよ。」
「え?」
「大丈夫。大地は気にしないで。父さんがしっかり抹殺しておくから。」
「抹殺って、……あんまりやりすぎないでよね。」
「大丈夫。家族には手出ししないから。」
「ほどほどにね。すぐ助けてくれた人がいたからほとんど触られてはいないんだから。」
「その助けてくれた人って、――――男か?」
「ううん。男の人みたいなカッコイイ女の人。」
「そうかそうか。」
「クラスも一緒で同じ短距離走者だった。」
「それならお友達に――――」
「帰りに付き合ってくれって告白された。」
「…………………………………………ふーーーーーーーん。それってトレーニングとかだよね。」
「ううん、男と女で。」
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………そうか。それで返事は?」
「OKしちゃった。」
「はははははははははははははは。そうかそうか大地も彼女を作る時が来たか。」
「ううん、翔さんが彼氏で私が彼女。」
「そうか、翔さんというのか。今度家に招待しなさい。お父さん挨拶がしたいからその日仕事休むし。」
「お父さん。そんなに簡単に休めるの。」
「ハハハ、お父さん有給あまりまくってるし、今まで社長自らブラック労働してたからね。いい機会だし改善していかないと。」
「お父さんの会社ブラック企業なんだ。」
「こらこら、社員には休ませてるよ。」
その後も雑談を交わしながら久しぶりの家族との団欒を楽しんだ。
私は食事が終わると自室へと戻った。
女の子の部屋。
男だった時の名残はもうない。
私はベットにダイブすると。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
悶絶した。
何平然とお父さんに彼氏の話してんのよ私は。
彼氏彼女になったのだってまだ数時間前で、私自身心の整理がついていないのよ。
そもそも、翔さんから一方的な告白をされて勢いで受け入れちゃったけど、私自身はまだ好きかどうかはっきりしてないのよ。
それをすまし顔で「彼氏ができた。」なんて言って恥ずかしくないのお。
しかも私たちは歪な恋人関係。
こういう時どうしたらいいの。
「………………………………。」
そうだいいことを思いついた。
私はスマホを手に取った。
地上の比翼連理 軽井 空気 @airiiolove
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