第10話 孤児院の朝

孤児院の朝は早い。


「ベル、全然起きないな。」


アレンは一番早く目覚めて布団ももう自分の分は直し終え、既に服も着替えおわっていた。


「しかも大の字で寝てるじゃん。初めての慣れない空間でよくこうも寝れるよね。」


ラムは偉そうなこと言ってるが先程アレンに起こされたばかりで目もしっかり空いておらず目をこすっりながらベルの体を揺すった。


「ちょっとー!もうそろそろ起きなよー」


しかしラムがいくら揺すろうとベルは微動打にしなかった。大の字で若干布団から体がはみ出し布団を蹴飛ばしてグースカ気持ちよく寝ている。起きる気配など全く感じられなかった。


「ほ、ほんき…?ちょっと、いくら何でも寝過ぎじゃない?神経どうなってんの!?」


「うーん、困ったねぇ」


ユトはそう言いながらベルにゆっくり近づき大の字でゆうゆうと寝るベルの上に馬乗りになった


「ゆ、ユト…?」


アレンはユトのいきなりの行動にびっくりし、思わずユトの服の裾を引っ張ってユトを止めた。


「何をする気だ…?」


「えー?ベルのことコチョコチョしたら起きたりするかなーって思って。ダメかなー?」


ユトは笑顔で首を傾げ、クリーム色の少し長い髪を。揺らめかせた。


「いや、自業自得だしやってもいいだろ。」


アレンが許可を出すとユトは馬乗りになった状態でまずはベルの利用耳に手をかけ、耳の裏側の皮膚の薄いところで指を器用に動かした。


その後、手は下に下にと下がっていき首から脇、銅のくぼみまで下がっていった。指を細かく動かすだけでなく時折 スーッと一本線でも書くように指を引く。その指使いにとうとう耐えられなくなってきたのか微動打にしなかったベルはその指の動きに反応してピクンっと跳ねるように体をくねらせた。


「うわっ!」


そして3分間のユトによる指さばきにより私はようやく目が覚めた。なんだかいつもの起きた感覚と違った感覚で目覚め少し戸惑ったが目の前の楽しそうなユトの顔を見てすぐに状況を理解した。


「ユト!!早く私の上から降りてよ!!」


そう言って私に馬乗りになっていたユトの胸を両手で強く押してユトをどかせようとした。


「あーあ、残念。」


ユトは面白いおもちゃを取られた子供のようにすねた顔をした。そんな顔をしないでほしい。起きなかった私が悪いけど普通に起こしてくれればよかったのにと思った。


「ネーなんで誰も起こしてくれなかったの?」


そう言うとアレンとラムが目を真ん丸にさせて驚いて反論したそうにこちらを見た。


「な、何…?」


「俺達は起こそうとしたよ。」


「え!嘘!」


「ホントだよ!ベルってば僕が体をゆすっても全然起きなかったんだからね。ベルってほんっと図太いねー」


「ゔっ…ごめんなさい」


最後の言葉は悪意しか感じられないが、3人とも私を起こそうとしてくれて頑張ってくれていたらしい。そして何をしてもなかなか起きなかったから私をコチョコチョの刑にしたらしい。私に反論する権利はなさそうだ。なんなら感謝しなければならない。


「起こしてくれてありがとう」


私はあくびをして目をこすり窓の外の日を浴びた。異世界に転生して初めて迎える朝。


「次は自分で起きろよ。」


「わ、わかった。」



でも守れる自信がまったくない。私の22歳までの留年歴の理由は出席日数と深く関わっている。朝起きられず一限の授業に間に合わなかった日はその日一日を自主休校にしてしまう日などザラにあった。何を隠そう、そう!私は朝が苦手なのだ。そのためこれからも朝の6時に起床は無理な気がしてならないのだ。


「まぁ、起きる時間としては6時だけど最終的に朝の歌の時間に間に合えば大丈夫だ」


「そうそう、でもそろそろその歌が始まるから早く行こ」


アレンとユトの言葉を聞いて、その場で急いで服を脱ぎ新しい服に着替えた。準備ができたと親指を立てて自信げに三人にアピールするとラムちゃんは若干顔を赤くしてフイッと私から目を背けた。言われたとおりすぐに着替えたのに何が不満だったのだろうか。


そして4人揃ったので、階段を降りて部屋に向かった。歌の間は教会のようでなくとも中は少しきれいで、窓から差し込む光がとてもきれいだ。


歌の間にはもう既に多くの年長者の人が集まっていた。こうして見ると、本当にこの世界の孤児院は私の知っている孤児院とは全く違うのだと痛感した。


なぜならば大きな疑問があるからだ。通称、私の知っている孤児院とは、世話をしてくれる人がいないと生活が困難な小さな子どもたちの生活を保護する場であるからだ。


しかしこの世界の孤児院は別物だ。子供は私達6歳、7歳が最年少組であり、年長者は20歳までいる。明らかに自立して一人で生活できる可能性の年齢の割合が多いのだ。


ザワザワとした歌の間の話し声もシスターのベルの音により、すぐに話し声は止まった。


「おはようございます(ニコッ)」





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