第8話 習い子とシスターと入浴

「シスター。一つ質問してもいいですか?」


「はいどうぞ。可愛い君。」


この言葉…出会ったときにかけられた言葉だけど。もしかしてこの人は本当に最初のときに気づいてたってこと?私は深く考えることをやめて質問を続けた。


「“習い子”って何ですか?」


その質問にシスターは得意げに人差し指を立てて話し始めた。


「“習い子”っていうのは16歳からなる少年隊の候補生みたいなものです。上のお兄さん達の服の手伝いや、あとは歌の練習などです。」


「へぇー…」



つまり“習い子”とはお兄さん達の弟子のような感じで、少年隊になると教会で人前で歌うことになるらしい。



「同じ部屋のラム達3人とも習い子ですので聞いてみるといいですよ。」


「あとはそうですね、ベルの場合は私のもとで男性の振る舞いを仕込む必要がありますね。これからこの孤児院の少年隊として神に歌を捧げるものとして人の目につくのですから男としてしっかりしてもらわないと。」


「わ、わかりました!」


男の振る舞いか。意識したことはないけれど今のままじゃだめってことかな?


「他に聞きたいことはありますか?」


「えっと、今はないです!」


そう言うとシスターは私の手を取り再び共同浴場の方へ向かった。しばらく話していたせいかもう皆出てしまったようだ。


「今から入るんですか?」


「えぇ。私も入るので一緒に入りましょう。」


そう言うとシスターは着ていた服の裾をグッと掴み腕を上げて上の服を脱いだ。脱いだ瞬間に長い金の髪がファサーと弧を描くように広がり見入ってしまった。


そして下を脱いでタオルを肩にかけた。


「さぁ、ベルも早く脱いでください。」


「はい」


私も服をグイッと上に上げて脱いだ。全部脱ぎ終わるとシスターはよくできましたと笑顔で拍手してくれた。22歳になって美形に裸になって拍手を送られる経験をするなんて前世の私は思ってもいなかっただろう。なんだか変な気持ちだ。とりあえず嬉しくはない。


一緒に湯に浸かりその後タオルで髪を乾かしてもらい部屋まで送ってもらった。




✱   ✱   ✱   ✱



「それではまた明日。朝は6時起床ですからもう夜も遅いのですぐに寝てくださいね。それではおやすみなさい」


そう言ってシスターは私の額にかかる前髪をハラリとあげておやすみの口づけを落とし、そのままヒラヒラと手を降って部屋を去った


その様子を部屋の入り口で見ていた同室のラムは手を止めてまじまじと見ていたらしく、私が部屋に入るやいなや一気に迫ってきた。


「ちょっと!さっき聞いたよ兄様たちに!ベルが女だって!!」


まずはじめに口を開いたのはピンクアッシュ髪のツンデレボーイ ラムちゃんだった。私からしたら何を今更といった感じである。一緒に森にも行って一番長く過ごしていたし途中で気づいてくれても良かったのにといった感じだ。


「うんそうだよ。けどラムちゃん私と一番長く一緒だったのに気づいてなかったんだね」


「うるさい!見た目僕らと変わんないんだから気づくわけ無いでしょ!馬鹿じゃないの!?」


気づくわけ無いっていうのは女子としてだったら傷つくところだけれど今世は男として過ごすのだから今の言葉は褒め言葉として受け取っておく。


「何そんなに突っかかってるのラム。」


「ユト!だって女なんだよ!女なのに僕達と同じ部屋なんだよ!?」


「だから何?別にベルが女であってもこの孤児院で過ごすなら男として生きないといけないんだから孤児院のどこかで寝なきゃならないのは当たり前でしょ。」


クリーム色の肩につきそうな髪を揺らめかせる女の子のような見た目でちょっぴり背の高いユトは意地悪そうな黒い顔でラムに詰め寄り論破していった。


「ラムはベルが女の子だから意識してるの?」


「いや、僕はそんなんじゃ…!」


「別にベルは “男” なんだから大丈夫だよね?」


「ゔっ…!」


ラムちゃんは意地悪そうな笑顔のユトにジリジリと壁に詰め寄られて逃げ場を失って降参した。


どうやら私とシスターがお風呂に入っている間に年長者のオレンジ髪のオランが他の年長者に伝え、その後 皆に教えていたらしい。


「オランさん気づいてたんだ」


「食事のときに髪の毛を触ってただろ?あの時に気づいたらしい。オラン兄様はそういう感すごく当たるからな。」


なるほど。あの時の執拗な髪いじりにはそんな理由があったのか。しかしあの数分でよく分かったなと感心するのと同時にやっぱりシスターに男の振る舞いとやらをこれから徹底的に叩き込まないと瞬時にバレるリスクもあることが分かったのでこれから励もうと思った。


その後明日は朝6時起床と早いので長くは離さず全員川の字になるように布団を並べて寝た。

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