第5話 ようこそ孤児院へ
川につくと緑の大きなラグビーボールのような実が大きな木になっていた。木からはポトリと椿のような白い花が根本から落ちて花が川を流れている。
「これがポトの実だよ。ベルって木登りできないよね」
ラムは私が鈍くさいことをこの1時間ほどで把握したらしくどうせ登れないと悟ったのだろうが無性に腹が立つ。まあ登れないので反論はやめておく。
「僕が登って実を落とすからベルは籠でキャッチしてね。」
「わ、わかった」
そう言うとラムは靴を脱いで素足になる。白くて細い陶器のような脚で木登りなんてしなさそうな顔なのにラムは慣れた手つきで木の幹に手をかけヒョイヒョイと登っていきあっという間に上に辿り着いた。
落とした実を籠に入れた。確かに大きな実なのでこの大きな草籠にも納得した。
「この実って美味しいの?」
「ベル…もしかして割って今食べようとしてるの?」
私が緑の大きな実をガンガンと石にぶつけて割ろうとしてるのを見て冷たい目で見てくる
「そのまさかだよ!だってこんなにおっきい実なんだよ?中にぎっしりつまってるんでしょ」
「やめといたほうがいいよ。だって中身は…」
「うわっ!!」
ラムが止めようと声をかけたときだ。実は衝撃で一気にヒビが入り詰まっていた液体がブシャーと溢れた。その後はヒビからポタポタと赤いドロドロの液体が出てきた。
「ほら言わんこっちゃない。本当にノロマでグズだねベルって。」
人が失敗してるさまを見て「大丈夫?」じゃなくて煽ってくるあたり本当に生意気だ。しかし正論過ぎて言い返せない。7歳の男の子に言い返せない成人女性。言葉にすると苦しい。
「どこもかかってない?汚してないよね?」
「ううん、ちょっと髪の毛と右の頬に赤いのがついちゃった。洗ったら取れるかな?」
そう言ってついたところの髪を掴んでほらねって見せると私の髪を見てあららーやっぱりかーといった感じで残念そうに見た
「あーやっぱりか。そうだな…今日は取れないよ。というより一週間は取れないね。」
「え!!」
この液体そんなに持続力あるの!?肌についた液体が一週間も取れないなんてそんな経験前世でなかったよ。やっぱり異世界だから見たことないもので溢れているのかな。気をつけよ…
「この液体ってそんなに取れないの?石鹸でゴシゴシしても取れない?」
「何しても取れないよ。頑固な汚れNo.1とまで言われる食材だからね。その髪もしばらくそのままだよ。」
髪は女の命だと誰かが言っていた気がする。しかし今の私は髪が短いアッシュブラウンでくせ毛でまとまらない髪だ。髪だけなら男のラムのほうがきれい。そう思うと髪もそこまで大切じゃない気もしてくる。
「私の髪似合ってる?」
「は?汚いに決まってんだろ。汚れてるのに似合ってるってアンタ馬鹿じゃないの?」
「………いじわる。」
ラムは嘘がつけないんだろう。けど汚れないと来ると初お披露目でかつ私の歓迎会なのに主役が汚れてるって…
✽ ✽ ✽
しばらく懲りずに髪を川に濡らしゴシゴシ洗ったが何も落ちなかった。なんなら赤色がキラキラ光だし余計に汚れが際立ってしまった。ビショビショの髪に赤いキラキラ輝く汚れ。
そんな私の姿を見て笑いを堪えずに大声で笑うラムはいつか締めてやる そう思った。
そしてポトの実を籠いっぱいに集めた私達はそれをまた背負って孤児院に向かった。孤児院につくといい匂いがしてきた。籠いっぱいのポトの実を見せると重かっただろう?と私達二人の頭をポンポンとして褒めてくれた。
料理は次々と並べられた。孤児院とは普通もっと食事が足りていないだとかのイメージがあったのだがここはそうでもないようだ。見たことのない料理がたくさん並べられており私はつまみ食いしたくてたまらなかった。伸びた手をサッとニースに止められ、私も食器を並べる手伝いをした。
食事をする場所は大きく長い木の長テーブルで全員で揃って食べるらしい。そして料理が並ぶとシスターが前に立ち祈りを捧げそれに続いて私のお披露目も済み、皆でご飯を食べた。
「これすごく美味しい!」
「これはベルが取ってきたポトの実のスープだよ。美味しいでしょ?」
「エー!これが?」
私の反応を見てオレンジの髪の毛先をくるくるしながらニマニマするオラン。
「もしかしてオランさんが作ったんですか?」
「そうだよー。ベルが頑張って取ってきてくれたから作れたんだよ。ありがとうね。」
そう言いながらオランは私の赤く染まった毛先をクルクルして遊ぶ。
「あ、あのぉ…オランさん?」
「ん?なになにぃー?」
「あんまり髪を触られると食事に集中できないんですけど…」
そう言うがオランは気にしないでーと言って私の髪を触り続けた。あまりに触るのでもう何も言えなくなった。触るならどうぞ触ってくださいといった感じだがやっぱり気になる。
食事を終えたらシスターに部屋割りの説明をされた。基本的には少年隊は同じ部屋で、属していないものは属していないもの同士でグループ分けが既に住んでいるらしい。
そして私の部屋は3人部屋のところになった。布団を一つ追加すれば寝れるだろうと敷布団を持ってきてくれた。ヨーロッパの町並みなのに敷布団の文化はあるんだ…なんか不思議だな。
「さぁここがベルの部屋だよ。皆仲良くね。」
そういうやいなやシスターは仕事がまだ残っているらしく自分の仕事場に戻った。そして部屋の三人と目が合うやいなや一人が私を指差してワナワナと何か言いたげだった。
「ベルが僕と同じ部屋なの!?」
ピンクアッシュ髪のラムが私を指差して驚いている。3人部屋で3人既に埋まっているから私が来るとは思っていなかったらしい。
「ラムちゃんよろしくね」
「誰がラムちゃんだ!ちゃん付けするな!」
ラムは口をへの字にしてフンッとそっぽを向いた。さすがにからかい過ぎたかと思ったがこんなにもツンツンしているのに私が鈍くさくても最後まで森の中私の歩幅にあわせてゆっくり歩いてくれたのを私は見逃さなかった。彼は絶対にツンデレ種族だと思った。
なので私は今日からラムちゃんと呼ぶことにした。
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