第4話 ポトの実と年齢と洗礼式


「ねぇ、アンタ本当に大丈夫なの…」


「ハァ…ハァ…、、、」


いえ、全く大丈夫なんかじゃない。ちょっと休憩しようよ。ほら木陰がこんなにたくさんあるよ!休んじゃおうよ。


一体この体ときたらなんてことだ。確かに前世の私は運動音痴だし体力はなかったけどそのパラメーターはこっちにも引き継がれてるの?それにしても息切れするなんて早すぎる。


「ちょ、ちょっとだけ…休憩させて…ハァ…ハァ…、、、」


私は背負っていた空っぽの大きな草かごをヨイショとおろして木陰に座り込んだ


「ほーら!やっぱりアンタって鈍くさいんじゃないか。」


「うグッ…!」


言い返す言葉もなかった。グーの音も出ない。体格のさほど変わらない子供に体力でこんなにも負けてしまっている。まだ歩いて30分も立っておらずまだ教会の鐘の音だって聞こえている。この体はどんな生活を今まで送ってきたんだろう。まるで体力が無い。私の体力は平均以下の下の下なのかもしれないと悟った。


「仕方ないな。5分だけだよ。」


私の息切れした様子を見て休憩がいると判断したラムは仕方ないからと一緒に私の隣の木陰で休憩した。そして私は孤児院を出る前から思っていたことをラムに質問した。


「この籠とってもおっきいけど『ポトの実』ってそんなに大きな実なの?」


私が体力を削られた半分の理由はこの大きな籠だ。草籠だからと甘く見たが子供一人分くらいある。しかし思っていたことをそのまま質問するとラムはこいつ馬鹿なんじゃねぇのとでも言いたげにジトーっと私のことを見てきた


「な、何…!?」


「アンタってポトの実知らねぇの?」


ラムは木に横になる私を追い詰めるように前のめりになってジリジリと顔を近づけて距離を詰めてくる。


「う、うん…」


正直に答えるとラムは目を丸めて一瞬驚きその後また私を疑うようにじっと見つめた。


「ふーーーーん。普通この町や近隣の村の子達なら7歳の時に…。いや、もしかしてお前ってまだ洗礼前?」


洗礼…?また知らないワードが出てきた。しかし口ぶりからして7歳の時点で洗礼を受けることは当たり前でそれを受けていればポトの実を知っている…ということだろう。


ならここで知らないと答えた以上まだ六歳に満たないって言ったほうがいいのかな…


「洗礼…受けてないよ、まだ。」


「ふーん。年は?」


「ろ、6歳…。」


そう言うと急にラムの崩れなかった釣り目のツンツンした顔が崩れてニマニマと嬉しそうな顔になった。


「フッ、じゃあ僕が1つ年上だね。孤児院では年長者は敬わる。これは常識だからね!あとこれから僕は先輩なんだから敬いなよね。ノロマ。」


急に自分が年上だとわかると調子に乗り出すラム。言っとくけど私年齢わからないだけだからね!アンタより年上かもしれないんだから!というかサラリとノロマってひどい!


「ノロマじゃないもん!」



私の年齢をひとつ下だと分かるやいなや更に偉そうにするラム。多分私同い年か1つ上だとは思うけど洗礼式の記憶がないっていうのはおかしいのでこうするしかない。しかし偉そうなこの態度なんとかならないものか。


「あ、もう五分立ってる。よし、そろそろ行くぞベル。」



「あ、待ってよラム!」


「ラムじゃなくてラムさんと呼びなよ!」


ん?でもおかしくない?確か孤児院のとき明らかに一番の年長者のシスターのムルにラムは呼び捨てだったような


私はおかしい事にハッと気づきすかさず質問返しをした。


「でもラムさっきシスターのこと呼び捨てしてなかった?年長者は敬うんだよね。」


「うグッ。」


するとラムはやってしまった。と言わんばかりの顔をする。この子はシスターみたいに感情を隠せないらしい。思ったことがすぐ顔に出るようで可愛らしいとさえ思った。生意気なところはあるけどもしかしたら純粋で良い子なのかもしれない。


「ほーら、やっぱりね!嘘なんじゃん!そんなに年も変わらないんだし仲良くしてよー!」


「バカ離れろ!気持ち悪い。男同士で抱きつくなんて僕にそんな趣味はない!離せー!」


私達はおそらくあの建物の中で最年少だ。他の子たちは少し大人びている感じもあったので仲良くできる子供はラムくらいだ。ぜひだいたい同年代同士仲良くしたいので私はラムの腕にギュッと抱きついた。ラムはベッタリくっつく私を嫌がって私を腕から離そうとする。


「嫌だー!友達になってくれるって言うまで離さない!!」


「はぁー!?脅迫じゃないのそれ!話し手って言ってるだろ!って固っ!体力ないのになんでこんなに剥がれないんだよ!んぐー」


顔を真っ赤にしても離れない私にとうとう諦めたのかラムは降参して私を引き裂こうとする手を止めた。


「分かったから。友達になってやるからはなしなよ。まったく…変に時間使っちゃったじゃないか。」


ラムは呆れた顔で私を見る。私としてはこれでやっとセカンドライフでお友達ができて嬉しさしかない。高校で留年しすぎて友達ができなかった日々は辛かったので友達を作れてホッとした。


それよりもさすがに遊びすぎたかな。ポトの実のお使いを頼まれてから結構たっているのにまだポトの実すら見つけていない。新しい仲間として認めてもらうためにもまずは印象が大切だ!ポトの実探しに戻らなければ


「ごめんごめん。さぁポトの実探しに戻ろう!ラム行くよ!私に付いてきて!!」


「ちょっと!どこにあるのか分かってるの?」


は!そういえばそうだ。全く場所の検討すらない。というよりここから一人で帰れるかと言われるとNOである。


「わかんない!」


私は元気に正直に答えた!ラムは呆れたといった顔で額に手を当てため息をついている。


「分かった。ベルは僕から離れないでね。迷子になったら僕が困るんだから。」


「了解!」


そう言って私達ポトの実探検隊はポトの実を集めるためにラムの案内で川辺に向かった。

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