第6話 黒猫と奇巌城
軽い事情聴取を終えたレオナは叔父が来るのを待っているとレオナ目の前にあの黒猫が現れた。
じっと蜜色の双眸がレオナに突き刺さる。
レオナを見透かすその黒猫が『合格だ』と喋り出した。
「えっ!?」
周りをキョロキョロと人を探すが、レオナと黒猫以外人の気配すらしない。
『落ち着きなさい、『アルセーヌ・レオナ』よ』
―――今、なんて言った?
ますます訳が分からなくなるレオナに『君の疑問を一つ一つ説明するから話を聞きなさい』と黒猫に言われる。
『吾輩はノワール、吾輩はずっと君の事を探していたのだよレオナ君』
黒猫、改めノワールにレオナは「あ、貴方の名前は分かった……。でも、私はモーリス・ルブランの子孫であって」とノワールが先ほど口にした名前の訂正をしようとしたが、遮られた。
『否、君は間違いなくアルセーヌ・ルパンの子孫だよ』
何を根拠にと言いかけた時『突然こんな事を言われて戸惑うのも無理はない。故に明日我らが隠れ家『
「奇巌城……」
アルセーヌ・ルパンが決して伝奇物語中の主人公に位置付けさせないのと同時に難攻不落の隠れ家にして資金源として知られている。
そこに行くまで時間がかかると思ったが、もしかしてとスマホからマップ検索をかければパリ市内に『カフェ エイギュイユ・クルーズ』が一件ヒットした。
『そこに明日の午後一番に行けば私よりもより詳しい人物から話が聞けるだろう』
最後に『待っているぞ』とだけ言い残してノワールはレオナの目の前から去る。
追いかけようとしたレオナだったが「レオナ!」と叔父の呼び声で立ち止まりノワールを追うことは出来なかった。
「大丈夫かいっ!?怪我とかは」
「大丈夫だよ、叔父さん」
叔父を安心させるための言葉を口に出すレオナ。
今日は私の家に来なさいと言われたレオナだったが、頭の中にはノワールと奇巌城のことで一杯だった。
翌日 パリ市内・『カフェ エイギュイユ・クルーズ』
大学を休みノワールの言われた通り午後一番に指定された場所に来たレオナだが、半信半疑の状態で入るべきか店前で悩んでいた。
『何をしているのだ?』
呆れた目でレオナを見ているノワールの声で驚くレオナ。
『早く入れ』
ノワールに促されて決心がついたレオナは店の扉を開ける。
店内は今入ったレオナ以外の客の姿はなく店のマスターだけがいる。
「いらっしゃい……おや、貴女は」
視線を動かしレオナと足元のノワールをひと目見たマスターは「―――お帰りなさいませ我らがパトロン、と言われても貴女様はただ困るだけですね」と困った笑みを浮かべながら話す。
「あの、それはどういう……」
「まずはおかけ下さい、長いお話になりますので」
こちらにと案内された席に座るレオナ。隣の椅子に座って眠り始めたノワールを見たレオナに「その猫は代々アルセーヌ家の人間のみに現れると伝えられているんですよ」とマスターが語りだす。
「このお店は三代目……レオナ様からするとお祖父様にあたるお人が息子の四代目様に与えた『奇巌城』なのです」
マスターの説明を聞いたレオナは母親ではなくずっと頑なに自分の話をしなかった父のことだと察する。
続けてマスターは「ですが、三代目と四代目様で有ることで大喧嘩なされ四代目は家出をされずっと疎遠だったのです」と当時の光景を思い出しながらマスターは磨いていたグラスを置く。
「喧嘩?一体何で……」
「さぁ、私も何で大喧嘩なされたのかは定かですが……恐らく怪盗という常に危険と死が付きまとう仕事とアルセーヌ家の代々怪盗を引き継ぐのがお嫌になったのだと思います」
寂しそうに語るマスターだが、レオナは今亡き父の事を思い出す。
「『良いかいレオナ、もし君が将来どんな仕事をするとしても、よく考えてから選択するんだよ』」
それがレオナ父が彼女に口酸っぱく言っていた言葉だ。
四代目としての怪盗と生家を捨てて父は選んだ選択、レオナはマスターに言う。
「まだ、私がアルセーヌ・ルパンの子孫だっていきなり言われても実感もなければ私も引き継ごうとも思いません」
素直な気持ちをマスターに伝えるレオナ。
「でも、五年前の両親の事件の真実も知りたいんです。だから―――」
怪盗について、教えて下さい。
嘘偽りのない言葉でレオナはマスターに頼む。
マスターはそんなレオナを見て「やはり、レオナ様はアルセーヌ家のご家族ですね」と言いマスターはレオナに古びた鍵を手渡す。
「今から十年くらい前ですかね……一度だけ四代目様が奥様とご一緒に来られたのですよ。そして、ある物を仕舞われると私に伝言を託されました」
そしてマスターはレオナの顔を見て「『もし、君が何者かと戦う或いは真実を知りたいと願うならマスターから鍵を受け取りなさい』と……」といった。
「それがこの奇巌城にある金庫の鍵です。何処にあるのかは……レオナ様ご自身でお探し下さい」
悪戯っぽい笑みを見せて言うマスターに「それが私をパトロンと認めるための条件ね?」と確認を取る。
「えぇ、その通りです」
頷くマスター、レオナは店内を探す前に「一応聞いておきたいけど、この店内にあるのよね?」と尋ねる。
「えぇ、そうですが……?」
意図が見えないマスターに「お店の奥とか二階にあるとお店にも迷惑がかかるから」と答えたレオナ。
「(あぁ、やっぱり四代目……トネ様に似ていらっしゃる。)」
声には出さずに目を細めてレオナを見るマスター。
当のレオナは店内をジッと見回して気になったところをマスターに都度確認を取りながら観察する。
「(あれ?)」
壁に置かれている棚を触っていたレオナは棚の後ろから風があるのに気付いた。
「(もしかして……)」
となれば創作で出てくる動く棚型の扉が一番考えられる。
棚を左右に動かすが、びくともしないのを見て棚に収納されている本を引っ張ると一冊だけ動かない本があった。
試しに押してみればガタガタと音を鳴らして棚が動きその後ろに地下へと通じる階段が現れた。
「お見事です。いや、むしろ簡単でしたかね?」
レオナに拍手を送るマスターに「簡単と言えば簡単でしたが……」と歯切れの悪い言い方をする。
「怪盗としてはまだまだ未熟だなって思っちゃっただけです」
照れくさそうに話すレオナ。その姿にマスターは「いいえ、貴女様は初めてのことだから手間取っただけのこと。場数をこなせばいずれ三代目を超えられますよパトロン」と確かにレオナをパトロンと呼んだ。
マスターからパトロンと喚ばれたレオナは静かに「案内をお願いします」と頼む。
「では、お足元お気をつけ下さい」
片手にランタンを持ってレオナとマスターは階段を下る。その後をノワールは静かに追いかける。
怪盗アルセーヌ・ルパンに関する考察 榊原 秋人 @kojp24
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