第5話 動き出す運命

 レオナのアパートメント


 「ただいま……」

 どっと疲れた様子のレオナはリュックサックを床に置いて温室に置いているベッドまで向かうとそのままベッドに倒れる。

 シャワーを浴びなきゃと思いつつも身体は動こうとしない。

 枕から視線をズラして棚の上に置いてある家族写真を見る。

 笑顔で写っている幼き頃の自分自身と両親を見ていると今の自分自身に嫌気が差す。

 「(偽らないで生きていけるならどれだけいいのか……)」

 誰にも吐き出すことなく日々を過ごしている内にレオナ自身ですら本心がよく分からなくなっていた。

「(もしも、父さんと母さんが生きていたら私どうしていたんだろう・・・・・・)」

 そんなもしもを夢想しながらレオナの意識は段々と暗い世界に落ちていく。


 「パリンッ」

 唐突に聞こえた音で目を覚ましたレオナ。

 温室から見える空模様は星々の鋲が天を彩り、街々から街灯や窓から漏れ出る微かな光が見え始める。

 レオナは音の正体を確かめるためにベッドから出て音が聞こえた方へ行く。

 照明のスイッチを押そうとした瞬間口を片手で塞がれ壁に押し付けられたレオナ。

 突然のことで理解できていないレオナに反してレオナの口を塞いだ相手は「ははっ、君のこと探し回ったんだよ?」と告げる。

 何を言い出すんだと思っているレオナに対して続けて不審者は「はぁはぁ、初めて君と会うけど物凄く可憐だね」と言い空いている手でレオナの髪を触る。

 鼻息荒くする不審者の腕を両手でどかそうとするレオナだが、びくともしない。

「気持ち悪い」の一言に尽きる恐怖心に襲われる。

「怯えているんだね?でも大丈夫だよ・・・・・・、僕が君のことを可愛がってあげるから」

 狂喜的な笑みと貪欲な目でレオナを見る不審者。

必死に抵抗するレオナに「ふふっ、この僕から逃げられるとでも思ってるの?」と言いながら髪を触っていた手で今度はお腹をすぅ~と撫でる。

 「あぁ楽しみだなぁ~♪絶望に突き落とされた表情が見られるよぉ~」

 目の前の不審者がこの後何をしようとしているのか、想像してしまったレオナは足で不審者の股間を蹴る。

 「~~~~~~ッ!!!」

 痛みで悶絶する不審者から離れて玄関へと走り出すレオナ。

 だが、不審者は隠し持っていた銃でレオナに向けて発砲する。

 銃弾はレオナの頬をかすめ死の恐怖に襲われる。

 玄関とは真逆の屋上の方に出たレオナはやってしまったと悟る。

 「あぁ~あ、残念だったねぇ~?」

 後ろを振り返れば銃を片手に自分の勝ちを確信する不審者の姿があった。

 「どうする?君はそこから飛び降りるか僕のものになるか……二つに一つだよ~?」

 ニヤニヤと笑いながら問いかける不審者にレオナは「そんなこと、決まってるでしょ」と返す。

 「あんたみたいなクソのものになるくらいなら死んだ方がマシよっ!!」

 レオナの発言で不審者は銃口をレオナに向け「残念だよ」と先程のニヤニヤした表情を無にして言い引き金を引き絞る。

 ―――その瞬間、一匹の黒猫が『シャアアアアッ!』と威嚇しながら男の後頭部に飛び乗った。

 「な、何だよこいつっ!?」

 黒猫を振り落とそうと必死な不審者と不審者に攻撃する黒猫。

 チャンスだと思ったレオナは一気に不審者へと距離を縮めてタックルする。

 不審者を下敷きにして地面に倒れ込んだ衝撃で男が握っていた拳銃と黒猫は地面を転がる。

 「こんのクソガキがぁ!!!」

 本性を露わにした不審者がレオナの首を両手で絞める。

 息苦しくなりながらも抵抗するレオナだが、朦朧としてくる意識で左手に鉄の冷たい感触に気付く。

 「(これ……)」

 触れるには触れるが、もう少しで届きそうで届かない。

 「死ねぇぇぇぇぇ!!!」

 叫びながら手の力を強める不審者だが、レオナを殺すことに意識を向けていた。

 故に黒猫が銃を動かしレオナの左手に銃が握られた。

 『パシュンッ!』

 一発の音が、鳴った。


 パトランプが静かな住宅街を照らす。

 行き交う警官と布で担架を覆い隠し、自分が殺した不審者の遺体が救急車に運ばれる様子を他人ごとのように見ていた。

 「レオナ・ルブランだな?」

 声が聞こえた方を見れば不機嫌そうな表情をした老刑事がレオナに近づく。

 「そうですが……?」

 「今回あんたが殺した奴、顔見知りか?」

 いきなり質問を投げかける老刑事に「いえ、知りません……」と返した。

 「いや、あんたは知ってるはずだぞ」

 老刑事の発言に「知らないといったら知りません!」と声を大きくしてレオナは答える。内心失礼な相手だと思っている。

 「嘘を付くなぁ!」

 周りの人間が動きを一瞬止めてしまう程の声量で怒鳴る老刑事。

 その老刑事に「ここで何をしているのですかっ!」と別の若い刑事が老刑事に駆け寄る。

 「何だ、担当はお前なのか?」

 「貴方はもう一課の人間ではないはずです!それに貴方のその言動は彼女に失礼に値する行為です!」

 刑事の抗議に「お前は黙ってろ!」と老刑事は再び怒鳴る。

そして二人の言い争いの間に婦警がレオナにそっと近付き「こちらに」と伝えレオナと一緒に移動する。

 刑事が老刑事を足止め(?)している間に改めて婦警から軽い事情聴取が行われるのだった。

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