第4話 散々な一日
「皆も知っての通り『偉人の力』と呼ばれる祝福によって世間で貢献する人もいれば犯罪に悪用する者もいる」
また偉人の力に関する話が始まったとレオナは窓から見える景色を横目に小さくため息をする。
「有名所で言えば英国の『シャーロック・ホームズシリーズ』のホームズ氏とワトスン氏だろう。そして我が国ならば『聖処女ジャンヌ・ダルク』と『ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト』だな」
うんうんと頷く教授は「後、レオナさんもあのアルセーヌ・ルパンシリーズの作者であるル・ブラン氏の子孫でもあるんだよ」と口を酸っぱく内密にと伝えていた事を引き出してきた教授をレオナは眼光鋭くして睨んだ。
その鋭い視線に気づいた教授はビクッと肩を震わせて「と、というのは冗談だよ。皆もレオナさんにそういった冗談を言うのは辞めておくように」と冷や汗を流しながら言った。
あぁこれでまた後で面倒な連中に絡まれると考えると憂鬱な気分になる。
そしてチャイムが鳴ると「で、では本日の授業はこれまで」とレオナに言われる前にそそくさと教室から出ていく教授。
内心舌打ちするレオナも足早に教室から出る。
行き先は大学構内にある図書館だ。
普段から利用する人の数も少ない場所でレオナは本棚から数冊の本を手に取り机の上に置く。
背表紙には『怪盗アルセーヌ・ルパンシリーズ』と記されている。
「(何で怪盗であるアルセーヌ・ルパンの本を執筆したんだろう……)」
自分の先祖であるモーリス・ルブランに対して答えのない質問を心の内でするレオナ。
「おや、君にしては珍しいものを読んでいるね?」
頭上からの声に顔を上げて見て「こんな所にいるなんて珍しいですね、教授」とレオナは小さい声で相手に返した。
「ははっ、たしかに普段から研究に没頭している僕が図書館にいるのはレオナから見れば珍しいね」
教授と呼ばれた男性は「隣、座るよ」とレオナに言ってから座る。
「それで、君がまたこの場所に来たのは大方ディミー教授がまた君の話題を講義中に出したからだろう?」
教授の指摘でレオナは「私のことに関しては何でも分かるんですね?」と茶化した素振りで返す。
「そりゃあレオナは僕の姪っ子で、姉さんの忘れ形見だからね」
そう、この二人の関係は姪っ子と叔父の関係でそれを知っている人はあまりいない。
「あまり気にする必要はないよレオナ。それと以前話した件だけど……」
「その話は、もう少し後でも大丈夫?」
レオナの様子で察した教授は「構わないよ。でも、遅くとも五月の上旬までには返事を聞きたいかな?」と言った。
「それじゃ、僕はこれで失礼するね。気をつけて帰るように」
教授はレオナにそう言い残して席から離れた。
残されたレオナは静かに深呼吸した後本を元の場所に戻すべく席から立ち上がった。
「えぇ!あのドミニクにそんな事言ったの!?」
驚愕した様子でレオナに言ったレイミに「そんなに驚く事?」と呆れた様子で返す。
大学の食堂で会話する二人、周りはガヤガヤと騒がしい様子を気にする素振りもなく食事をする。
「今人気の彼に対してそんな事言えるのレオナくらいだよ……」
「言っとくけど、私あの手のタイプは大っ嫌いよ」
「うわぁ出たレオナの男嫌い、何でレオナってあぁいう頼れるタイプの男が嫌いなのかなぁ~」
レイミの言葉に「前にも言ったと思うけど」とレオナが言いかけた所で「あぁはいはい分かってますよ。もう日本でいう耳にタコが出来るほど聞かされているから言わなくても分かってる」と返した。
レオナはレイミにそれ以上は言わずにサンドウィッチを口に運ぶ。
そして食べ終わり「それじゃ、私もうコマないから帰るね」とレイミに言い立ち上がろうとしたレオナだったが、不意に頭上から水が滴り落ちる。
食堂は水を打った静けさが訪れレイミは驚きのあまり言葉を失う。
レオナは静かに立ち上がる水をかけた相手を見る。
ドレイクの取り巻き達で大方朝の一件でこんなアホな行動を起こしたのだろうとレオナは一人で考える。
「あんたなんかいらないよ」
その言葉を聞いてレオナは相手にするだけ時間の無駄と判断して濡れたままお盆を手に持って返却口へと歩く。
「ちょ、ちょっと何か言いなさいよっ!」
声すら無視してレオナは食堂から出た。
濡れたままの状態で駐輪場に停めているスクーターまで途中から走って肩で呼吸するレオナ。
異常な疲れを感じている状態で誰とも会いたくないと思っていたが、間が悪いことにドミニクが「お~い、レオナさん~」と手を振りながら駆け寄ってきた。
「―――何か用?」
不機嫌な声と表情でドミニクに尋ねるレオナ。
そのドミニクは濡れているレオナを見て「て、レオナさんどうして濡れているの!?」と驚いた様子で言ってくる。
しかし今相手にしたくないと思っているレオナは「貴方に関係ないでしょ?さっさとそこどいてくれる?」と睨みつけながら言う。
レオナの虫の居所が悪いと判断したドミニクは「すまない」と謝罪しつつ横にズレる。
そしてレオナはそのままスクーターに跨りエンジンを起動させてその場から離れた。
走り去ったレオナの後ろ姿をジッと見ていた。
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