第11話
扉の隙間からスルスルと這い上がるように部屋の中に侵入し、蠢く闇は蠟燭の灯りに照らされながら人型へと姿を変えた。
「遅かったな」
「遅くなり申し訳ございません、追手がしつこく苦戦しておりました」
「珍しいじゃないか、お前にしては」
「フェルズには動ける奴が何人かいます、一人一人機転も利くし、上からの命令がなくとも統率が取れていました」
「…ならばそれを超えればいい話だ。明日から下々の鍛錬を今まで以上に増やせ」
「まさか、人間どもと戦争をなさるおつもりですか?」
わざとらしく息を吐き出し、黒く長い爪で机をひっかくと、問いかけた目の前の男はびっくと肩を揺らした。
「戦争? そんなもの我には興味はない、興味があるのはウェルヴァイン王国とその隣国のフェルズ帝国。聞く話によるとこの二つの国は婚儀を交わしたそうじゃないか。お前も、あの馬車に奇襲をかけ、様子を見させただろう? まったく、何のために偵察に行かせたと思っている、この愚図が」
「頭が回りませんで、申し訳ございません」
「まあいい、お前が使い物にならなくなったらいくらでも代わりはいる。それに、下級魔族に何を言ったって覚えないだろうからな。
ファウス、来い」
重々しい扉がいとも簡単に開き、黒い風が巻き起こった。黒い風と共に現れたのは全身黒色の初老の男だった。髪の毛だけが白く、かえってそれが印象的であった。
「お呼びですかな、魔王様」
「あぁ。これから面白いことが起きそうだと思ってお前を呼んだのだ」
「ほう…また退屈しのぎを見つけたのですかな?」
「話が早くて助かる」
「ほっほっほ」
「ウェルヴァイン王国の王女とフェルズ帝国の王太子が婚儀をあげたそうだ」
「えぇ、それはこの私めも存じておりますぞ。して、どうなさるので?」
かしずいたまま、老人は王に問うた。
「人間どもと遊ぶのは何十年ぶりだからな、どうしようか我も悩んでおるのだ。楽しみで心躍る」
「それは何よりでございます。しかし、我らにとって人の時間は一瞬でありますから、慎重にいきませんとお遊びは長く続きませんぞ」
「そうだな。何かこちらから仕掛けるとなると、下級魔族、上級魔族の鍛錬の強化が終わってからでも遅くはあるまい。
フェルズ帝国は太古から動物使いの国と呼ばれてきただけあって、動ける人間がいるらしい。それに対応できるように、我の戦士たちも鍛えておかねばなるまいと思ってな。その指揮をお前に任そうと思うが、できるか?ファウス」
「初老の年に入りましたが、まだまだ現役ですぞ。魔王様が望まれるのでしたら、私めをお使い下さいまし」
「頼もしい返事嬉しく思うぞファウス。そこにいる下級魔族も連れて行き、こき使ってくれて構わん。お前、名は何と言った?」
「ラグダリと申します」
「ラグダリの指導も頼むぞ、ファウス」
「かしこまりました」
ラグダリの首根っこを掴み、目にも見えぬ速さでその場を後にしたファウスであった。
王女オフィーリア 美乃 @raiseohimesama_
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