第9話 カオスなダンジョン旅行と新たな遭遇

一方我らの主人公、ユリはと言うと。

“だああああああ!”

山々へこだまする叫び声を上げ、大変だと叫ぶ私。

“ヌアア!オイ!何だ!朝っぱらから、石で足でも打ったのか?”

眠たそうに起き上がって来たナラクを見て空を見上げる私。

…彼には見えないのか、そう、見えないんだな私の背後に有るこの大きな!大きな!穴を!!…

心の中で何て鈍感なんだ彼はと感じつつも、指で例の事故現場を指差す。

“フハハハハ!何だ!まだ練習しとったのか!”

やっとのこさで状況を理解したナラクはその大きな手で私の背中をポンポンと叩いた。

“上出来じゃないのか、初めてにしては!”

“もっと早く気付ければ…”

“ン?”

“もっと早く気付ければ私きっと魚捕まえるの上手くなったのに!!”

“…なんだそれ。”

事実そうだ。私はこの技を魚取りに使おうと考えていたのである。

“そなたは果たして本当に自の使命を分かっておるのかね??”

“うん!分ってる!まおー倒す事でしょ!”

いかにも当たり前のような風に言う私を見て理解不能になるナラク。

“じゃあ何でわざわざ魚採りの為にこの技を使うんだい???”

“これで魔王倒せるのなら聖騎士なんかいらないよ、勇者もいらないよ?”

誰だって知っとるわいとナラクを天然な目で見る私にナラクは暫く私を睨む。

“ムムムウ…”

“わあかったから…わかったよ、もっと技を磨けって事でしょもう!”

“まあ、ちょっと待て。修行場所は…あっちだ!!”

隙を見ては逃げようとする私を見て阻止するナラク。

“んん?”

アレ?私ってそんなに感情表に出る人間だったっけと心で思いつつ再び天然な目で彼を見つめる。

“ハア、このような状況で褒めるのは悪い事だが。そなたは魔力の扱い方の飲みが速い!だったら、もっと沢山の自主的なアレンジが出来るはずなのに。”

“デ?”

“デじゃねーよ!何で石投げしかしてないのかって聞いとるんだい!此処の川いつか禿げるぞ!”

“だって石投げ楽しい…イヤ、楽しくございません!全然!しっかりします!けどやっぱ修行は嫌!!Bye!!”

流石に馬鹿にし過ぎたと焦って全力疾走する私、理由はともかく何か楽しい。

“逃げるな!オイ!っていつの間にこんなに速…ッテ!マテーイ!!”

“バ~イバ~イ!”

木々の間を高速で駆け抜け、地面とは又違う感覚を味わう私。周囲の景色が速い、そして障害物を超えて疾走する感じは修業とは違いスリルがあって楽しい。

“ヒュンヒュン!!”

巨大な木の株が飛んできた、絶対ド怒りのナラクの仕業だ。

“オットー!アブナイわね!これでも食らいなさい!ヒャッホーイ!”

少々冷や汗かいた。

ただし、私に当てるのは遅すぎる。空中で木の先を蹴りそのまま大ジャンプ。

“フン、面白い!果して吾主は一体私の知らない間でどれ程成長したのかこの暗黒電竜(ネザーサンドラ)がしばし見届けてやろう!”

ナラクは驚いた。手を抜いているとはいえ、まさかあの状況で避けられるとは驚きを隠せない。けど本心はと言うと、正直悔しいより、意外な喜びだった。

“ウワア!空中ってイイィ!!”

地震の揺れによる失重感と無数の枝木が周囲を取り囲む中私は再び疾走し始めた。何故だろう、きっと疲れるはずなのに体から溢れるのはもっともっと速く、もっともっと激しく走りたいという気分だ。

“オイ!バカ!この先は崖だぞ!遊ぶのにも程々にしろ!”

ナラクからの呼び声が聞こえた。けど、私は止まろうとはしなかった。

“チャレンジっていう物はこうでなくちゃイケないわよ!!”

飛んだ。私は飛んだ。そして真っ暗な谷間の間に吸い込まれて行った。

“ビュウウウウウウウウウ!!!”

まるで地獄から吹き上がって来たような黒い疾風を感じアドレナリンが肩を走る。

“ユリ!!大丈夫か!”

私の後を追うようにナラクの姿が現れた。

“あらナラク様は結構ご速いのですね。まあ、見てなって!”

私は迫りくる岩々を避け、更に下へ下へ進んで行った。

“ギャアギャア!”

“ン?何か居たような?”

降りる時私は何か生物を見たような気がした。

“…オイ。いつかは連れていこうと思っていたんだが、まさか自分から飛び降りて来るとは驚きを通り越して困るぜこりゃ。”

ナラクがやれやれとも言わんばかりの表情をしている。

“ン?何の話?景色見だったら毎日してるでしょ?”

“だあほ、どっから景色見に連想するんだよ。…此処は並の崖じゃない。実は魔物が一番多いとも言われるダンジョンだ。”

“ダンジョン?何だそれ?”

“魔人が創り出した遺跡の事だ、前話した魔王勢力の分布図を覚えてないのかよ。”

彼はそう言い私を心配そうに見た。彼の眼から緊張が見える。

“魔族なのそれ?じゃあ何であなたが緊張するの?家に帰って来たようなもんでしょ?”

“ああ!違う!…そもそも。以前にそなたと話したことがあると思うが、魔王は私の属する魔族とは対勢力である。そして魔人は奴の手先だ。感情など無い、有るのは魔王から命された殺戮のみだ。いくらわんぱくでも奴らの前じゃ死人も同然だろうに…ああ面倒。”

彼はそう言い眼を細める。

“へえ、どうりでなんか変な感じがするんだ。フフッ!面白そうね!”

“能天気か!”

降りながら私は感じている、何かに見られていると。

推測ではあるが、この黒い気配も魔人が放つ力の為である。

この距離で感じるんだ。

恐らく決して楽じゃない戦いが待っているのだろう。

“けどなんかこわあ。魔王の命令以外何もしないっていう事はまるで。うーん、まるで戦争の為に造られた兵器じゃん!”

“フハハハハハ!兵器だけじゃ楽なんだが。…奴らの多くは知性が有る。どうせ近くに私を倒せそうなやつらも居ないだろう…ってまあこれから気を付けるんだな。”

冗談を言えるなら平気だろうと彼はそう言うと私の影に姿を眩ませた。

影。それは人と使い魔を繋げる一番効率の良い場所。勿論日差しが強すぎれば面倒だと言う劣勢は有るが、基本こういう洞窟や隠蔽した所で大きな使い魔を携帯するにはこの技が一番である。

“…まあ、あんたが魔人と言うしね。大体想像はつくよ。”

私は傍に有った洞窟へ着陸した。正直結構降りた。けど一向に底の姿が見えない。ただし解る、これ以上下は危険だと。

“…やっべ、これからどう上がるんやら。”

暗闇の空の上の髪の毛程の隙間を見上げ顔を顰める私。一体どれ程落ちたんだろうか。三千?四千?

“…ユリ、おい、何ボケてんだユリ。…”

影の中だろうが何処に居ようがナラクの心の声はいつも私に聞こえる。

“…聞こえてますよちゃんと。って誰がぼけてるのよ!まだ若いのよ私!…”

“…フン、ならいい。よく聞け。私は今からそなたに自の任務を与える、任務は簡単、此処からダンジョン内を上がるのである。まあ、飢え死にしたいのなら別だが。”

“ハア、任務っていうより自ら飛び込んだっていうのが正しいかもね。”

“そなたが今いる場所は最下層付近とは程遠いが恐らく下層付近だ。此処のダンジョンは並のダンジョンより明らかに深い。このようなダンジョンは底へ近付ければ近付く程魔物のレベルが高い仕組みになっている。フッ何せレベル分けは魔物の間では統率の順序に任命されているからな…訓練、此処でも同じだと思え。魔物は可愛げ等無いからそなたにとったら魚より殺すのは簡単だろう。”

“けど…”

ナラクの声を聴けばそう出来そうで出来ない。

何故彼は自分が魔物で有る事を忘れるのか。けど、確かに彼の言う通りなのかもしれない。私は、少々自分に甘え過ぎていた。

“…そなたは私の主、主である限り私よりも強くならねばならん。此処から出る、そなたが人で有る限り魔物から見れば餌、餌である限り殺されても仕方ない存在になる。だが、私は主が死ぬのはごめんだ。ただそれだけの理由だ。…”

“ナラク…”

心配してるのか。まったくいつまで人に励まされているんだと拳を握りしめる私。そう、自分は彼と契約を交わした人。もう少し自覚を持っているべきで有った。

“…そなたの心得は感じられた。良い事である。だが、私は勿論それでは満足はしない。一番強い奴をフルボッコに倒せ。良いか、フルだ!フル。そうすればザコ共に邪魔されなくなる。…”

“…うんうん、斬首計画だね。了解!けどフルボッコって……”

ナラクの語彙力に私は一瞬脳内がポツマークになったが任務自体に異議はない。ダンジョン攻略、いくら実力あれどボスを倒せない限り脱出は不可能であろう。

“…コホン!吾師匠の名残だ、気にしないでくれ。…”

“…師匠か、きっと素敵な方でしょうね。…”

“…アン?馬鹿にしてるのか?…”

“…いや、これホント。…”

“…オウ。…”

こんなにも色々知っているナラクを育てた人だ、凄い。けど何故だろう、彼の感情から複雑な気分が感じられた。

“よし!じゃあいっちょやりますか!”

気にしても仕方のない事、今私に必要なのは鍛錬。

殺すのは怖い、けど鍛錬だったらナラクの言う通り、行ける気がする。

“…そう言えば魔物って食えるのかしら?…”

“…うん。美味い!…”

“ハア?!あんたも魔物でしょ!”

思わず声が出た。サイコパスな冗談なのに。

“…魔族が同種を食うのは当たり前だ。それは、そなた等人間が動物や家畜を食うのと同然。あえて言うのなら、共に哺乳類でも肉食動物は草食動物或いは同じ肉食動物を狩るのと同じ事さ。…”

“…そういう、事なのね。じゃ、食料不足になったら魔物で補いましょ!…”

“…別に構わないが。…”

“…へえ、本当に平気なんだ。…”

人間は同じ種族を専門に食べたりはしない。勿論、極少数民族が人間を食べる事は否定できないが。ナラクの言うように同じ人をまるで家畜のように扱い食うのはあまりにも非人道過ぎて考えにくい。けど、恐らく魔族の中でこのような非人道的な生活が当たり前になっているのであろう。

“…全ての魔族に感情が有る訳では無い。私はただの例外だ。魔王もそうだ、知性が有るからこそこのような順序を創り出した。今はそれだけ理解すれば十分だ。…”

“…うん。わかったわ。あなたは例えどんな姿でも私の使い魔よ。悪でも、善でも使い魔で有る以上私は全て認めてあげるから。…”

“……”

急に反省口調で話して来たナラクについつい優しくしてしまう私。

今更何か文句を言うような私ではない。世界は残酷だ、ナラクだけじゃない。私はこれからも理解出来ない物事を理解せざるを得ないだろう。理解したからこそ結果が変わる、私はそう信じている。

“ガサゴソ!”

“ン⁉”

急に頭上から物音がした。

“グエエエエエ!!!”

巨大な蜥蜴の形をしたムカデだ。真っ赤な大口に真っ黒な胴体。胴体からは真っ赤なまるで八虫類と虫を合体させたような無数の足からは緑色の毒液が垂れて地面を真っ黒に焦がしていた。

“ズドン!!”

奴は、地面を粉砕して突っ込んできた。図体の割には恐ろしいスピードと反射速度だ。

“危な!此奴…まるで音しなかったわね。”

毒はともかく、もしあの黒光りする口器に触れれば例え私でさえも危険な猛毒が有るその腕も、赤く光る爪からは絶対に触ってはいけない危険な信号を発していた。

“ヒュンヒュン!!”

真っ赤な棒が私を目指して突いてきた。腕だ、まるで生物じゃない長さとスピードを放つ腕はそのまま私を通り越して天井へくっついた。一瞬死の気配が見えたようであった。

“ズガガガガガ!!”

まるでブルトーザのような音を立てて地響きと共に天井は崩壊した。

“ウソン!?”

それには流石に私もびっくりした。あの一撃で天井さえも届く、しかも崩落させる程の力が有ったのかと思うと冷汗が出てくる。

“勝ったと思った!?負けるのはあなたよ!”

私は屈さない、例え奴が自分よりどれ程強いとも大きかろうが恐ろしいだろうが関係はない。だって、私にはナラクと言うコイツの何十倍も大切な仲間が居るから。

“反撃!”

空中でいる私の視野は良好、直ちに反撃をした。赤い網のような腕をすり抜け、私の右手には青く燃える石が出た。

“必殺!石投げ!”

視界は計算済みだ。私の眼の中にはまるで生まれつきの命に対する鋭い勘が有る。そして熟練されたドラゴンでさえも顔負けの一撃が今青い光と共に的(まと)を射貫く。

“グエエエエエ!!!”

一発命中。我ながらに自分を褒めたい気分だ。石は複雑な曲線を描いて奴の頭から尻尾の先まで貫いた。

“べちゃ!!”

“ううっ…”

粘りの有る体液と共に二枚に降ろされた体はうねりながら倒れていった。うごめきながら死んでゆく謎の生命体に少々嗚咽感を感じる、真っ二つに壊されたのに気味が悪い。

“体に付かないの便利ね。服白色だし。”

初めて魔物を倒した。しかもナラクのアシスト無しで。

手が震えている、けど心の中の自分に対する自信と士気が又一段と上がった。

“…レベル35か。ザコだな。…”

“何よ、嫉妬?!”

ナラクの不愛想にはうんざり、せっかく倒した敵なのにザコだなとは何だい。

“…たかが小虫に何を嫉妬するんやら。さっさと戦利品を集めて頭(かしら)を探せ。低レベルの血はもっと沢山のザコを呼ぶぞ…”

“…へえい。…”

彼の眼では此奴は恐らくハエも同然だろう、けど私にとったら良い戦利品だ。

“うんうん。良い鎌と毒ね。鎌を作るのは初めてだけど私のファーストスキルの応用で何とか出来るわ!”

アレンジスキルが降りた。精錬、クリエイティブアシストに応用するスキルでは有るが、もともとこの体に有る潔癖のスキルと応用すれば様々な事に使える非常に便利なスキルである。それにさっきの戦いで学んだ。私には武器が必要だと。いくら此処辺りには石が有るとは言え、もし全て吹き飛ばされれば素手で戦う事になる。毒耐性が付かない限りそれだけは避けなくては駄目だ。

“ファーストスキルを応用せよ!精錬!!”

精錬の意思が出た瞬間、目の前に毒の入ったガラス瓶と美しい鎌が出た。鎌の持ち手は真っ赤な伸縮性自在の名の知れない金属、刃は更に鋭くなってムカデの紋章がびっしり憑いている。恐らくこの謎の生物が持つ固有スキルが込められているだろう。そして何より、光ってる。

“…面白い。演唱無しで魔道具を生成するとはなかなかやるな。…”

ナラクの驚いた声が脳内に響く。彼が驚く事なんかそうそうないのに。

“…演唱?魔法の唱えみたいな感じ?…”

“…うむ。通常の魔法は全て演唱魔法だ。お前のは自己アレンジ風っぽいがな。いつか演唱魔法も教えるつもりだがなかなか良い勘をそなたは持っている、良い事だ。…”

“演唱魔法ね。どんなものなのかしら?”

興味有る。演唱魔法にも自分のアレンジスキルにも。

正直アレンジスキルは元々あるファーストスキルより弱い物が多い。私のファーストスキル潔癖はあらゆる汚れを破壊或いは無効する力で防御並びに攻撃にも応用できる強大なスキルだが、アレンジスキルは正直尖り過ぎてたり欠陥が多いスキルが多い。例えば先程の精錬のスキルは自分が仕留めた獲物並びに材料が無ければ発動不可能で材料の有無で出来る物が限られている。無から生成できるファーストスキルと比べると劣勢だ。

“まだまだ行くわよ!ヨシ!…このダンジョンを制覇するぞお!”

“…マテ、あんたが行くのは上だ。…”

“ふああい。”

咄嗟に下へ探索しようとする私を引っ張り戻すナラクであった。恐らく未だ私の実力は認められていないんだろう。

“ヨシ!先ずさっきの頭を探すぞ!それじゃ走るか!”洞窟の中での疾走は楽しい、何せ疾走しながら獲物を狩れるのが楽しい。

いつもは獲物が無くて困っていたが今じゃ沢山居すぎて困るくらいだ。

“アハハ、私は戦闘を楽しんでいる!”

ズシャ!ドシャ!

又何匹化の魔物を倒した。

私はてっきり自分が無双していると感じたが、すぐにそんなに甘い物ではないと痛感する事になる。

“グエエエエエ!!ギャアギャア!”

地響き。そして大気を揺るがす狂気。生臭い暖かい風と共に周囲に光る爛々の甲殻達。

“な、何?どうして急にこんなにも…”

一匹、二匹…そして百匹と。気が付けば、あちらこちらで変な魔物の声が聞こえる。てっきり倒せば減ると感じたが、その量は減るどころかますます増えるだけだ。

“ちょっとまずいわね。こんなに人気じゃ恥ずかしいよ。”

“…虫の王、キングを倒さない限りそなたに勝ち目は無い。...”

ナラクの言う勝ち目がない事を否定したい。けど事実は甘くなかった。

正直今でも、猛攻が続いている。これは私にとったら相手に出来るかどうかにまで魔物の量が上って来たという事でもある。しかし冷静に戦闘をすれば、まだ安全ではある。何せ鎌のリーチラインが長いから十分な戦闘領域を確保できるからだ。

だがしかし、このか細い鎌を見てると何故か折れそうで怖いのは何故か。考えてる内に、不安がどんどんと増して余裕が出られなくなってきた。

“クッ...ハアハア...”

いつか笑みは消え、恐怖と焦りの感情に私は浸ってしまった。

折れたら恐らく又次の作戦に出なければならない。それは面倒だ。それでいつもいつも、振らねばならない。一振りする度に重くなり一振りする度に恐怖が増す。

“頭って何処なのよまったく!皆同じ顔だし分かる訳ないでしょ!”

ムカデとトカゲの顔が沢山、沢山出てきた。いずれも真っ黒な血と銀色の牙を持ってて。その量、例え見ただけで吐き気と恐怖を与える。

“フン、未熟だな。戦闘が足りん。”

ブオン!!

“キャッ!”

羽ばたき。たったそれだけなのに周囲には何処からともなく暴風雨が起こり羽の衝動は凄まじい竜巻となって私の周囲の魔物を消し去った。

“私の動きをよく見るんだな。”

安全になった私の事はそっちのけに彼は宙へ舞った。

“グオオオォォォ-ン!!”

キーン!

キーンと言う耳鳴りと共に凄い威圧が彼の体から放たれた。そして風の中、私は見えた。真っ先にこの威圧に反応した個体がいたのを。

それはよく見なければ分からないまるで三つの蜥蜴とムカデがかぶさったような顔を持つ巨大すぎる主だ。ナラクが出てきた瞬間真っ先に警戒のポーズを取ったのは奴だ。恐らく自分に脅威する者を一番に察知したんだろう。

“もう分かったようだな。ならばヤレ。”

“ハイ!”

場所、大きさ、並びに姿を捕らえた。ならば自分が突破する他道は無い。

“アアアアアアァ!!”

危険を感じた群れの主はまるで鳥獣のような叫びを上げた、それと同時に周囲からの圧力が一気に増した。

“無駄よ!!!”

シュッ!!

私は空宙に飛んだ。そして回転と同時に手の鎌を思いっきり奴に投げた。

鎌は速い。私の投げた如何なる石よりも凄かった。

例え一振りが弱くても、全ての全てを一撃に入れればその威力は常識を覆す。

ブオン!!

青い煙幕と共に巨大なムカデの形をした覇気が一瞬で虫の群れを貫いた。

“ドガーン!!”

対岸の壁に巨大な穴が開いた、そして煙幕の消散と共に穴の中心、鎌で固定されたヌシの姿が見えた。

“終わり。こう見てみると、心が痛むわね。”

“オオオ…”

苦しそうに体をくねらせ、ちぎれた胴体を呼び戻そうとするヌシの姿を見て私は悲しかった。何故魔王はこんなにも無残な事をするのか。戦いはいつも負けと勝ちが有る、負ければ全てを失い勝てば守れる。理屈は分かってる、けどこうも命を踏みにじり悪意を向けるなんて許される訳がない。

“悪いわね。すぐに楽になるから。”

私は頭に近付いた。そしてその恐怖にもがく姿を目に焼き付けた。

“…油断するな。奴はいつ反撃してもおかしくない。…”

ナラクの警告が聞こえる。けど、私は自分の道を通す。

“分ってる、わかってるわよ、それくらい…”

驚くヌシの姿を見て微笑む私。涙は有るべきなのか、けど泣かない。私はゆっくりと手を伸ばした。

“ガブ!!”

“ユリ!”

噛みつかれた私を見て大いに焦るナラク、だが私の肯定の眼線を感じ背を向けた。

“ありがとう。戦ってくれて。来世幸せなちょうちょになりなさい。そして世界を旅して新しい人生を送るのです。”

私はあの硬い甲羅の上に手を置いた。

“ファーストスキル応用。浄化。”

“……”

静かに散ってしまった。最後の瞳から何故か安らぎが見えた。あんなに痛いのにあんなに苦しんでたのにまるで嘘のような安らぎ。もし、命が死で繋がるのなら。もし、来世が有るのなら、きっとあの瞳のように安らかな命になるだろう。

“ギャギャ…”

サアアアアア…

謎の撤退音と共に魔が引いて行く。

さっきの騒ぎで恐らく此処辺り上下十層の生物が動いた。中層の熊蛇に下層のスコーピオンシャーク、周りの死体から推測が可能である。

“ナラク。はっきり言って...私って残忍でしょ。”

辺り一面に散らばる死体を見つめて何故か少し恐怖を感じる。

きっとこれからも何度も見る光景だろう。さもなけば、こうなるのは私だと。

“そうだな。魔族では普通だが、人としてなら行動は残忍と言える。けどそなたには魔族にない善の心が有る。その心を忘れずにこれからも戦えば良い。”

“知らないわよ…そんなの。”

善の心。正直私はあまりわからない。一体これから何が最善で何が悪なのか。

続きは

第10話

カオスなダンジョン旅行と遭遇pg2

まで。

~世界がもし全てが生死によって繋がるとしたら~

9話最後までお読み頂き誠に有難うございました。


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>作者からの一言。

長い間小説を更新せず申し訳ございません!

これからも頑張って書きます!物語がどうなるか書く自分でも楽しみでーす^-^

ちなみに新作も書いています、ハムスターと小人になった主人公が出てくるのでそういう系好きな方は是非見てみてはどうでしょう?(別に勧誘とかじゃないですからね!)頑張るぞー!

ちなみにこの間中国語のピンインを友から学んでいました。いずれ中国語の本を書いても面白いかなと思うのですがどうでしょうか?

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世界がもし全てが生死によって繋がるとしたら カイ サン @0418

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