いつもの風景 初演奏まであと少し


「ご注文通りの曲調だよ。」


魁璃がドヤ顔で言う。

いつも魁璃は私の要望で曲を書いているから私に自慢げに語る。


「今回は前回のからのストーリーも意識してみたんだ。ほら、最近人気の白虹さんってわかる? あんな感じでさー。エモい感じっていうの? 結構難しいんだけど頑張った! っていうかジャズっぽい感じっていう要望もうバンドの域越えてない? って思うんだけどそのへんどうなの? まぁとにかく今日は白虹さんを目指して頑張って拙作持ってきた感じなんだ!」


書かれた曲は大抵いいものだから聞いていて飽きないのだけれど、ほかのメンバーはそうでもないみたいで早くしろと野次を飛ばす。

これは結構恒例行事で高校時代から幾度となく繰り返してきたものだ。


「楽譜ちょうだい」


琴が無愛想に言ったのを皮切りにみんなが魁璃の手から楽譜を奪い取る。

私は苦笑いを浮かべながらも楽譜を取る。

奪い取るといわれそうなことはしていないつもりだ。


「みんな酷くない?俺の努力の結晶をなんて扱いするんだ!」


「別に努力してないだろ」


「琴〜。流石にそれはさ、、、。わかってても言わないでよ」


「事実は言った方がいい」


「後生だから!ね!」


焦った魁璃の声がだんだん大きくなる。

琴はどんどん冷静になっていく。

周りの目は楽譜へと移っていく、、、。


不思議な空間だなぁ、、、。


「まぁ、ね。とりあえず1回弾いてみない?」


詩織の一言でみんなが配置に着く。

詩織の言葉は不思議な力を持っている気がする。

だからみんな聞いてしまうのかもしれない。

美命に至っては私か詩織の話しか聞かない。


「いきなりいける?」


私がウズウズしながら声をかけると、


「ウチはいけるよ‼」


と美命が早く叩きたいとでも訴えかけるように真っ先に言った。


「僕も多分いける」


と晴がいつもの調子で静かに微笑を浮かべながら言う。「ベースを構えるといきなり格好いい。」

と、midnight blueの、数少ないファンには言われている。


「私はなんとなくなら」


と琴が楽譜を必死で目で追いつつ、ギターにおいた指を動かしながら言った。


「私は無理」


と詩織は申し訳なさそうに正直に言った。


「俺は見てるからがんばれー」


笑いが混じったような声で魁璃が言う。

目の前の椅子に一人で足を組んで腰かけて、気取ったように頬杖をついているのが似合っていて妙に憎らしい。

まぁ私はそんな風にプレッシャーをかけられても歌えはするから平気なんだけれどね。


「それじゃいくよっ! 1.2.3!」



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