第3話 心の中で

「夏希ちゃんはさー、部活とか入るのー?」


「んーーー、今のところはまだ決まってないかなー」


なんか翔太と夏希さんが親しげだ。まぁいいけど。


「あ、そうだ、今度の土曜日映画でも見に行かね?」

俺が言うと、


「いいねぇ!!」


翔太が良い反応する。

しかし、夏希さんは微妙な顔をしている。

「あれ、映画そんな好きじゃかった?」


「___ん? あ!そんなことないよ!」


「大丈夫?少し間があったけど」


「ごめん少しぼけっとしちゃってた!」

笑顔でごまかしているが、少し気になった。


予定を決めた俺たちはその日を後にした。



土曜日


「ごめーん少し遅れちゃったー!」

どえらい美女がこっちへ走ってくる。それだけで俺は幸せだ。


「あれ、翔太君は?」


「なんか支度してたら遅くなるんだって」

そのまま一日支度しててくれ。


「すまんすまん遅れちった!」

だいぶ気合の入った男が来た。


俺たちは映画を見にショッピングモールへ向かった。

今日見る映画は『N氏と海賊ゴリラ』の純愛ラブストーリーだ。名前からしてとても興味深いものを感じさせる。

俺は基本的に映画に飲み物を持っていって全く飲まないタイプだ。ちなみに陰キャのくせして一人で映画には一度も行ったことがない。そして映画が始まる前の少し緊張感のある空気が俺は好きだ。


俺たちはK-10,11,12番の席に夏希さんを挟んで座った。


夏希が少し寒そうに腕をさすっている。いぶきは今日着てきたジャケットを貸してあげた。


「あ、ありがとう。伊吹くんって優しいよね。」

迷惑にならないよう耳元で少し照れながら言う夏希さんに思わず発狂した。__心の中で。


翔太はそれを横目で見ていた。


映画を観終えた俺たちは帰り道の公園で、自動販売機で買ったカルポスを飲みながら話をしていた。


「いやー無理矢理誘っちゃってごめんね夏希さん」

翔太に遅れをとった俺は巻き返す。


「ううん全然大丈夫だよ!今日一日とっても楽しかったもん!またみんなと遊びたいな!」

相変わらず可愛く笑う夏希につい見とれる俺。


映画の話を振り返り、気づいたらもう日が沈み始めていた。

そろそろ帰ろうかと話を切り出そうとしたとき、夏希の様子が変だ。頭を抱えて辛そうにしている。


「どうしたの?!夏希さん体調悪い?」

あわてて声をかけるが、頭を抱えたまま何も喋らない。


「大丈夫か夏希ちゃん?歩ける?」

うなずく夏希さん、どうやら歩くことはできそうだ。


心配な俺と翔太は、急いで家に連れて帰ることにした。


夏希宅


家のチャイムを鳴らした。


なぜか、夏希さんは塀の裏に隠れている。翔太は夏希さんに付き添っている。

すると中からお父さんと思われる人が出てきた。


「どちらさまでしょうか?」

威厳のありそうな人だが、言葉遣いは優しい。


「あの、夏希さんのクラスメートの者なのですが、今日一緒に遊びに行かせていただいた伊吹と言います。」

できる限りの丁寧な言葉づかいで言った。


「あぁ、向かい合わせの家の、君が伊吹君か、よろしくね」

すると夏希さんのお父さんは首をかしげ、続けてこう言った。


「でも変だな、夏希は今日祖母の家に行ってくると言っていたのだが…」

夏希のお父さんは、塀の後ろに隠れている誰かに気づいた。


「連れがいるのかい?」


「あ、そうです。というか、夏希さんと僕の友達の妻夫木です。」

すると夏希のお父さんは、少し怖い顔をして早歩きで夏希の元へ向かった。


「夏希!何してるんだ!今日はおばあちゃんのとこへ行ってたんじゃなかったのか!」

威厳のあるお父さんが怒鳴るのは、本当に恐ろしい。


そして翔太は挨拶をするタイミングを逃した。


「ごめんなさい。」

ただ、一言だけお父さんに謝り、そのまま家のなかへ連れていかれてしまった。


「大丈夫かな。」

俺と翔太は閉められた玄関を見ながら、そう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

優しい君と、つれない僕 shacci @shacci

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ